グリモワールの修復師

アオキメル

文字の大きさ
38 / 111
1章 リリスのグリモワールの修復師

38 修復作業~アメリアの絵本~

しおりを挟む
メルヒに促され、裏表紙うらびょうしに書いてある魔術式を模写もしゃしていく。
メルヒがまいた白い粉のおかげで、とても見やすかった。
魔術式を完成させると式が起動し光だす。
今回は光っただけで特に何も起こらなかった。

「ありがとう」

メルヒが私が描いた模写を手に取る。
そのまま持っていき、簡易的にまとめた模写の束に加えた。
さっきは一斉に声が流れ出したので、身構えて耳を塞ぐ準備をする。
メルヒは先程と同じようにページをめくった。

「…」

開いたページの場所で正しく声流れだす。

「やはり、この式が大事なところだったみたいですね」
「そうだねぇ。
この魔術式を新しく付与するか同じ素材で描くかを考えないといけない」

メルヒはこちらを眺めて思案するように虚空を見る。

「リリスばかりに働かせて、ボクは何もしていないみたいだから、ちゃんと直してる姿を見せないといけないねぇ」

そういいながらメルヒは大きな白い羽で裏表紙に振りかけた白い粉を払い落とす。

「その粉はなんですか?」

私はキラキラと光る白い粉のことが気になった。
メルヒが小瓶をこちらに渡してくれる。
光にあてて瓶をかざすと透明な砂のように見えた。

「これは水晶の粉末だよ。
魔術式に反応して動いて留まる性質を持っているんだ。
特別な方法で作られた素材だよ。
リリスの目の方が便利だけど、見えないものを見るために使うものだねぇ」
「修復で使う、ほとんどの物が不思議で面白いです」

サラサラと瓶の中で砂を動かす。
たしかに、水晶を加工しているのか水晶とは違う色味が混ざって見える。

「石を砕いて絵の具を作ってるお店もフォルセの街にはあるよ。
リリスは見に行ったら楽しいかもしれないねぇ。
透明なガラス瓶に粉末になった石が色とりどりに並んでいるよ」
「それは、ぜひ見てみたいです」

絵の具屋さんの話をきいて興味が湧いてくる。

「そのうち行くといいよ。
そのフード被ってれば大丈夫だろうしねぇ」

メルヒは引き出しから綿棒にガラス皿、試し書き用の紙を取りだす。

「素材を合わせて修復することにしたから、リリスはよく見ておくんだよ。
そのうちやることになるかもしれない」
「分かりました」

メルヒの手元がよく見えるように作業机に近づく。
どんなふうに直すのが見るのが楽しみだ。

「まずは、これがなんのインクを使ってるか調べる。
そこまで古いものではないから、現在も使われているものとさほど変わらないはずだよ」

綿棒を手に取り、絵本の魔術式の部分に擦りつける。
綿棒に細かく黒い粉末のようなものが付着した。
付着した物をガラス皿に置く。

「あとは、この付着している粉末と新しく書き足すインクとの相性をみる。
正確に調べたかったら、顕微鏡や分析装置で調べることもあるけど。
これが一番やりやすいやり方だよ。
修復の世界では、非破壊調査が主だけれど、魔術式はサンプリングを取って見るのが一番良いとされてる。
魔術的なものが絡むと原則が変わるんだよねぇ」

難しい考え方だと思ったけれど、魔術式に限るならなんとなく理解できた。
オリジナルを傷つけないことが大切で古いものでなければ魔術式はあとづけも出来るものなんだ。

「今から実験をするのですよね。
なんだかわくわくします。
どんな反応が起きるのでしょうか」
「リリスはこういう実験的なのも好きなんだねぇ」

メルヒは三つ子達を眺めるような眼差しをこちらに向ける。

「わくわくしてる所悪いけれど、何も反応が起きないインクを選ぶのが今回の大事なところだよ」

その言葉に私は少しがっかりする。
派手な反応を期待していたからだ。
金色に光輝いたり、小爆発を起こしたり。

「そうですか…。
てっきり、合うやつは神々しく光り輝いたりするのかと思いました」
「そんなことが起きたら、使った時に何が起こるか怖いよ」

メルヒはそれぞれのガラス皿に少しずつインクをいれていく。
全部、あの絵本の魔術式と似た色味のインクだ。

「さて、欠片を浸してみようか」

それぞれのインクに何を入れたものか名称が書かれていた。

『夜』『月夜』『闇』

名称どおり、微妙に差がある黒が並べられている。

『夜』は紫がかった黒だ。
『月夜』は月に照らされた濃紺の黒
『闇』暗い黒そのもの

「この中のどれかが合うものだよ。
リリスが反応みたそうだから、あえて反応が出そうな色もあるけどねぇ」
「黒といっても、こんなに色味に差があるのですね」

インクを眺めるのも楽しそうだ。
お店に行けば並んでいるものを見れるのよね。
塔の中では知りえなかった面白そうなものばかりで、心が踊る。

「じゃあ、まずは『夜』から欠片をいれるねぇ」

メルヒがピンセットで綿棒に付着した小さな欠片をいれる。
ジュワという音をたてて紫色の煙がもくもく上がった。

「うわっ!」

上がった煙からパチパチパチと何かが弾ける音が聞こえる。

「ケホッ…」

近くで見ていたせいで煙を吸い込みそうになってしまい、眉を寄せる。

「煙いです」
「ふーん、こういう煙が出るんだねぇ。
なかなか派手な反応がだった。
サンプリングが少量でよかったねぇ」

メルヒも不思議そうに煙を眺める。

「普段はあんまり激しく反応出るものでやらないか面白いねぇ。
じゃあ、次は『闇』にいれるねぇ」

欠片が入るとキーンという高音が響き、欠片がコポコポと飲み込まれていく。
インクが伸縮しコウモリの形にまとまり、崩れて液体にもどっていく。

「これはどうなのです?
不思議な変化の仕方でしたけれど、反応が出てるからダメだねぇ」
「次を見てみようか、今度は『月夜』だよ」

欠片をそっとインクの中に沈める。
何の反応もなくインクは静かなままだった。

「これが絵本に使えるインクですね。
本当に何も反応ないです。
さっきまで面白かったのに…」

今までの反応が面白かったせいで、見劣りしてしまう。

「そうだねぇ。
退屈だろうけど、これが合うインクだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...