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後藤の躊躇 6

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「──俺は、後藤くんの率直な気持ちが知りたい」
「………………」
「なんて言うか……好きか嫌い以外のことはもう理由にならないと言うか」
「なるほど」

素直に頷く後藤に、柳田は照れるやら恥ずかしいやらで真っ赤になる。
子供のように拳でも振りかねない勢いで、あわあわと二の句を継いだ。

「な……っなんかごめんねしつこくて!こういうのももう、嫌だったら重いしうざいし無理って言われたらそれで普通に諦めるから!俺が傷つくとかは考えなくていいから!!」
「え?いやそれは無理」
「えっ」
「思ってないから。なにそれ優しい嘘的な?」

半ば呆れたように、すげない顔でゆるゆると手を振りながら後藤は半眼に困惑する柳田を窘めた。

「んな難しいこと出来ねえって俺単細胞なんだからー」
「えっ?」

──そうすると。

赤らんだままぱたぱたと瞬き、柳田は呆然と後藤を見つめる。

今時の若いもんは、とでも言い出しそうだった後藤がふと微笑んで、柳田はまたくっきりと真っ赤になった。


「……ったく。結構な曲者だな……」


──零れ落ちそうなほどに見開かれた瞳が潤んで歪んでいく。
だがまだ浮かれるな、と柳田が眉根に力を込めたと同時に、鼻を抓まれた。

「むーーー!!?」
「あーあーほんっとに…………嫌いだって言っときゃよかったなあ」
「んぅー!!?」

呻いている柳田の鼻を放してやって、後藤はその頭をわしわしと掻き回す。

鼻を擦りながらすっかり眉を下げた柳田は、ぐっと水を飲み干す後藤を不安げに見ていた。

「………あ、あのー」
「んん」

考えてみれば惚れただの腫れただのにきちんと始まりを持ったことはない。

「──とりあえずお試し期間な。やっぱ無理って思ったら言って」

苦くはあるが柔らかく笑っている後藤が右手を差し出す。
その表情に胸が高鳴り、もしかしたらそれが響いているかもしれない手の平を、柳田も差し出した。

「そ、それは無いです」
「それを確かめるんだろ」

握り合わせた手を離し、後藤はそのまま軽く手を上げ柳田は大事そうに握り込む。
すぐにやってきた店員に後藤が何事か言っているが、柳田には聞こえなかった。

「ビールでいいよな?」
「えっ!あ、うんっ」

すぐに運ばれてきたジョッキを無言で軽く当て、柳田は一口飲み下すが後藤は飲みきる気かと思うほど豪快に、しかし淡々と呷る。

「ごっ後藤くん!!?」
「もー飲むぞー、すみませんお代わり!」

後藤の酒の強さは知っているがいくらなんでもスタートから走りすぎだ。
しかしやはり後藤は顔色一つ変えないので、柳田はひやひやと見守る程度しかできない。

そのうち肴や追加のビールが続々届き、良く呑み良く食べる後藤はいつも通りの様子だ。

──だが。

今この人は自分の恋人、なのだろうか。

じわりと顔に熱を感じて酒でそれをごまかしつつ、それでもやはり後藤を追う視線を止められない。
さすがの後藤もそれに気づいた。

「なんか付いてる?」
「い、いや……あの」
「?」

わざわざ箸を置くものの、正面から後藤に見据えられるとそれを受けきれない。
不本意にも俯いてしまいながら、柳田はようよう口を開く。

「──後藤くん、俺のこと嫌いではないんだよね」
「……へ?うん」
「……て、ことは、あの」

──好きだということでいいのだろうか。

それを言うのはさすがに厚かましいか、しかしもしそうなら聞きたくて聞きたくて、柳田は一言で言えば浮かれていた。

少し笑ってしまい、後藤はジョッキを上げてみせる。

「それを言おーと思って飲んでんですけど」
「!!」
「だから頼むからヤナもすげー飲んで。無駄だとは思うけどさ」
「は、はいっ」


──とは言ったものの。


後藤の言ったとおり、それは全くの無駄に終わった。





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