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息子さんを僕にください 4
しおりを挟む────謀られた。
その肩の小さな震えでそう理解し、敬吾の両親の前であることも忘れて逸はぱんと顔を覆った。
「上がれよ、ほら」
そう言う敬吾はやはり笑っている。
かなり意地悪げに。
(くそぉ………)
赤くなった顔で少しだけ敬吾を横目に睨み、抗議は後にしようと気を取り直して逸は顔を上げた。
「初めまして、岩井……逸と申します。これ、気持ちばかりですが──」
「あらーありがとう!気を使わせちゃって」
「卵味噌も入ってる。あれ作ったのこいつ」
「ええっ本当!?ありがとうねー!」
「母さん!母さんっ!!いいから!上がってもらってよ!!!」
もはや地団駄でも踏み始めそうな父を、嬉しげに紙袋を眺める母はもしかしたらわざと無視しているのではと逸は思っていた──。
勧められるまま座布団に腰を下ろし、逸はやはり緊張していた。
どうやら自分の存在は認知されていたらしい、更に、どうやら好意的に受け入れてもらっているらしい──が。
それを差っ引いてもやはり、身も心も固くなってしまうのは仕方がない。
特に、きらきらした敬吾の父の目に晒されてしまうとなおさら。
敬吾の母がお茶の用意などしているうち、間断なくその子供のような瞳に観察されて逸はまともにそちらを見られない。
──が、尻込んでいる場合でもない。
(いやむしろ好機っ……!掴んでけ俺!!)
気力を振り絞ってそちらに向き直ると。
またも大きなドアの音と一緒に、きらきらの瞳は一組増えた。
「いっっっちーーーーいらっしゃいっ!!!」
「いたのかよ」
「そりゃいるでしょうよ!いっちーが結婚のご挨拶に来るんだよ!!もうやった?息子さんを僕に下さいってもうやった!!?」
「デリカシーのなさがすげーな」
運ばれてきたお茶をさっそく啜る敬吾の横で、逸はせっかく振り絞った気力を失い、顔を覆ってやや崩れ落ちる。
「まだだったんだ、ごめんごめん」などと言いつつ桜は父のお茶を奪って飲んでいる。
父はやはり逸への興味が強すぎて大して気にも気にしていないようだ。
そこへ気軽な様子で正志まで加わってきて、逸はもう居た堪れない。
そんな時に助け舟を出してくれるのも、結局敬吾だった。
「話の腰折れまくってるけど」
「はい……」
そこだけはパブロフの犬のように無意識に返事をし、逸は敬吾の方を見る。
「みんっなお前のこと知ってます」
「………………」
改めてそう言われると、これまた無意識にはたと桜を見てしまった逸を見て敬吾と正志は弾けるように爆笑した。
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