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祝福と憧憬 2
しおりを挟む「えーーー、俺行っていいんですか!」
「えっ嘘、嬉しいパターンかよ」
「そりゃあ」
感激しているらしい逸を少々疲れたような目で見上げ、うっかり承諾の返信をしないようその手首を押し下げて敬吾は溜め息をついた。
「だってお前金掛かるんだぞ、祝儀とか」
「もちろん」
「スーツとか靴は?あんのか成長期」
「あー」
「そもそも誰も知り合いいねーぞ?俺親族席なんだから」
「ああーー………そうか………」
「な、呼ばれたって困るだろ。そこまで考えて呼べっつーんだよ、だから俺んとこで話止めてたのに」
「うぅん……敬吾さんさすがとしか…………」
心底うんざりしたような顔をしている敬吾を労うような気持ちになりつつ、逸は敬吾に押しとどめられている携帯をどうしたものかと考えていた。
そこへ数件連続しての着信音が鳴り、敬吾のこめかみがぴりりと引き攣る。
「見せろ」
「あー」
『どお?どお???』
『実はあたしの結婚式なんだよね!ぜひいっちゃんにも来てほしくて!(>ω<)』
『ずーっと敬吾に言ってたんだけどダメとか言われてさー!』
『考えてみたら敬吾の許可なんかいらないよねって思って☆』
敬吾の半眼がぎらりと底光りし、因縁をつける極道者のような凶悪さで逸を見上げる。
「いるよなあ?」
「やべぇ敬吾さん今の濡れます」
「俺がもう休み取ってるしセール中だからバイト休めないっぽいって返事しとけ」
「はぁい……」
敬吾の気遣いと采配は惚れ直すばかりだが、逸は少々残念な気持ちにもなっていた。
桜が大事な式に自分を呼んでくれたことが嬉しいし、できればその場で祝福したい。
が、やはり場違いではあるか。
「完全に『誰?』ってなりますもんねー、俺」
「なるな。そもそも新婦友人で男呼ぶって無いだろあんまり。グループで呼ぶとかならまだしも」
「あー、そうかも」
失礼の無いよう考え考え、逸はゆっくり返信を打つ。
「あ、でも敬吾さん俺のご祝儀預けていっすか、よろしくお伝え下さい」
「あー!いらんって!こーゆーことになるから言わなきゃいいのにもーーー」
「えーでも」
「俺が受け取んなかったって言っとくから。ほんっとすまん……考え無しすぎなんだよあいつはー……」
ぱふんと顔に手を当てる敬吾に、逸は慌てたようにぱたぱたと手を振った。
「いやいや、お祝いはさせて下さい、俺お姉さん大好きですし。式やるの知らなくたって河野さんのことは知ってたんだからいずれ包んでましたって」
「いや、うーーん………」
意外と短気で竹を割ったような気性の敬吾には珍しく、敬吾は暫しそうして唸っていた。
とは言っても一分足らずだが。
「じゃあ直前になったら預かるから。今受け取って忘れてもこえーし」
「はい、お願いします」
「はー…………」
本当に、気苦労の多い人だ。
「……敬吾さん」
「んー」
「お茶でも飲みましょっか」
「──ん?うん」
疲れたように眉間を揉む敬吾を、逸は内心微笑ましい気持ちで眺めていた。
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