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2話 再会なんだが
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目を開けると、涙の浮かんだジト目という、大変珍しい表情をした一人の女性が立っていた。
ふわふわした亜麻色の髪を母性溢れる豊かな胸のあたりまで伸ばし、人間離れした整った顔立ちに翠玉の如き瞳。
ギリシャ神話に出て来るような白い布を体に巻きつけ、モデルが裸足で逃げ出すほど抜群のプロポーションを持った彼女に、俺は気負うことなく笑顔で話しかけた。
「久しぶり。アイネ」
「………………」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
なんて冗談を言おうとも思ったが、彼女の目を見てやめた。
その目には様々な感情が入り混じっていた。怒り、呆れ、後悔、そして――喜び。
暫くの沈黙の後、アイネは口をゆっくりと開いた。
「…………怒って……ない、ですか……?」
その声はまるで怒られるのを恐る子供のようで、俺は少し笑ってしまう。
怒ってないといえば嘘になる。
彼女が協力しなければ俺は元の世界に送り返されることは無かったし、次に会った時は泣くまで尻を叩いてやろうかとも思っていた。
だが、そんな怒りは彼女の顔を見て失せてしまった。だから俺は、彼女にこう告げる。
「また会えて嬉しいよ」
「うぅ……うわぁああーん! ア゛キトしゃぁーん!」
情けない顔をした女神は俺に飛びついて胸に顔を埋め、それから何十分もの間泣き続けた。
アイネが泣き止んで落ち着いた後、何故か俺は正座をしていた。
どこまでも白い空間が広がるこの場所は、座ってじっとしていると感覚がおかしくなりそうになる。
「まったく! だからアキトさんはですね――」
目の前で長々と説教をするのはさっきまで子供のように泣きじゃくっていたアイネである。
俺は優しく彼女の柔らかい髪を撫でながらあやしていたのに。
このまま好感度を稼ごうとしていただけなのに。
……どうしてこうなった。
押し付けられた胸に鼻の下を伸ばしていたのが悪かったのか。
それとも髪にさりげなく顔を近づけて匂いを嗅いでいたのが不味かったのか。
考えてみるが、原因は一向に分からない。
あ、ちなみに匂いは柑橘系のいい香りでした。
とにかく、このままでは話が進まない。
俺は彼女を怒らせないよう、そっと声をかける。
「あのー、アイネ? そろそろあの、話を進めて欲しいんだけど……」
「あの時も……あっ、はい」
彼女も自分がやるべきことを思い出したのか、少し顔を赤らめて説教を止めた。
コホンとわざとらしく咳をした後、佇まいを正して俺に向き直る。
「あの時はすみませんでした。また会えて本当に嬉しいです、アキトさん」
そう言ってニッコリと微笑んだ彼女は、まさに女神という言葉がふさわしかった。
俺が見惚れていることに気付いたのか、恥ずかしそうに俯く姿もグッドだ。
「そ、そんなに見つめないでくださいっ! ニヤニヤするのもダメです!」
「はいはい」
もう少し揶揄うのも楽しそうだったが、今怒らせるとまた説教タイムに突入してしまうので仕方なく諦める。
それにしても、この何気無いやりとりも本当に懐かしく感じる。
思えば一年も経っているのだ。
そう感じるのも当然かもしれない。
毎日のようにこの神界に入り浸り、アイネと楽しく会話していたのが何十年も前のことだったみたいだ。
アイネも最初は冷たかったんだよなぁ。
俺をまるで潰れたゴキブリを見るような目で見ていたのも今では考えられないことだ。
あの視線はヤバかった。心が折れるというか、新たな扉を開きそうになったぐらいに。
「……ふぅ。で、では、これから再び召喚されるアキトさんに一度、詳しい説明をしますね」
俺がそんなことを考えていることも露知らず、一度胸に手を当てて深呼吸し、落ち着いた彼女は再び口を開いた。
その時に手が胸に埋まったのを凝視してしまったのは仕方がない。
