213 / 345
後藤の躊躇 6
しおりを挟む「──俺は、後藤くんの率直な気持ちが知りたい」
「………………」
「なんて言うか……好きか嫌い以外のことはもう理由にならないと言うか」
「なるほど」
素直に頷く後藤に、柳田は照れるやら恥ずかしいやらで真っ赤になる。
子供のように拳でも振りかねない勢いで、あわあわと二の句を継いだ。
「な……っなんかごめんねしつこくて!こういうのももう、嫌だったら重いしうざいし無理って言われたらそれで普通に諦めるから!俺が傷つくとかは考えなくていいから!!」
「え?いやそれは無理」
「えっ」
「思ってないから。なにそれ優しい嘘的な?」
半ば呆れたように、すげない顔でゆるゆると手を振りながら後藤は半眼に困惑する柳田を窘めた。
「んな難しいこと出来ねえって俺単細胞なんだからー」
「えっ?」
──そうすると。
赤らんだままぱたぱたと瞬き、柳田は呆然と後藤を見つめる。
今時の若いもんは、とでも言い出しそうだった後藤がふと微笑んで、柳田はまたくっきりと真っ赤になった。
「……ったく。結構な曲者だな……」
──零れ落ちそうなほどに見開かれた瞳が潤んで歪んでいく。
だがまだ浮かれるな、と柳田が眉根に力を込めたと同時に、鼻を抓まれた。
「むーーー!!?」
「あーあーほんっとに…………嫌いだって言っときゃよかったなあ」
「んぅー!!?」
呻いている柳田の鼻を放してやって、後藤はその頭をわしわしと掻き回す。
鼻を擦りながらすっかり眉を下げた柳田は、ぐっと水を飲み干す後藤を不安げに見ていた。
「………あ、あのー」
「んん」
考えてみれば惚れただの腫れただのにきちんと始まりを持ったことはない。
「──とりあえずお試し期間な。やっぱ無理って思ったら言って」
苦くはあるが柔らかく笑っている後藤が右手を差し出す。
その表情に胸が高鳴り、もしかしたらそれが響いているかもしれない手の平を、柳田も差し出した。
「そ、それは無いです」
「それを確かめるんだろ」
握り合わせた手を離し、後藤はそのまま軽く手を上げ柳田は大事そうに握り込む。
すぐにやってきた店員に後藤が何事か言っているが、柳田には聞こえなかった。
「ビールでいいよな?」
「えっ!あ、うんっ」
すぐに運ばれてきたジョッキを無言で軽く当て、柳田は一口飲み下すが後藤は飲みきる気かと思うほど豪快に、しかし淡々と呷る。
「ごっ後藤くん!!?」
「もー飲むぞー、すみませんお代わり!」
後藤の酒の強さは知っているがいくらなんでもスタートから走りすぎだ。
しかしやはり後藤は顔色一つ変えないので、柳田はひやひやと見守る程度しかできない。
そのうち肴や追加のビールが続々届き、良く呑み良く食べる後藤はいつも通りの様子だ。
──だが。
今この人は自分の恋人、なのだろうか。
じわりと顔に熱を感じて酒でそれをごまかしつつ、それでもやはり後藤を追う視線を止められない。
さすがの後藤もそれに気づいた。
「なんか付いてる?」
「い、いや……あの」
「?」
わざわざ箸を置くものの、正面から後藤に見据えられるとそれを受けきれない。
不本意にも俯いてしまいながら、柳田はようよう口を開く。
「──後藤くん、俺のこと嫌いではないんだよね」
「……へ?うん」
「……て、ことは、あの」
──好きだということでいいのだろうか。
それを言うのはさすがに厚かましいか、しかしもしそうなら聞きたくて聞きたくて、柳田は一言で言えば浮かれていた。
少し笑ってしまい、後藤はジョッキを上げてみせる。
「それを言おーと思って飲んでんですけど」
「!!」
「だから頼むからヤナもすげー飲んで。無駄だとは思うけどさ」
「は、はいっ」
──とは言ったものの。
後藤の言ったとおり、それは全くの無駄に終わった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる