グリモワールの修復師

アオキメル

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1章 リリスのグリモワールの修復師

40 引渡し~アメリアの絵本~

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アメリアに絵本を持っていこうとドアに手をかけた時、ドアの向こうに人の気配を感じ、そのままドアを開ける。
 エメラルドが大きな荷物を二つ両腕に抱えていた。

「あっ、ありがとうございます」

 一人で持つには重そうなのに、平然と抱えて室内に入ってくる。
 中身は使い魔のカラスだと思っても、その力持ちには驚く。
 見た目は白い細腕のメイド姿の幼女だからだ。

「主様に荷物が届きました」

「ありがとう。
 持ってきてくれて助かるよ」

 メルヒがエメラルドに声をかける。
 エメラルドは机の上に箱を置いた。
 メルヒが箱に書かれている差出人を確認する。

「昨日、ルドルフの所で買ったものが届いたみたいだねぇ。
 リリスの道具も届いてるみたいだよ。
 開けてみようか」

「わぁ、それはみたいです。
 私の道具入れはどんな感じに仕上がったのでしょうか」

 私はアメリアの絵本を安全な机の上に置き、箱がよく見える位置に移動した。
 メルヒはナイフを取り出して、梱包を解いていく。
 箱を開けると昨日買ったものがびっちり詰まっていた。
 その中でくるくると巻物のように巻かれた赤い布が目にとまる。
 これだわ!と赤い布に手を伸ばした。
 中に道具がしまってあるようで、それなりに重さがあった。
 留めてある紐はゴールドで紐の先にはタッセルになっている。
 頭に思い描いてた通りの道具入れで、嬉しい。
 ルドルフさんの所に行った際はお礼を言おうと思った。

「道具入れ、開いて見てみたら?」

 じっとこちらを見ていたメルヒが、くすりと笑った。

「そうですね」

 タッセルで留めてある紐をくるくると解く。
 中はポケットになっていて、お店で買った赤薔薇シリーズの修復道具が行儀良くならんでいた。
 ハサミもナイフも装飾が美しくて使うのが勿体なくなる。

「私の修復道具…」

 なんだか特別な物を得たような満足感が広がる。
 ブローチ、修復道具と与えられてばかりだけれど…。

「気に入ったみたいでよかったねぇ」

 自分も嬉しいというようにメルヒはにっこりとこちらを見る。

「さて、今度こそアメリア様に絵本を届けに行こうか」

 メルヒに促され、アメリアの絵本を腕に抱える。
 エメラルドも静かに後ろに着いてきた。

「エメラルド」

 メルヒがエメラルドを呼び止める。

「アメリア様に絵本が完成したと先に行って伝えてくれるかな?
 執務室に案内して欲しい」

「はい、サファイアとルビーに伝えて案内させます」

「頼んだよ」

 エメラルドはカラスの姿になると廊下を飛んで去っていった。
 姿を変えるのを見る度に不思議に思う。

 ***

 執務室でアメリアが来るのを待つ。
 その間に屋敷に訪問者が来たようで、訪問者を知らせるベルが鳴った。
 また、依頼人だろうか?

「行かなくて大丈夫ですか?」

 ゆっくりとソファーに座っている。
 メルヒに尋ねる。

「大丈夫、三つ子達が対応してくれるよ。
 迷わずベルを慣らしてるし、ここによく来る人じゃないかな。
 今はアメリア様に絵本を渡さないといけないし、気にしなくても大丈夫だよ」

「そうですね。
 早く渡してあげたいです」

 二人で話していると部屋をノックする音が聞こえた。
 サファイアがドアを開けると、アメリアと目が合った。

「完成したのね」

 心から嬉しそうにアメリアはこちらを見て目を細める。

「ええ、こちらが修復した本になります。
 どうぞ、椅子に座って開いてみてください」

 アメリアは椅子に座り、優しい手つきで絵本を膝に持っていく。
 表紙に指をかけて、見返しをとおりすぎ扉を開いた。
 優しいあの声がタイトルを読み上げる。
 それを静かに目をつむりアメリアは聞いた。

「やっと会えたわ。
 もう、何十年も聞いていない母の声…」

 次のページを気が焦ったようで手つき怪しくめくる。
 次々にページをめくっていった。
 アメリアの耳に声が届く度に、思い出を振り返っているようだった。

「懐かしい…。
 小さな頃を鮮明に思い出すわ」

 瞳がキラキラと光っていく。
 ひとすじの雫が頬を伝った。
 アメリアはハンカチを取り出し、目元を、押さえる。


「ありがとう、直してくれて。
 もうこの声と会えないものと思っていたけど…。
 ここに来てよかったわ。
 母に会えた気がするの」

 慈しむように本を撫でる。
 その言葉は心からの感謝が込められていた。
 心が温かくなる。
 声を聞こえるように直せて良かった。
 アメリアの姿を見て私まで嬉しい気持ちになる。
 今日まで生きてきて、こうやって人に感謝されたことはない。

「こちらは修復カルテのコピーになります。
 この絵本に何かありましたら、いつでも持ってきてください。
 来た時と同様に妖精達に話せば案内してくれるかと思います。
 この屋敷に明確な用事がある者だけがこの場所に来ることが出来るので」

「そうやって、この場所に辿り着くのね。
 妖精達と我が家が親交深かったことに感謝するわ。
 そうでなくては、ここには来れなかったもの」

 大切そうに絵本を抱えてアメリアは頭を下げる。

「何か私に出来ることがあったら、王都にあるパーカー家を尋ねてくださいな。
 私はそこに住んでいますから。
 メルヒ様、リリスちゃん、ありがとう」

 そう言って、メルヒと私に握手をしてからアメリアは椅子から立ち上がった。

「名残惜しいけど、そろそろ帰るわね。
 家の者も心配しているかもしれないものね。
 絵本をこんなに早く直してくれて、助かったわ。
 今までの何十年も動かないまま眺めていたのが嘘のようよ」

「もう、帰られるのですね」
 私はもう少しゆっくりとしてから帰るのかと思ったがアメリアは家のことが心配そうだった。
 庭先にいたのに気づいたらこの場所にいたわけだから、確かに不安にもなる。

「玄関までリリスと一緒にお見送りします」

 既に帰り支度をしていたようでサファイアとルビーがアメリアの荷物を持ってきていた。
 アメリアは二人から荷物を受け取りそのまま一緒に玄関に向かう。
 扉を抜けると途中エメラルドに出会った。
 メルヒのもとへ近寄り、耳元で何かを囁く。
 メルヒはその言葉に、眉を寄せて怪訝な顔をした。
 なにかあったのだろうか?
 少し不安に感じたが、アメリアを玄関まで見送る。

「この先にある門のところで行きたい場所を言ってくだされば、家路につけます。
 迷子になってしまったら、妖精達頼んでみてください」

「ええ、分かったわ。
 メルヒ様、リリスちゃんお元気で」

 私達はそれに深くお辞儀をして見送る。
 アメリアは門へ向かって歩き出した。
 私はその背中を見送った。
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