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2章 リリスと闇の侯爵家
88 甘い花
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「フルール!」
「リリス!
早く逃げましょう」
逃げ出したリリスはフルールの姿を見つけ安堵のため息をついた。
リリスのことを追いかけてきてくれたみたいだ。
フルールと手を繋ぎ、夜のフォルセの街を二人で駆け抜ける。
夜の街灯が流れるように視界から現れては消えた。
背後から刺さるようなダミアンの視線が常に自分を見ているようなゾワゾワした感覚が襲ったが気の所為だと振り払う。
路地を曲がり、階段を風のように駆け下りていく。
ちょうど良いところに門があった。
フルールは魔法を使いメルヒの屋敷へとゲートを繋げる。
このまま足を止めることなく、階段を飛び越えゲートを抜けた。
スリルがありすぎる逃亡にメルヒの屋敷についたとたん、力が抜けて地面にへたり込んだ。
緊張感が溶けて体がずるりと重くなる。
荒い息を繰り返し、体が小刻みに震えた。
リリスは自分の体を抱きしめる。
優しい視線を感じ見上げた。
「大丈夫、リリス?
立てそう?」
「にゃー?」
リリスを心配そうに気遣ってくれているフルールとココの姿があった。
フルールはあんなに早く走っていたのに、息一つあがっていない。
私よりも華奢なはずなのに、どこにそんな体力があるのかとリリスは目を細めた。
「…少し、待って。
もう少し、したら、立てると思うから」
息も絶え絶えにフルールに返事をする。
フルールの頭に乗っていたココが降りてきてリリスの背中をスリスリと体で撫でた。
ココも心配してくれてるようで、その行為に心が温かくなってくる。
走ったせいか体は熱い。
「リリス。
無理しなくていいのよ?
そうだわ、私が運んであげる!」
フルールは何を思ったのかにっこり微笑み、リリスに背中を向け座り込んだ。
「えっと…」
リリスは困惑してフルールの背中を見つめる。
手がちょいちょい動き、背中に誘っている。
「ほら、リリス私に乗って!
おんぶしてあげるわ」
「えっ…」
リリスはフルールにおんぶされる自分の姿を浮かべ、顔が熱くなる。
あんな華奢すぎるフルールの背中に、リリスが乗ったら大変なことになると思った。
男の子だし密着しすぎるのも恥ずかしい。
おんぶっていったら…密着具合が違う。
気持ちは有難いけど、きっといろいろと無理だ。
慌ててリリスはフルールに手と首で拒否する。
「ダメよ。
フルールが重くて潰れてしまうわ」
「そんなことないわよ。
リリスは軽いから大丈夫」
フルールは自信満々の笑顔でリリスのことを乗せようとする。
「もう、しかたないわね。
勝手に運んじゃう」
フルールはリリスの腕を取り首にかけ無理やり地面からリリスをすくい上げた。
体重がフルールにかかる。
肌が重なって温もりが伝わってきた。
フルールの体温をこんなにも感じるということはリリスの体温や鼓動が伝わっているのかもしれない。
「うっ…」
恥ずかしくて、リリスは呻いた。
担がれてしまったから諦めて、素直に甘えてしまおうかとリリスは頬をフルールの背中に載せる。
落ち着く甘い花の香りがした。
思えば、息も絶え絶えで体も泥のように重い。
リリスはこんな状態なのに、フルールはなんともないように平気そうに歩き出した。
安定感のある歩調に安心する。
「やっぱり軽いわよ」
喋った声の近さにリリスはドキリとする。
やっぱりこの体制は恥ずかしく思ってしまう。
「…ありがとう、フルール。
落ち着いたら自分で歩くから」
「このまま屋敷まで運ぶわよ」
フルールはなんともないように微笑んだ。
リリスばかりどきどきしてなんだかずるいと思ってしまう。
歩き出したフルールの背中をリリスはぎゅっと落ちないように抱きしめた。
柔らかな夜風がリリスの肌を撫でる。
火照った頬には気持ちよいが、少し肌寒さを感じてマントが無いことを思い出した。
逃げるためとはいえ置いてきてしまったことが残念だ。
せっかく、メルヒとフルールが姿を隠す魔術式をかけてくれたものだったのに。
そういえば、ダミアンには全然効果を為していなかった。
あの兄はどうしてリリスのことを見つけることが出来たのだろう。
街の人たちには声も届かないくらい存在感がなかったはずなのに…。
あのような魔術道具を使ったとしても意味が無いなんて、また見つかるんじゃないかと不安になる。
この場所すらも見つかってしまったら、リリスはどこに行けばいいのだろうか。
しばらくは身を潜めて屋敷に引きこもって生活しないといけないとリリスは思った。
この場所だけは絶対に見つけられたくない。
リリスの心は不安で震えた。
フルールの背中の上で心地よい揺れに抱かれていると疲れからか、だんだん眠気が襲ってきた。
こんなにも不安なのに眠くなるなんておかしなことだけれど、やっぱり疲れてしまったのだと思う。
あの兄に拘束された時は生きた心地がしなかった。
不安で不安定で身の危険を感じた。
口付けされた頬が変な熱を持つ。
足にも手にもより力が入らなくなってきた。
「リリス?
眠くなっちゃった?
寝ても落とさないから大丈夫よ」
「…うん、なんだかとても眠くて。
ごめんね、フルール。
私、寝ちゃうかも…体がなんだか重いのよ…」
「ん?リリス?
大丈夫?
もしかして、熱でもあるんじゃない?
さっきからやたらと体が暖かいのだけど…」
寒気がしてるのに体が熱い。
強烈な眠気に襲われて、リリスは重い瞼を閉じた。
そのまま意識は暗闇に呑み込まれた。
「リリス!
