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飛んで火に入る酔っぱらい4

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「………………」
「…………?」

自身の先端に微かに触れた柔らかい感触に、逸は極限まで細めていた目を開いた。
そしてそのままそれ以上開かないところまでかっぴらいた。

ーー自分の股間の上に、敬吾の後頭部が。

「…………えっ?えっえっ!!?敬吾さ、うわだめだマジで出る、」

てらてらと濡れた逸の鈴口に、敬吾はごくわずか触れる程度に唇を落としてみた。
困らせたいといういたずら心は柄にもなくうきうきしてしまうほど大きいが、やはり初めても初めてである、少々怖気づいた。

が、逸の反応はそれを払拭して余りあった。
非常に楽しい。

唇で薄く食んで、恐る恐る舌先で触れてみる。
その途端にどろりとまた先走りがあふれた。

「ーーーっ敬吾さん……!出ちゃうから……!離してくださっ、いって!」

味や匂いは、緊張したほどには障りなかった。
ーー無論、仮に他の誰かのものだったならと考えるだにそれは絶対に御免こうむるがーー
それでもさすがにまだ口で受け止める勇気はない。
真上を覆うのはやめておいたがこのいたずらをやめる気は毛頭なく、敬吾は骨付き肉にでもかぶりつくように首を傾げて横から唇を当てた。
また逸がびくりと痙攣する。

さほど感度の良くないところだったか、逸は苦しげではあるが切羽詰まった様子はなく敬吾を見ていた。
快感の多寡はともかく、視界から来る興奮がとんでもないことになっている。目が回るようだった。
逸はもう半ば諦めたように目を閉じて呼吸だけをしていた。
敬吾はまたそれを楽しく観察している。

「いや……あのー、敬吾さん……」
「んー」

どこから繋がった「いや」なのかは不明だが、逸の口調は幾分落ち着いていた。
落ち着いたというか、諦めているというか。
敬吾が被験者でも眺める気持ちで平坦に答えると、逸は全く同じ表情、全く同じ声音で続けた。

「これ俺………いっ、ちゃっていいんですか?いいんですよね?」
「ひーよ」
「じゃああのティッシュ……………」
「それはらめ、っつーかお前が手ぇつかんでんらよ」
「あぁーーーもぉーーーその口調やめてくれませんかねぇーーーーー??」
「お前おもひろいな」

南京玉すだれでも披露しそうな逸の口上に笑いながらも敬吾はそれをやめない。
刻一刻と追い詰められていく逸の表情、呼吸、満喫するのが楽しくて仕方がなかった。

普段逸には傍若無人な振る舞いで翻弄されっぱなしだ。
毎度毎度余裕綽々で人の体を好き勝手して泡を食わせやがってと、敬吾は半ば仕返しのような気持ちでいる。
少しでも慌てさせられればと思っていたが、ここまで動転し、赤面するとは。

そんなことを考えながら敬吾が復讐に勤しんでいると、掴まれていた手首がふと軽くなった。
その直後、首を捻ってしまいそうなほど乱暴に顔を押しやられる。

ーー半ば視界を覆っている逸の手の影からさっきまで頭のあった方を横目に見ると、それは痛々しいほどに痙攣していた。
腹も激しく蠢いて、欠乏していた酸素を必死に取り込む。
逸の顔へと視線を振るとーーそれはそれは、生々しくも現実味がなく、濁った呼吸で喘いでいるのに表情は妙に耽美的で。
逸が疲れ果てたように頭を反らせると、筋骨が強調されて彫刻のようにも見えた。

(……見た目だけは良いんだよなあ)

険しい表情をしていると、特に。 
その表情が更にきつくしかめられ、バスケットボールのように逆手に広く掴まれた敬吾の顔を見やる。
その一瞬で敬吾に隈取とはと考えさせるような顔だった。
だが、険しいのは造形だけで瞳は妙に頼りなく揺れる。

「何してんですかもー!」
「なんだよ、見たかったのに。」
「何に目覚めてんですかあなたはー!!」

子供のようにきゃんきゃん吠える逸の手をどかして座り直すと、敬吾はまじまじその喉元を見た。
接触も快感もかなり、ぬるかったはずだか。

「飛びすぎじゃね」
「そりゃ飛びますよ!!もうー!!」

相も変わらず吠えながらティッシュの箱に逸が手を伸ばすと、その手を敬吾が突然掴む。
訝しげに逸が振り返ると、敬吾はぼんやりと妙に思慮深い表情をしていた。

「それさ」
「はい?」
「舐めさせてっつったらお前どうする?」
「ーーーーーーー」

ばくりと顎を開いたくるみ割り人形のような滑稽な表情に敬吾は破裂でもしたように大笑いした。
ひとしきりそうしていてどうにかこうにか呼吸も整った頃には、疲れ果てた顔をした逸がとっくに喉元を拭き取っていた。

