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もなか

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後藤の躊躇 2

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「これに関してはどこでも跳ねなかったみたいです。でもこちらはあんまり残ってませんね」
「もう、さっさと割り引いて処分です。そもそも初回少なめでリピートで回す予定だったんで」
「その方が良いですね!あんまり張って取ってた店舗さんだと来年まで寝かせるようですけど」
「すげぇー」
「それで、冬から春にかけてなんですけど。最近こういうのの流れ来てて……」

思った以上に柳田は話しやすく、商談とも言えない雑談だけでも気づくと30分以上経っていた。

「現状では厳しいと思うんですけど、短期でも広く展開できるんであればかなりオススメです。既に手を付けてる店舗さんもあるんで、次回水野がお邪魔する際にでもその統計とか出させて検討して頂ければ」
「なるほど、了解です」
「要点だけですが、ざっくりとこんな感じですね!」
「やー、柳田さん凄いですね……めちゃめちゃわかり易かったです」
「あはは!ありがとうございます」

照れたように笑いながら柳田はコーヒーを飲む。
仕事用の表情が崩れると、先日の話が思い出された。

「ところで、話めちゃめちゃ変わるんですけど」
「はい?」
「後藤のことって──」
「…………!」

不思議そうに瞬いていた柳田の顔が、綺麗に真っ赤になる。

しまった、恥をかかせたか。

不用意を悔いながら慌てて敬吾は手を振った。

「すみません!不躾で──」
「いっいえいえ!びっくりしただけです、大丈夫」

真っ赤な顔を冷やしたいのか、氷ギリギリまでコーヒーを流し込む柳田がなんだか痛々しい。
逸の話では後藤は返事を保留していると言うことだったが、一体この人の何を拒んでいるのだろう。

「──すみません。なんか親近感みたいなもの感じてしまって」
「へっ?」
「この間、後藤と俺の他にもう一人いたでしょ?俺あれと付き合ってて……いや俺は普通にストレートなんですけど」
「ぅえ………?」
「立ち位置的に柳田さんと一緒だな、と思って」

敬吾の浮かべる笑みは、苦々しいが柔らかかった。
それを見て柳田もいくらか落ち着く。

「そ、そうなんですか……!?」

落ち着いて改めて驚いた。
目の前の敬吾は全くもってそういう風には見えなかったから。
相手の──逸に関しては、そう言われればそう見えなくもないような、という気がするが。

「そうなんです。自分でも意味分かんねーなって思ってますけど」

まだ苦々しいが可笑しそうに敬吾が笑うと、柳田もやっと表情を緩ませる。

「──ですよね。俺も訳分かりません」

この見た目だが恋愛対象は完全に女性だ。
それどころか少々嫌な目に遭ったこともあるので、自分が男相手にそういう意味で好意を抱くなどかけらも思ったことはない。

だが──

「助けられたんでしたっけ。後藤に」
「そーなんです……」

──あれはもう、そんな過去の不快感を全て雪いでくれるような、むしろ火種にするような、そんな体験だった。

「なにしたんですか?あいつ」
「えーっと」

そう言われると頭を抱えてしまう。
掛け値なしに褒められることではない、暴力沙汰だったから。


「………………制圧してました」
「………………」


敬吾のこめかみがひくついたのは気のせいだろうか。

そうであって欲しいと、柳田は小さくなりながら思っていた。






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