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1章 リリスのグリモワールの修復師
14 薔薇姫と執事
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「…リリス様」
その声は真っ暗な部屋に静かに響いた。
部屋にはぼんやりとした灯りが風で揺れ、照らされた影も一緒に揺れる。
部屋の中央には天蓋付きのベッドが置かれていて本来ならそこに静かに寝息をたてている存在がいるはずだった。
男はそちらを眺め溜息をつく。
「…はぁ、今頃どちらにいるのでしょうか。
私も連れて行ってくださればよかったのに」
そう言って静かに扉を閉じた。
「私は私の仕事をします」
規則正しい足音を響かせながら塔を降る。
闇色の燕尾服が翻った。
その日はいつも通り時間に起きた。
オプスキュリテ家の朝は遅いのでお昼にさしかかるぐらいでしょうか。
普通の屋敷で働いてるものなら驚くような時間だが、この家ではいつも通り。
夕刻から朝までの時間こそがこの屋敷の活動時間になる。
私はこのオプスキュリテ家で働いている使用人ミルキだ。
薔薇姫リリスお嬢様専属の使用人である。
お嬢様の目覚めの紅茶と朝食にあたる軽食を本邸の厨房から受け取り、巧妙に隠された道をとおり薔薇姫の塔へとお目覚めのお手伝いに向かう。
ドアを数回ノックしても普段から返事はないのでそのまま入って驚いた。
「…!」
すでに起きていたのだ。
お嬢様は基本的に目覚めが悪く、起こすのは苦労するわけなのだが、不思議なことにすでに目覚めて、窓辺で静かに立っていた。
瞳は虚ろで人形のガラス玉みたいだと思う。
表情はいつにもまして、不機嫌そうであり深い悲しみが表にでていた。
「おはようございます、リリスお嬢様。
珍しいですね」
「あら、ミルキ。
あなたが来るなんてもうそんな時間なのね」
「えぇ、紅茶とサンドイッチをご用意しておりますよ」
「いただくわ」
紅茶を運び、部屋にあるテーブルに並べる。
椅子を引くと、すとんとリリスお嬢様は座って優雅な仕草で紅茶を飲んだ。
ひとつひとつの動きが人形のようで本当に愛おしいお方であると心に満足感を感じながら、なぜ機嫌が悪いのかを尋ねることにした。
分かっていることだけれど。
「今日はなぜ、そのようなお顔で窓辺に立たれていたのですか?」
「知っているのではなくて?」
リリスお嬢様は淡白に答えた。
そう、私は分かっていた。
「そうですね。
分かっております」
こんなにもリリス様が不機嫌なのは、
今日リリス様の婚約者たる魔族が尋ねて来る日であるからだ。
「ねぇ、ミルキ。
私のお願い聞いてくれる?」
「リリス様の望むままに。
私はいつだって貴方様の専属の使用人でございます」
リリス様の願いを叶えるのは私の仕事。
他の者がどう思ってるか知らないが、私は他の誰でもないリリス様に使えている。
「私ね、この塔から飛び出して自由になりたいの。
外の世界にはきっと素敵なことがたくさんあるはずだわ」
毎日、繰り返し伝えられる自由への願い。
「婚約者の魔族と会わずに逃げるのですね」
「会ったことも無い婚約者。
それも魔族だなんて、恐ろしい」
震える身体を抱きしめるようにリリス様は腕を組む。
魔族を拒む恐怖心。
「リリス様が生まれた時から決められている運命から解き放たれて自由になりたいのですね」
「そうよ」
自由への渇望。
「自由をと幼少期の頃から望んでおられましたが、今日この日は最後の選択です」
リリス様の前に片膝をつき見上げ手を差し出す。
「逃げますか?逃げませんか?」
「逃げるわ」
リリスは迷わず執事ミルキの手を取った。
その願い全力でこのミルキが遂行してみせましょう。
その声は真っ暗な部屋に静かに響いた。
部屋にはぼんやりとした灯りが風で揺れ、照らされた影も一緒に揺れる。
部屋の中央には天蓋付きのベッドが置かれていて本来ならそこに静かに寝息をたてている存在がいるはずだった。
男はそちらを眺め溜息をつく。
「…はぁ、今頃どちらにいるのでしょうか。
私も連れて行ってくださればよかったのに」
そう言って静かに扉を閉じた。
「私は私の仕事をします」
規則正しい足音を響かせながら塔を降る。
闇色の燕尾服が翻った。
その日はいつも通り時間に起きた。
オプスキュリテ家の朝は遅いのでお昼にさしかかるぐらいでしょうか。
普通の屋敷で働いてるものなら驚くような時間だが、この家ではいつも通り。
夕刻から朝までの時間こそがこの屋敷の活動時間になる。
私はこのオプスキュリテ家で働いている使用人ミルキだ。
薔薇姫リリスお嬢様専属の使用人である。
お嬢様の目覚めの紅茶と朝食にあたる軽食を本邸の厨房から受け取り、巧妙に隠された道をとおり薔薇姫の塔へとお目覚めのお手伝いに向かう。
ドアを数回ノックしても普段から返事はないのでそのまま入って驚いた。
「…!」
すでに起きていたのだ。
お嬢様は基本的に目覚めが悪く、起こすのは苦労するわけなのだが、不思議なことにすでに目覚めて、窓辺で静かに立っていた。
瞳は虚ろで人形のガラス玉みたいだと思う。
表情はいつにもまして、不機嫌そうであり深い悲しみが表にでていた。
「おはようございます、リリスお嬢様。
珍しいですね」
「あら、ミルキ。
あなたが来るなんてもうそんな時間なのね」
「えぇ、紅茶とサンドイッチをご用意しておりますよ」
「いただくわ」
紅茶を運び、部屋にあるテーブルに並べる。
椅子を引くと、すとんとリリスお嬢様は座って優雅な仕草で紅茶を飲んだ。
ひとつひとつの動きが人形のようで本当に愛おしいお方であると心に満足感を感じながら、なぜ機嫌が悪いのかを尋ねることにした。
分かっていることだけれど。
「今日はなぜ、そのようなお顔で窓辺に立たれていたのですか?」
「知っているのではなくて?」
リリスお嬢様は淡白に答えた。
そう、私は分かっていた。
「そうですね。
分かっております」
こんなにもリリス様が不機嫌なのは、
今日リリス様の婚約者たる魔族が尋ねて来る日であるからだ。
「ねぇ、ミルキ。
私のお願い聞いてくれる?」
「リリス様の望むままに。
私はいつだって貴方様の専属の使用人でございます」
リリス様の願いを叶えるのは私の仕事。
他の者がどう思ってるか知らないが、私は他の誰でもないリリス様に使えている。
「私ね、この塔から飛び出して自由になりたいの。
外の世界にはきっと素敵なことがたくさんあるはずだわ」
毎日、繰り返し伝えられる自由への願い。
「婚約者の魔族と会わずに逃げるのですね」
「会ったことも無い婚約者。
それも魔族だなんて、恐ろしい」
震える身体を抱きしめるようにリリス様は腕を組む。
魔族を拒む恐怖心。
「リリス様が生まれた時から決められている運命から解き放たれて自由になりたいのですね」
「そうよ」
自由への渇望。
「自由をと幼少期の頃から望んでおられましたが、今日この日は最後の選択です」
リリス様の前に片膝をつき見上げ手を差し出す。
「逃げますか?逃げませんか?」
「逃げるわ」
リリスは迷わず執事ミルキの手を取った。
その願い全力でこのミルキが遂行してみせましょう。
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