「敬吾さん……相当酔ってるでしょ……………」
「そりゃ酔ってるよ」

素面だったらあんなことができたかどうか。

これまで見たことがないほどげんなりと項垂れている逸を、敬吾は楽しげに眺めていた。
半ば呆れているようにも見えるが落ち込んでもいるようで、でもほんの少しにやけてもいるような。

その顔をにやにやと舐めるように見つめながら撫でてやって、やや挑発的に敬吾が言う。

「怒ったのか?」
「…………………」

逸はむっと唇を尖らすが、素直なことに頬が赤くなっている。

「怒ってはないです」
「怒って、はー、ないです?」
「びっくりしすぎててわけ分かりません」

本心なのだろうなと思い、全面降伏とさえも見えるその馬鹿正直さに敬吾はからからと笑った。
逸が冷静だったなら、それこそ一も二も無く襲われても仕方がないような賭けをしてしまったと思う。矛盾はしているが。

それにしても、この男をからかうのはこんなにも楽しいことなのか。

「おっ前………、かわいいなあ」
「はいぃ?」
「可愛い」
「はあ。」
「アホで」
「ああー」

相も変わらずげんなりとした顔のまま、逸は間延びして抑揚のない返事をするのみである。
やはり敬吾は笑った。

「さて、どうする?シャワー浴びる?」

久方ぶりに逸の表情が動いた。
少々眉根を寄せ、今度はこちらが子供にでもなったようにふいと照れたような顔を背ける。

「シャワーは違うんだ。なんだよ」

わしわしと敬吾に頭を撫でられながら、逸はまた少々唇を尖らせた。

「んんーーーー?」

心底楽しそうな敬吾の声が気に食わない。
気に食わないが嬉しい。

「…………です」
「なに?聞こえない」
「けーごさんとしたいです」
「はいよく出来ました」

またわっさわっさと撫でられて頭を揺らされながら逸はそれが止まるのを待った。だいぶ長いこと。

そしてそれが止まっても、敬吾は壁にもたれたまま口を開かない。

「……………したいんですけどっ!」
「どうすっかな」

けだるく姿勢を崩し、楽しげに目を細めて笑っている敬吾は妖艶だった。
やっとまともにそう感じ取れるようになっていた。

その逸の雰囲気の変化を敬吾も感じ取る。
上がっていた口角が僅かに下がり、思慮深いような表情に変わると、逸も更に落ち着いた。
ごくりと息と生唾とを飲み下して気合を入れる。

「……あと、もっかい口で……っ勃たせてほしい、です」
「ふッ」

思わずというように敬吾が噴き出して肩を揺らした。

「お前……!おねだりかよ!」
「そそそそうですよ!だってさっきあんまり分かんなかったんですもん!味わえなかったー!」
「うるせえよ分かった分かった」

まだくつくつと笑いながら敬吾は逸の肩を叩く。
そうしてまた楽しげに、掬い上げるように逸の瞳を覗き込んだ。

「その代わり今度は絶対出すとこ見せろ」
「ええっ」
「じゃないきゃしなーい。金輪際」
「えっえっだってそしたら、敬吾さんは、」
「どうせあと一回でも二回でも勃つだろうが。お前早いし」
「はははや早くないですっ!!さっきのはだってー!!」
「別にいーよどっちでも、邪魔だから全部脱げ」
「うぅ……もー……」

逸が半泣きでうなだれている間、半端に尻に引っかかっているだけのズボンと下着を敬吾がずるりと引き下ろす。

「んわー!!」
「お前ほんと……人のことはさんざ好き勝手するくせに自分がされたら取り乱すよな……」

敬吾は半ば呆れつつ、ズボンを引かれた勢いで倒れ込んだ逸の膝をさっさと開かせた。
その脚の間に座り込んで中心をすくい上げると、前時代の文豪のように嘆いていた逸がぴたりと静止する。
その本体とは対照的に、そちらは敬吾の手の中で見る間に形を変えた。

「っふ……勃つの早いな」
「っそりゃそうです、よ……敬吾さんが……」
「……………」
「……俺の触って、」

ひとり言のようなそれを遠くに聞きながら、敬吾は頂礼のように頭を下げる。
現が遠くなるようだった。

「っーーーーー」

思わず目を瞑ってしまってから数秒、ゆめゆめ見逃してはならないと逸は恐る恐る目を開く。
こんなにも動転してしまうとは、自分でも思っていなかった。

妄想ならば何度もした、それはもう何度も何度も。

ただ、思い返せばそれは敬吾のことしか考えていなかったのだ。
恥ずかしがるだろうか、嫌がるだろうか、どんな表情で、どんな息遣いでとーー

それこそ何十通りと思い描いたのに、そんなものはなんの緩衝材にもならないほど目の前の敬吾は鮮烈に艶めかしく、自分といえばこの様だ。
嬉しいわ、情けないわ戸惑うわ、それでも鼓動はお構いなしに加速するわで逸はまた思考を放棄しつつあった。

