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TrashWorks 5
しおりを挟む──ご苦労なことだ。
柄にもなく意地の悪い、何にでも文句をつける年寄りのようなことを考えて逸は頭をひとつ振った。
いくらなんでも根性が悪すぎる。
ここのところよく目にする小さな影は、本当に花の精か小鳥のように可憐だった。
誰にでも笑いかけるのであろう瞳は、自分の目の届くところにいると特に気にせずにはいられないほどに輝いて、相槌ひとつ、頷きひとつも全てが特別仕様に誂えられている。
──あんな風に可愛らしくはなくとも、きっと自分もそうだったのだろう。
だからこそ嫌になる、そして無碍に出来ない、けれど本当はやめて欲しい。
──が、自分にどうこうできるものではない。
厳密に言えばできなくはないが、自分の器の小ささを露呈して呆れられる結果になりそうで。
そんな、やはり矮小なことを考えて、逸はとりあえず口を噤んでおいた。
──その押し黙った逸が眺めているのは例に漏れず敬吾だった。
大きなビニールのショップ袋の中から服を取り出してはタグを切っている。
「あー助かったー、毎度毎度服買うのめんどくせえんだよなあ。これでしばらく悩まなくて済む」
「敬吾さん似たような服ばっか着ますもんね。スタイルいいのにもったいない」
「お前に言われると嫌味にしか聞こえねー」
そうは言うものの、当面の厄介ごとから開放された敬吾は上機嫌である。
せっかくクーポンも頂いたしと訪れてみると、栗屋は心底嬉しげに出迎えてくれた。
そして例のカーディガンを勧めてくれ、またそれが敬吾の趣味にもよく合っていて、接客の雰囲気も「自分が照れ屋な方だから」と控えめで気が軽い。
そうなるとこちらの方から水も向けやすいし、栗屋も親身に的確に意見を返してくれて、結局敬吾はたっぷりひとシーズン越せてしまえるほど買い込んできたのだった。
それどころか、無難で着回しが効いて実用重視、と言う敬吾の希望をよく汲んでくれた栗屋は、ある程度季節に融通がきく、来年に持ち越しても野暮ったくならないものを勧めてくれたのでそう高い買い物でもなかったと思える。
自分以外の人間に敬吾を上機嫌にされてしまったことで、逸はややひねくれた顔をしている。
「良い買い物できてよかったですね」
「やーほんとだよ。行ってみてよかったー」
確かに、続々取り出されていく洋服は逸から見ても敬吾によく似合うだろうとは思うのだが。
「敬吾さん、俺が勧めた服着てくれたことないっすもんね」
「だってお前が選ぶのなんか派手なんだよ……」
「それとか敬吾さんにしたら派手じゃないすか!レザーじゃん!」
「他に持ってるもんと合わせれるやつ選んでくれたんだって……、負けてくれたし」
「そーですかっ」
「なんだおまえ」
分かりやすく拗ねて見せても、やはり機嫌の良い敬吾は怪訝そうに片眉を上げてみせただけでそれ以上追及する様子もない。
一度洗ったほうが良さそうなものをよっこらせと抱え上げて脱衣所へ行ってしまった。
敬吾がいなくなってしまったことで、拗ねている理由もなくなる。
尖らせていた唇から逸が力を抜いた頃、洗濯機は調子よくくるくると回り始めていた。
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