想えばいつも君を見ていた

霧氷

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協力者

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「…土沢って、思ったよりも頑固だね。」


日曜日の今日も、月曜日に行われる科学のテストの勉強の為に図書館に行く予定だ。


郵便局の前で、水品と待ち合わせをし、会話の過程から、告白をしてしまった。


それから、しばらく互いに沈黙の時間が流れるが、先に沈黙を破ったのは水品だった。


「水品…。」


「これだけ忠告してるのに、人の言うことが聞けないんだから…。」


水品は肩を落とし、呆れた視線を俺に向けてくる。


「何を言われても、気持ちは抑えられないよ…。」


「……そう。分かった…。」


「水品。」


「そういうことを考えられるんだから、テストも問題ないね。」


「へっ?」


「余裕なんだろ?」


「い、いや…。」


水品の様子に期待が生まれようとしたところ、現実に引き戻された。


「気持ちを抑えられないのは、仕方ないけど…目の前のことに集中した方がいい。」


「う、うん…。」


俺は、正論に頷くしかなかった。


ここで反論すれば、昨日の夜交わした約束の条件の難易度が上がるか、下手をすると無かったことになってしまう。


目先の十万より将来の百万と、どこかの商人が言っていたが、あながち外れではない。


俺は、余計なことは言わないことにした。


「そろそろ行くよ。早く集まった意味が無くなる。」


スマホを取り出し、時間を確認する、水品。


横目で見ると、画面には『8:18』と大きく表示されていた。


「途中、コンビニ寄るんだろ?」


「うん。」


俺と水品は、図書館に向かって歩き出した。





「水品、昨日貰った模擬テストの中に、一枚、意味分かんない問題なかった?」


俺は歩きながら、昨夜一番最後にやった意味不明なテストについての話題を振る。


「あった…癖が強い問題だった…。」


「解けた?」


「一応。でも、時間ギリギリだし、合っている自信が無い。」


水品も肩を落とす。


相当骨が折れる問題だったようだ。


「俺も、あのテストは金森委員長達に解説してもらいたいと思ってる。」


「だよな…俺、表だけやったけど、点数取れる気がしない。つーか、明日の本番で、あの問題が出たら、補修どころか、追試になる自信がある。」


「俺も…半分、合ってれば良い方…。」


「マジか…。」


「うん…。」


金森委員長や佐伯の次に科学が得意な水品が、こうまで言うのだ、俺に解けるわけが無いと改めて思った。



「あれ?」


途中、コンビニに寄って、飲み物という回復アイテムを手に入れ、図書館に行くと、ロータリーのベンチに二つの影があった。


金森委員長と佐伯だ。


流石は、学級委員コンビ。


誰よりも、早く来ていた。



「あっ、こっちこっち~!」


金森委員長が、俺達に気づき手を振る。


「おはよう、早いな。」


佐伯も読んでいた参考書をしまいながら言う。


「おはよう、二人とも、二人の方が早いよ。」


「おはよう…。」


水品は俺の隣で挨拶する。


「おはよう、水品君、土沢君。」


「一緒に来たんだな。」


「二人とも、方向一緒だったんだね。」


「うん。俺が三丁目で、水品が二丁目なんだ。」


「…。」


水品は、黙って俺の説明を聞いている。


「じゃぁ、水品君がよく行くパン屋さんも二丁目にあるの?」


「ある…。」


「テスト終わったら行きたいね。」


「うん…。」


金森委員長は、昨日聞いたパン屋の話を水品に振る。



「土沢。」


「ん?」


呼びながら手招きするので、俺は佐伯の近くに行く。


「やるじゃん。」


「えっ?」


急に褒められ、俺は目を丸くした。


「水品と一緒に来るなんて、少しは進展したのか?」


「……。」


俺は、瞬間冷却されたように動けなくなった。


先程よりも目を見開き、背筋は寒いのに顔は熱いという極寒地獄と灼熱地獄が一度に来たような状況が、今、俺の身に起こっている。


俺は、何も言えず、佐伯と目線を合わせているので、やっとだった。


いや、離したら負けなのだ。


口元に笑みを浮かべる佐伯には、やはり、何もかも見透かされているのだと、俺は理解した。


「まぁ、そんなに身構えるなよ。」


「?!」


どうやら、俺の考えは佐伯に、完全に読まれているようだ。


「そうは言ってもさ…。」


隣で話す水品と金森委員長を横目で見ながら、小声で言う。


佐伯相手に隠しても意味が無いと悟った俺は、力を抜いた。


言ってしまった方が楽だ、この場合。


「認めるのか?」


佐伯は意外そうな顔を浮かべなら問う。


「えっ?何が?」


「いや、土沢のことだから、知られたくなくて、誤魔化すと思ったんだ。」


佐伯の言うのは最もだ。昔の俺なら、恥ずかしくて誤魔化していただろう。


でも、


「佐伯に隠し通せる自信なんて、俺には無いよ。それに、佐伯は、その…ライバルじゃなから。」


「どうして、そう言い切れるんだ?」


「…水品を見る目が違う、から。」


これだけは分かる。俺と同じ、または似たような目で見ているのは、この中では山賀だけだ。


「なるほど。心底、ご執心なわけだ。」


佐伯も、金森委員長にスマホで店の情報を見せる水品を見ながら言う。


金森委員長の興奮して大きくなった声に、こちらの声は届いていないようだ。


「…(コクリ)。」


俺は、ゆっくりと頷いた。


「…そうか。まぁ、俺は邪魔をする気は無いから、安心しろ。」


「うん。ありがとう。」


「だが、土沢。俺はいいとして、ライバルが多いな…。」


「えっ?」


「……。」



佐伯は無言で、俺の後ろを指さした。


振り返ると、山賀と晋二が、こちらに向かって歩いて来るところだった。


「……。」


佐伯の指は、晋二を指しているんじゃない。


晋二の隣の山賀を指しているのだと、佐伯の目が物語っている。


佐伯も水品と山賀の関係に気づいているのか…どちらにしろ、賢者クラスの協力者の現れだ。





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