こっち向いてください

もなか

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「あ。岩居くんお疲れー」
「あれ、九条……、あれ?木曜いたっけ?」
「ううん、葵ちゃん迎えに来ただけ」
「おぉー」
「岩居くんも一緒に行かない?飯」
「まさか」
「いやいや、他にも何人かいるよ」
「ああ、なんだ」

とは言え。

「今日はやめとくよ」
「そっか」

九条は腕時計を見つつ、そのまま敬吾の向かいに腰を下ろした。

「葵ちゃんとはどうなんですか最近」
「んー?うんー、可愛いね」
「……本人に言えよ?それ」

以前葵から相談を受けたことを思い出しつつ、敬吾は苦笑する。

「いやーーそれはなかなかね!」
「俺九条ってそういうの言いまくる方だと思ってた」
「人をそんなタラシみたいに」
「いやいや……なんかこうさ、下心ない感じで、髪切ったんだ似合うねーとかいつもネイル可愛いねーとか言ってるイメージ」
「あー、そういうのはだって挨拶と一緒じゃない」
「こわっ!!なんだよそれ!!」
「なんとも思ってないから言えるのよ」
「いや、まぁ分かるけど………」

さすがに心配になってしまい、余計な口出しまでしそうになったところで敬吾の携帯が鳴った。
逸からである。
敬吾が断る前に、九条はどうぞと掌を出していた。

「ごめん。もしもし?」
『──あ、お疲れ様です……』

どう聞いても声が暗い。
用件を半ば理解してしまう。

「お疲れ。どうした?」
『すいません敬吾さん、やっぱり今日無理そうで………』
「そうか……」
『ほんとごめんなさい』
「いや俺に謝んなくてもいいって」

自覚している以上に声に出てしまったらしい。
大変なのは逸の方だ、手綱を握りしめるように敬吾は姿勢を正した。

「それよりお前がほんと大丈夫かよ、最近寝てんのか?」
『うん……大丈夫ですよ。今日はマジでがっかりしましたけど』
「まあ……つーか間に合うのか?ほんとに」
『どうなんでしょうねぇ?』

やや自嘲気味な笑い声が痛々しい。
思わず眉根を寄せ、敬吾は額を擦った。
その雰囲気を察してか、逸の苦笑から棘が抜ける。

『……多分大丈夫ですよ、今日はなんか逆に作業進みまくってて。明日新しい荷物とかケース来る前に進めるとこは進めようって感じなんです』
「そうか……」
『です。あ、じゃあ──すいません、また』
「うん、じゃあな」

また慌ただしく通話が切れる。
ゆっくりと携帯を下ろし、しばし見つめてから敬吾は九条に苦笑いだけ向けておいた。

「やっぱ飯行くー?」
「あはは、やめとく」

気遣いは嬉しいが、一人だけ楽しむ気にもなれない。

それに──

「買い物して帰るわ」
「そっか」

テイクアウトのコーヒーは飲みきらずに持って立ち上がり、九条に手を上げて帰路につく。


今日は、起きて待っておこう。

そう思っていた。





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