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後藤の苦悩 4
しおりを挟む形ばかり連絡してみると──断るだろうと思っていたが、敬吾は意外なことに「へー、分かった」と言う簡素な返事を寄越した。
現地集合ということになり、逸と後藤のほうが先に店に入る。
後藤は早くもアルコールを注文していた。
「あー、待った!俺ウーロン茶で!」
「えー、飲まねーの?こないだ大丈夫だったんでしょ?」
「敬吾さんに怒られる……」
「なんなの君らはー」
心底怯えているらしい逸に苦笑しながら、後藤はメニューを眺めて話を本題まで巻き戻す。
「──んで、ヤナね。あの後も偶然顔合わせること多くてさ。たまに飲みに行ったりとかしてたんだけど、まあいい子なんだわ」
「ぽいですね」
逸もメニューを眺めつつ、意識を半分に分けて話を聞く。
メニュー以外の半分では、柳田のあの子うさぎのような顔を思い浮かべていた。
「俺別に引きずってるわけじゃないんだけどさ、軽く遊ぶんならともかくあんないかにも真面目そうなのに手ぇ出す気分にはまだなんなくてさー。もー「すれてませんっ!」て感じだからなおさらね」
「ああ……」
「あっち本当はノンケらしいし。──あ、敬吾来た」
逸の意識を全て引き込んだところで、ちょうどドリンクを持った店員に案内され敬吾がやって来る。
「お疲れー」
「お疲れ様ですー」
「お疲れ。あ、俺もビールください」
「かしこまりました」
逸の隣にすとんと腰を下ろした敬吾は既に腹を抱えていた。
「なんか頼んだ?すげー腹減った俺」
「あはは!悪いな、岩井くん借りちゃって」
「そーーゆーーことじゃねえ。」
敬吾が大仰に後藤を睨めつけ、皆わらわらと食事を見繕い始めて、結局話はそこで終わってしまった。
「あ、そういえばさ」
霧散していた話をまた形にしたのは、計らずも何も知らない敬吾だった。
「お前あの後あの人に会った?柳田さん」
とは言え大して気にかけているようでもなく、ジョッキを傾けながらごく気軽に聞いてみただけらしい。
逸の方がひっかかったようでしたり顔で笑っていて、後藤はそれを不思議そうに見ていた。
「あーうん。告られました」
「えっ!!!」
「あっはっはっ!」
逸は慌てて箸を置き、咽かけながら弾けたように笑う。
「嘘だろ?ほんとに!!?」
「だよな!敬吾も分かんなかったよな!?いや、ほんとなんだけどさ」
「ほらね?言ったでしょ、鈍すぎなんですって二人とも」
「えぇーー………」
まだひいひい言っている逸に、年長二人は言葉を飲む他ない。
「ええー……いやお前が変なとこ鋭すぎなんだよ」
「んなことありませんって、もー!」
一頻り笑い終えて溜め息をつき、ドリンクを飲む逸を敬吾は忌々しげに睨めつけていた。
が、チップの良く分からないあの賭けを受けていなくて良かったと思い直し、辛いチキンとビールをわざとらしく楽しむことにする。
「あーなんか気に食わねえー」
「拗ねないでくださいよー」
「あ、すいませーんビールお代わりでー」
「あ、2つでー」
「もぉー………」
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