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後藤の苦悩 7

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「いでっ────、いてーーーー……!」

撓みきっていた逸の声がやっと引き締まり、それが半泣きに震えていても敬吾の表情は緩まなかった。
それどころかつい今さっき張った逸の頭にもう一撃食らわせる。
それはもう爽やかな、素晴らしいスナップの効いた快音がした。

「いっ………………!」
「うるせえよ!」
「すっすみませっ………」
「おーまーえーはーー本っ当によーーー!!!」

痛みと後悔で目を回している逸を見下し、敬吾は憤りに大きく肩を上下させている。

この男は、まだそんなことを言うのか!

「お前なあ、分かってんのか!俺はもともと!ホモじゃ!ねーーんだよ!!」
「はっはいっ、重々──」
「それがっ、下になるとか!股開くとか!分かってんのかどーゆーことか!!」
「す……っすみませんごめんなさいっ!」

雷に怯える子供のように頭を庇って体を丸める逸を、敬吾は深く息を吐きながら静かに見下ろした。
が、当然それは怒りが収まったわけではなく、濃く鋭く収束されただけなのだと分かっているから逸もまともに見上げられずにいる。

「……下りろ」
「えっ?」
 
聞き返すも、敬吾は二度言ってくれない。
意味も分からず逸がおずおずとソファから降りて膝を抱えると、敬吾はそれに伸し掛かった。
未だ表情は般若さながらでそれはもう恐ろしいが、それでも少し嬉しくなってしまう辺り逸の悲しいところである。

「上しかしたことないって意味ではお前も一緒だろうが。少しは俺の心境を理解しろ」
「………………、──────えっ────」

深海のような深く静かな声でそう言われ、逸はその冷たさに背中に震えが走るのをまざまざと感じていた。

「え……………っえっえっ、敬吾さん待って待って、無理です無理です俺ガッチガチにタチなんですっっ」
「うるせえな。本来は俺だってそうだろうが」
「そっそうなんですけど!すみませんっ」

天蓋のように逸に伸し掛かっている敬吾の表情は未だ静かに苛立ち、逆光になったシーリングライトが濃く影を落としていて余計に恐ろしく見える。
生娘のように胸の前で両手を握りしめている逸を見下ろし、敬吾はまた冷たく言った。

「するわけないだろ。そこまで横暴じゃねえ」

暗に自分は横暴だと言われてしまった逸は沈黙する。
その間敬吾は逸の腿を思いきり持ち上げ開いて腹に付けた。

「ぉわーーーー!!?」
「お前体柔らかいな」

逸が必死で床を掴む間、どうでも良さそうに言い捨てて敬吾は開かせた股に腰を押し付ける。
──普段は敬吾にさせているその格好が、あまりに無防備で、恥ずかしくて、なんと言うか征服されているような、屈服するような────

一気に赤面した逸を見下ろし、敬吾は口の端を歪めて笑った。
そのまま乱暴に腰から体を揺すぶられ、逸は反射的に顔を隠す。

「なに顔隠してんだよ!」
「だって!だってぇー!!」
「だってじゃねえよ俺これされてんだぞ!おら後ろ向けっ」
「ええ…………!」

僅かに感じる被虐心のせいか、逸はろくな抵抗も出来ずぐるりと裏返されてしまった。
反射的に肘を突くも、それも敬吾が許さない。

「なにしてんだよ、ケツだけ上げろ」
「えぇっーー!」

薄いラグに片頬を付けさせ膝だけを立てさせると、敬吾はまた持ち上げた尻に腰を当てて腹立ち紛れに揺すぶった。

「こうだから!!」
「わーーーっ、もう……もう、ごめんなさいーー!!!」

また大きく舌打ちをし、横尻を思い切り叩いてやってから敬吾は逸の腰を解放した。
逸はさながら乱暴でもされたように力なく崩れ落ちる。

「分かったかよ!俺の気持ちがっ」

逸は言葉もなく、頬を擦り下ろすようにこくこくと頷いた。

「なんかもうずったずたになんだろ!」

プライドと言うほどのものでもない、意識したことはないが普通は傷つくはずのない何かが。

また逸は頷いた。
とてもとてもよく分かる。
致される側なのだと自覚させられる気持ち。
全てを預けて、隠すことも守ることも出来ない無力感、それを、この人ならばと許容してしまう面映さ。

「それが今更女の子可愛いわー程度でフラフラできるかっつーの!するとしたらそれもう本気の時だろそれ!」
「おっしゃるとおりです………」
「だからっつって他の男なんか普通に気持ち悪いだけだしよ!人をこんだけのマイノリティにしといててめーは良くあんなこと言えんな!!」
「はい……申し訳ございません………………」

未だ崩折れている逸を叱り飛ばし、「いつまでそうやってんだ」ととどめを刺して敬吾はまた水を取りに立った。
リビングに戻ると逸が正座している。

「ほんとすみませんでした………」
「はいはい」

コップを受け取りテーブルに置くと、逸はそのまま膝で立って敬吾の腰に抱きついた。

「なんだよ!」
「っだって、俺以外ダメとかっ…………」
「……………?……………いや違、なんか違うっそんな言い方はしてないだろ!!………」
「敬吾さぁん………!!」
「──っああもう!やっぱ酔っ払ってんなお前は!!」
「うぅ……すきですー」
「分ぁかったからもう!離せ!!」


当然ではあるが、

──逸が敬吾を離すことは、無かった。











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