想えばいつも君を見ていた

霧氷

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説得

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「……。」

水品が、自分の行きたい所と俺の行きたい所と同じと言ったので、皆、顔を見合わせた。

「あぁ、き…。」

「何だ、水品も着物のお姉さん好きなのか?」

俺の声を掻き消して、晋二が水品に声を掛けた。

「えっ…好きって言うより、着物を着ている女性は素敵だと思う…。」

「だよなっ!あの色、艶、たまんねぇよっ!特に、花魁が煙草を吸うところとか、あぁ~煙草になりてぇ~!」

また、晋二の病気が始まった。

「確かに、美しい。仕草もさることながら、駆け引きや悠然と道中する姿は、何度テレビで観ても、心奪われる。」

皆が、微笑する中、水品は真面目に返した。

「水品、なかなか通だなっ!」

「!?…ごめん…。」

「何で、謝るんだよっ!美しいお姉さんに、心奪われたって、恥に思うことは無いんだぞ。」

「そうなの?」

「おぅ!男の性だ。」

「…。」

水品も安心したのか、息を吐いた。

「だから、行きたい所が被ったって気にするなよ。何なら、順番繰り上げて、二番目に行きたい所を言えばいいよ。
なっ、金森委員長。」

「そうだね。人気の観光地だから、被ることもあるよ。」

「でも、それじゃぁ、俺だけ、行きたい所、多くなっちゃう…。」

晋二と金森委員長が言うが、水品は気にして下を向いてしまった。

「水品、たまたまなんだから、そんなに気にするなよ。」

「だけど…。」

俺も、肩に手を置きたいのを耐えながら言うが、水品は相変わらずだ。

「そんなに深く考えるなよ。たまたま、土沢が先に言ったから、お前の分が繰り上げにするだけだろ。逆に、お前が先に言ってたら、土沢の分が繰り上げになるんだ。だから、そんなに気にするな。」

山賀が、机に肘をついて、下を向く水品の顔を覗き込むように言った。

「う、うん…。」

山賀に言われて、水品は漸く顔を上げた。

「……。」

俺の言葉で無く、山賀の言葉で顔を上げたので、正直面白くなかった。

この中で、俺が一番水品と親しいという自負はある。それなのに、金森委員長の言葉にも、下を向いていた水品が、山賀の言葉には顔を上げたのだ、

気分がいいわけがない。

俺は、未だに山賀の方を向いている水品の頭を見つめていた。

「土沢、水品の分を繰り上げしていいか?」
「えっ?」

いきなり佐伯が振って来たので、俺はすぐに反応することが出来なかった。

それによって、俺に皆の視線が集まる。

「土沢、いい?」

「!?」

水品は首を傾げて聞いてくる。

これは、水品の癖の一つ『小悪魔の誘い』。

勝手に名前をつけたが、破壊力は相変わらず抜群だ。

ちなみに、付加効果は、麻痺。

「い、いいよいいよ。水品、好きな所選んで。」

麻痺状態から抜け出した俺は、慌てて返した。

「…良かった…。」

水品は、息を吐くように、小さい声で言った。
「……。」
その視線に、俺は再び麻痺状態に陥る。

「さて、土沢の合意を得られたことで、水品、太秦映画村の次にどこに行きたいんだ?」

佐伯は、そんな俺の状態を見つつ、話を進めた。

「二番目は、伏見稲荷大社。」

「あぁ、あの鳥居で有名な場所だね。」

「あの千本鳥居は圧巻だろうから、一度見て見たいんだ。」

「うんうん。これで、全員出たね。」

「じゃぁ、地図で場所を確認するか。」


金森委員長と佐伯は、机の下から京都の中心街の地図を取り出した。

「えっと、場所は…。」

金森委員長は、彩様々な付箋を持ちながら、地図の上で視線をさ迷わせる。

「洛北に位置するのが、金森委員長の北野天満宮と佐伯の金閣寺、洛東に位置するのが、檜山の祇園ときょ、山賀の清水寺、洛西に位置するのが、土沢の太秦映画村、洛南に位置するのが、俺の伏見稲荷大社だよ。」

「あ、ありがとう…。」

水品があまりにもスラスラ言うので、金森委員長も驚いたが、すぐ礼を言った。

場所にそれぞれ付箋が貼られた。

言った人間が分かるように、色を分けていた。

金森委員長は白、佐伯は青、晋二が赤、山賀は黄緑、水品が黒みがかった紫、俺は黄色だ。

俺の付箋と水品の付箋が近いことに、俺は満足そうに眺めていた。



「あっ、ここに祇園と清水寺あったぞ。」

「こっちには、映画村が…。」

水品が教えたことで、俺達は自分がいる方角にある場所をすぐに探すことが出来た。

「位置を覚えているなんて、水品は、記憶力が良いんだな。」

貼られた付箋の位置を見て、佐伯は言った。

「そんなことない…。」

佐伯が褒めるが、水品は相変わらず否定的だ。


「水品君は、褒められるの苦手なんだね。」

「…ごめん…。」

「謝らなくていいよ。曹太が褒めるなんて、なかなか無いんだから、胸を張っていいんだよ。」


「おい、恵。余計なこと言うな。」

「だって、本当のことだし…。」


「はぁ~とりあえず、ルートをどうする?」

「場所、結構分かれたな。」

山賀は、付箋の位置を見ながら、頭を捻る。

「東西南北全部は、回れないよなぁ…。」

ここまで分かれると、すぐには決められない。

「じゃぁ、ルートは二つ目以降の候補を見てから決めることよう。」



金森委員長の提案に皆、首を縦に振った。




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