俺はこれから始まる楽しい異世界生活に気持ちが高揚するのを感じながら、その説明に耳を傾けたのだった。
…………ところでいつまで正座を続ければいいんだろう。
ふわふわした亜麻色の髪を母性溢れる豊かな胸のあたりまで伸ばし、人間離れした整った顔立ちに翠玉の如き瞳。
ギリシャ神話に出て来るような白い布を体に巻きつけ、モデルが裸足で逃げ出すほど抜群のプロポーションを持った彼女に、俺は気負うことなく笑顔で話しかけた。
「久しぶり。アイネ」
「………………」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
なんて冗談を言おうとも思ったが、彼女の目を見てやめた。
その目には様々な感情が入り混じっていた。怒り、呆れ、後悔、そして――喜び。
暫くの沈黙の後、アイネは口をゆっくりと開いた。
「…………怒って……ない、ですか……?」
その声はまるで怒られるのを恐る子供のようで、俺は少し笑ってしまう。
怒ってないといえば嘘になる。
彼女が協力しなければ俺は元の世界に送り返されることは無かったし、次に会った時は泣くまで尻を叩いてやろうかとも思っていた。
だが、そんな怒りは彼女の顔を見て失せてしまった。だから俺は、彼女にこう告げる。
「また会えて嬉しいよ」
「うぅ……うわぁああーん! ア゛キトしゃぁーん!」
情けない顔をした女神は俺に飛びついて胸に顔を埋め、それから何十分もの間泣き続けた。
アイネが泣き止んで落ち着いた後、何故か俺は正座をしていた。
どこまでも白い空間が広がるこの場所は、座ってじっとしていると感覚がおかしくなりそうになる。
「まったく! だからアキトさんはですね――」
目の前で長々と説教をするのはさっきまで子供のように泣きじゃくっていたアイネである。
俺は優しく彼女の柔らかい髪を撫でながらあやしていたのに。
このまま好感度を稼ごうとしていただけなのに。
……どうしてこうなった。
押し付けられた胸に鼻の下を伸ばしていたのが悪かったのか。
それとも髪にさりげなく顔を近づけて匂いを嗅いでいたのが不味かったのか。
考えてみるが、原因は一向に分からない。
あ、ちなみに匂いは柑橘系のいい香りでした。
とにかく、このままでは話が進まない。
俺は彼女を怒らせないよう、そっと声をかける。
「あのー、アイネ? そろそろあの、話を進めて欲しいんだけど……」
「あの時も……あっ、はい」
彼女も自分がやるべきことを思い出したのか、少し顔を赤らめて説教を止めた。
コホンとわざとらしく咳をした後、佇まいを正して俺に向き直る。
「あの時はすみませんでした。また会えて本当に嬉しいです、アキトさん」
そう言ってニッコリと微笑んだ彼女は、まさに女神という言葉がふさわしかった。
俺が見惚れていることに気付いたのか、恥ずかしそうに俯く姿もグッドだ。
「そ、そんなに見つめないでくださいっ! ニヤニヤするのもダメです!」
「はいはい」
もう少し揶揄うのも楽しそうだったが、今怒らせるとまた説教タイムに突入してしまうので仕方なく諦める。
それにしても、この何気無いやりとりも本当に懐かしく感じる。
思えば一年も経っているのだ。
そう感じるのも当然かもしれない。
毎日のようにこの神界に入り浸り、アイネと楽しく会話していたのが何十年も前のことだったみたいだ。
アイネも最初は冷たかったんだよなぁ。
俺をまるで潰れたゴキブリを見るような目で見ていたのも今では考えられないことだ。
あの視線はヤバかった。心が折れるというか、新たな扉を開きそうになったぐらいに。
「……ふぅ。で、では、これから再び召喚されるアキトさんに一度、詳しい説明をしますね」
俺がそんなことを考えていることも露知らず、一度胸に手を当てて深呼吸し、落ち着いた彼女は再び口を開いた。
その時に手が胸に埋まったのを凝視してしまったのは仕方がない。
俺はこれから始まる楽しい異世界生活に気持ちが高揚するのを感じながら、その説明に耳を傾けたのだった。
…………ところでいつまで正座を続ければいいんだろう。
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