絵画でも眺める気持ちでただ敬吾を見ていると、自分の血管に沿っていたその唇がふと笑う。

「……今度はちょっと余裕だな」

言われて初めて自覚した。
確かに興奮はしているが、それは何というか、圧倒的な大自然でも目の当たりにした時の畏怖のような高揚のような、どこか澄んだ色を含んでいた。

「ーーあ、いや……すみません、もう、見惚れちゃって……」
「えぇ?」
「敬吾さん……めちゃくちゃ綺麗で」
「はぁ?」
「こんなことさせちゃっていいのかな?っていう」
「やっぱお前目ん玉いかれてんな」

やや体を起こして吐き出すようにそう言いながら、敬吾は相当に雑な手つきで完全に立ち上がっている逸のそれを擦り上げていた。
まさに片手間である。

それすら鈍く感じてしまうほど、やはり逸は敬吾にばかり集中していた。

「扱かれながら真顔ってシュールすぎるだろ、怖い」
「はっ………」
「お前どの辺弱いんだよ、今度は無反応すぎて分かんねーよ」
「えぇっと……敬吾さんにされてるってなったらもうどこだろうと一緒ですヤバイです」

はいはいとでも言いたげにため息をついて、敬吾がまた頭を沈める。
と、その根本にくちづけて一直線に、先端まで舐め上げた。

「ーーーー!!!」

足の先からつむじまで、目に見えそうなほど逸の肌が全身粟立つ。
先ほどまでの緩やかな快感とは段違いだった。
そのまま鎌首の括れを執拗に舐められ、逸は両手で口をふさいだ。

やりようは当然ながら拙い。
逸の反応見たさに躍起になってはいるが、敬吾の原動力はそれだけだ。必要以上のいやらしさも技術もない。それが逸にはたまらなかった。

ついさっきまではある種清廉で整っていた鼓動が、一気に汚れて乱れていく。
あれほど、芸術品のように見えていた敬吾が、今度は肉々しく妖艶に見える。

「っやばい……敬吾さん……、俺今日、ひどいかも、」

敬吾がちらりと逸を見上げた。

ーー正気でいられるかどうか。
心底そう思った。




「敬吾さん……、ちょっと、これ舐めて……」
「……?」

逸の中指を差し出され、敬吾は素直にそれを含んだ。
少々判断力が危うくなってきている。
もう一本指を増やされても、かすかに苦しげにしただけで特に拒絶もしない。
とろりとそれが抜き取られた後はまた、逸のものに唇を戻した。

その敬吾の撓った腰椎に、逸の薬指がつと立つ。
腰回りとの曲線とズボンの僅かな隙間に濡れた中指が分け入って、その先の谷間をなぞった。

「っ…………、」

敬吾は微かに身を固くしたが、嫌がらない。
にやけてしまいながら逸はゆっくりと指先を飲み込ませた。

「んーーーーー、………」

切なく哭かれ、明らかに快感に顔を歪められて逸はまた大きく理性が崩れる思いがした。
空いた手で敬吾のバックルを外す。
一方でより深く指を埋めると敬吾は苦しげに細かな声を零した。
指が乾いてしまわないうちにと性急にもう一本後を追わせると、敬吾が首を仰け反らせる。
口元から糸が引いた。
逸はもはや何も考えられない。

「や……っ逸、っちょっ、痛……」
「ごめんなさい……」

逸への奉仕も忘れ、敬吾はしばしそのまま肩を竦めて耐えていた。
その間顔の近くでぎゅっと握り込まれたままで、逸としては実は少々辛い。

その敬吾がほっと吐息を逃し、逸の指も余裕を持って動かせるようになる。
ぞくぞくと快感が寄せてきて、敬吾の表情が弛緩する。
その顔がまた逸を急き立てた。

「……敬吾さん……、」
「ん……」
「……ちょっと、咥えて欲しい、です」
「んっ?」

若干正気に戻ったようで敬吾は躊躇った。

「ーーっもう、入れたくて」

きつく眉根を寄せた逸の顔と手の中で脈打っているそれとを交互に見、敬吾は口の端を湿りをくれる。

「……先っぽだけ」

その険しい顔で無理に笑い、逸がおどけて言う。
敬吾も溶けてしまいそうな顔をなんとか笑わせた。

「……アゴやばそう」

冗談めかしてそう言うと、意を決して敬吾はかぷりとそれを口に含んだ。

「……敬吾さん、舌引っ込めると……苦しくなりますよ、」

自分の声が、心臓の音に掻き消されて聞こえない。
必死な様子の敬吾には聞こえていたらしく、素直に伸びた舌が裏筋を撫でる。

「っ……………」

そうしてもう少し深く、半ばほどまで口に含んだ敬吾の後頭部をそっと抑えた。

ーーそのまま押し込むと敬吾の顔が苦しげに歪む。
狭くなってくる咥内に更に捩じ込み、喉を抉じ開けるような感触ーー。

そのまま、直接喉の奥へと思い切り吐精した。




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