早く逃げましょう」
逃げ出したリリスはフルールの姿を見つけ安堵のため息をついた。
リリスのことを追いかけてきてくれたみたいだ。
フルールと手を繋ぎ、夜のフォルセの街を二人で駆け抜ける。
夜の街灯が流れるように視界から現れては消えた。
背後から刺さるようなダミアンの視線が常に自分を見ているようなゾワゾワした感覚が襲ったが気の所為だと振り払う。
路地を曲がり、階段を風のように駆け下りていく。
ちょうど良いところに門があった。
フルールは魔法を使いメルヒの屋敷へとゲートを繋げる。
このまま足を止めることなく、階段を飛び越えゲートを抜けた。
スリルがありすぎる逃亡にメルヒの屋敷についたとたん、力が抜けて地面にへたり込んだ。
緊張感が溶けて体がずるりと重くなる。
荒い息を繰り返し、体が小刻みに震えた。
リリスは自分の体を抱きしめる。
優しい視線を感じ見上げた。
「大丈夫、リリス?
立てそう?」
「にゃー?」
リリスを心配そうに気遣ってくれているフルールとココの姿があった。
フルールはあんなに早く走っていたのに、息一つあがっていない。
私よりも華奢なはずなのに、どこにそんな体力があるのかとリリスは目を細めた。
「…少し、待って。
もう少し、したら、立てると思うから」
息も絶え絶えにフルールに返事をする。
フルールの頭に乗っていたココが降りてきてリリスの背中をスリスリと体で撫でた。
ココも心配してくれてるようで、その行為に心が温かくなってくる。
走ったせいか体は熱い。
「リリス。
無理しなくていいのよ?
そうだわ、私が運んであげる!」
フルールは何を思ったのかにっこり微笑み、リリスに背中を向け座り込んだ。
「えっと…」
リリスは困惑してフルールの背中を見つめる。
手がちょいちょい動き、背中に誘っている。
「ほら、リリス私に乗って!
おんぶしてあげるわ」
「えっ…」
リリスはフルールにおんぶされる自分の姿を浮かべ、顔が熱くなる。
あんな華奢すぎるフルールの背中に、リリスが乗ったら大変なことになると思った。
男の子だし密着しすぎるのも恥ずかしい。
おんぶっていったら…密着具合が違う。
気持ちは有難いけど、きっといろいろと無理だ。
慌ててリリスはフルールに手と首で拒否する。
「ダメよ。
フルールが重くて潰れてしまうわ」
「そんなことないわよ。
リリスは軽いから大丈夫」
フルールは自信満々の笑顔でリリスのことを乗せようとする。
「もう、しかたないわね。
勝手に運んじゃう」
フルールはリリスの腕を取り首にかけ無理やり地面からリリスをすくい上げた。
体重がフルールにかかる。
肌が重なって温もりが伝わってきた。
フルールの体温をこんなにも感じるということはリリスの体温や鼓動が伝わっているのかもしれない。
「うっ…」
恥ずかしくて、リリスは呻いた。
担がれてしまったから諦めて、素直に甘えてしまおうかとリリスは頬をフルールの背中に載せる。
落ち着く甘い花の香りがした。
思えば、息も絶え絶えで体も泥のように重い。
リリスはこんな状態なのに、フルールはなんともないように平気そうに歩き出した。
安定感のある歩調に安心する。
「やっぱり軽いわよ」
喋った声の近さにリリスはドキリとする。
やっぱりこの体制は恥ずかしく思ってしまう。
「…ありがとう、フルール。
落ち着いたら自分で歩くから」
「このまま屋敷まで運ぶわよ」
フルールはなんともないように微笑んだ。
リリスばかりどきどきしてなんだかずるいと思ってしまう。
歩き出したフルールの背中をリリスはぎゅっと落ちないように抱きしめた。
柔らかな夜風がリリスの肌を撫でる。
火照った頬には気持ちよいが、少し肌寒さを感じてマントが無いことを思い出した。
逃げるためとはいえ置いてきてしまったことが残念だ。
せっかく、メルヒとフルールが姿を隠す魔術式をかけてくれたものだったのに。
そういえば、ダミアンには全然効果を為していなかった。
あの兄はどうしてリリスのことを見つけることが出来たのだろう。
街の人たちには声も届かないくらい存在感がなかったはずなのに…。
あのような魔術道具を使ったとしても意味が無いなんて、また見つかるんじゃないかと不安になる。
この場所すらも見つかってしまったら、リリスはどこに行けばいいのだろうか。
しばらくは身を潜めて屋敷に引きこもって生活しないといけないとリリスは思った。
この場所だけは絶対に見つけられたくない。
リリスの心は不安で震えた。
フルールの背中の上で心地よい揺れに抱かれていると疲れからか、だんだん眠気が襲ってきた。
こんなにも不安なのに眠くなるなんておかしなことだけれど、やっぱり疲れてしまったのだと思う。
あの兄に拘束された時は生きた心地がしなかった。
不安で不安定で身の危険を感じた。
口付けされた頬が変な熱を持つ。
足にも手にもより力が入らなくなってきた。
「リリス?
眠くなっちゃった?
寝ても落とさないから大丈夫よ」
「…うん、なんだかとても眠くて。
ごめんね、フルール。
私、寝ちゃうかも…体がなんだか重いのよ…」
「ん?リリス?
大丈夫?
もしかして、熱でもあるんじゃない?
さっきからやたらと体が暖かいのだけど…」
寒気がしてるのに体が熱い。
強烈な眠気に襲われて、リリスは重い瞼を閉じた。
そのまま意識は暗闇に呑み込まれた。
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