207 / 345
後藤の苦悩 7
しおりを挟む「いでっ────、いてーーーー……!」
撓みきっていた逸の声がやっと引き締まり、それが半泣きに震えていても敬吾の表情は緩まなかった。
それどころかつい今さっき張った逸の頭にもう一撃食らわせる。
それはもう爽やかな、素晴らしいスナップの効いた快音がした。
「いっ………………!」
「うるせえよ!」
「すっすみませっ………」
「おーまーえーはーー本っ当によーーー!!!」
痛みと後悔で目を回している逸を見下し、敬吾は憤りに大きく肩を上下させている。
この男は、まだそんなことを言うのか!
「お前なあ、分かってんのか!俺はもともと!ホモじゃ!ねーーんだよ!!」
「はっはいっ、重々──」
「それがっ、下になるとか!股開くとか!分かってんのかどーゆーことか!!」
「す……っすみませんごめんなさいっ!」
雷に怯える子供のように頭を庇って体を丸める逸を、敬吾は深く息を吐きながら静かに見下ろした。
が、当然それは怒りが収まったわけではなく、濃く鋭く収束されただけなのだと分かっているから逸もまともに見上げられずにいる。
「……下りろ」
「えっ?」
聞き返すも、敬吾は二度言ってくれない。
意味も分からず逸がおずおずとソファから降りて膝を抱えると、敬吾はそれに伸し掛かった。
未だ表情は般若さながらでそれはもう恐ろしいが、それでも少し嬉しくなってしまう辺り逸の悲しいところである。
「上しかしたことないって意味ではお前も一緒だろうが。少しは俺の心境を理解しろ」
「………………、──────えっ────」
深海のような深く静かな声でそう言われ、逸はその冷たさに背中に震えが走るのをまざまざと感じていた。
「え……………っえっえっ、敬吾さん待って待って、無理です無理です俺ガッチガチにタチなんですっっ」
「うるせえな。本来は俺だってそうだろうが」
「そっそうなんですけど!すみませんっ」
天蓋のように逸に伸し掛かっている敬吾の表情は未だ静かに苛立ち、逆光になったシーリングライトが濃く影を落としていて余計に恐ろしく見える。
生娘のように胸の前で両手を握りしめている逸を見下ろし、敬吾はまた冷たく言った。
「するわけないだろ。そこまで横暴じゃねえ」
暗に自分は横暴だと言われてしまった逸は沈黙する。
その間敬吾は逸の腿を思いきり持ち上げ開いて腹に付けた。
「ぉわーーーー!!?」
「お前体柔らかいな」
逸が必死で床を掴む間、どうでも良さそうに言い捨てて敬吾は開かせた股に腰を押し付ける。
──普段は敬吾にさせているその格好が、あまりに無防備で、恥ずかしくて、なんと言うか征服されているような、屈服するような────
一気に赤面した逸を見下ろし、敬吾は口の端を歪めて笑った。
そのまま乱暴に腰から体を揺すぶられ、逸は反射的に顔を隠す。
「なに顔隠してんだよ!」
「だって!だってぇー!!」
「だってじゃねえよ俺これされてんだぞ!おら後ろ向けっ」
「ええ…………!」
僅かに感じる被虐心のせいか、逸はろくな抵抗も出来ずぐるりと裏返されてしまった。
反射的に肘を突くも、それも敬吾が許さない。
「なにしてんだよ、ケツだけ上げろ」
「えぇっーー!」
薄いラグに片頬を付けさせ膝だけを立てさせると、敬吾はまた持ち上げた尻に腰を当てて腹立ち紛れに揺すぶった。
「こうだから!!」
「わーーーっ、もう……もう、ごめんなさいーー!!!」
また大きく舌打ちをし、横尻を思い切り叩いてやってから敬吾は逸の腰を解放した。
逸はさながら乱暴でもされたように力なく崩れ落ちる。
「分かったかよ!俺の気持ちがっ」
逸は言葉もなく、頬を擦り下ろすようにこくこくと頷いた。
「なんかもうずったずたになんだろ!」
プライドと言うほどのものでもない、意識したことはないが普通は傷つくはずのない何かが。
また逸は頷いた。
とてもとてもよく分かる。
致される側なのだと自覚させられる気持ち。
全てを預けて、隠すことも守ることも出来ない無力感、それを、この人ならばと許容してしまう面映さ。
「それが今更女の子可愛いわー程度でフラフラできるかっつーの!するとしたらそれもう本気の時だろそれ!」
「おっしゃるとおりです………」
「だからっつって他の男なんか普通に気持ち悪いだけだしよ!人をこんだけのマイノリティにしといててめーは良くあんなこと言えんな!!」
「はい……申し訳ございません………………」
未だ崩折れている逸を叱り飛ばし、「いつまでそうやってんだ」ととどめを刺して敬吾はまた水を取りに立った。
リビングに戻ると逸が正座している。
「ほんとすみませんでした………」
「はいはい」
コップを受け取りテーブルに置くと、逸はそのまま膝で立って敬吾の腰に抱きついた。
「なんだよ!」
「っだって、俺以外ダメとかっ…………」
「……………?……………いや違、なんか違うっそんな言い方はしてないだろ!!………」
「敬吾さぁん………!!」
「──っああもう!やっぱ酔っ払ってんなお前は!!」
「うぅ……すきですー」
「分ぁかったからもう!離せ!!」
当然ではあるが、
──逸が敬吾を離すことは、無かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる