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息子さんを僕にください 3
しおりを挟む──運命のドアが開く。
二人を出迎えたのは敬吾の母で、「お帰り」と言いながら息子を見た後逸に移る視線は、やや興味深げなものの疑問符や不審感のようなものは見られなかった。
敬吾が、初対面の人物と顔を合わせるときにする表情によく似ている。
ぐっと胸が詰まるような気持ちでそう考え、逸はぎゅっと顔を顰めた。
「あ──」
敬吾の声か、その母の声か分からないが誰かが何かを言ったのを掻き消す大きな音で、恐らくリビングであろう部屋のドアが勢いよく開く。
そしてその中から半身を飛び出させ、思いとどまったように急ブレーキを掛けた壮年の男性は明らかに「見つけた」というような視線で逸を射抜いた。
珍しい動物でも見るような、興味と驚きが入り混じったそれは一瞬で嬉しげになる。
「いらっしゃい!!!」
「お父さん……、待っててって言ったでしょ」
呆れたような、落ち着いた声。
やはり敬吾は母似らしい──と呆然と逸は考えていた。
「だって!だって!!」と騒ぐ父の姿は桜そのものだ。それでもドアから半分体を出しただけで我慢しているあたり、きっちり手綱は締められているらしい。
完全に置いて行かれている逸はただ呆然と三人の顔を──とりわけ、明らかにちらちらと自分に視線を寄越す敬吾の父の顔を見ていた。
「まあ上がりなさいよ」
「うん!早く!」
今度こそがっちりと自分を見てそう言われ、逸の混乱はついに自分の中だけに留めておけなくなる。
「あっ、あの……!」
そこで、敬吾が俯いていることに気づいた。
視界の端の端でも一瞬で分かる。
この人、笑ってる────。
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