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3章 リリスと魔族の王子様
106 目的
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魔族というものは恐ろしいものだ。
とダミアンお兄様やメルヒから教えられていたけれど、もしかしたらそれは大きな勘違いなのかもしれない。
現に自分が恐れられる存在に変わろうとしているわけだけど、リリスは他者を害そうなんて微塵も考えていない。
リリスは眠り、夢を見る度に魔族への恐ろしさがだんだんと分からなくなっていった。
紫色の花畑に居心地の良いお城の風景。
眺める景色はいつだって安やぎをくれた。
周りには優しく微笑みを浮かべる、人とは違う存在。
角があったり、赤い翼を持っていたり、とんがり耳だったり。
リリスの夢に出てくる彼らはいつだって、悪意を向けてくることは無かった。
姿形は恐ろしいと思うけど、そんなもの気にならないくらいに穏やかな表情をしている。
「…リリス様、もう午後ですよ」
優しいミルキの声を聞きながらぼんやりとそんな思考をしていた。
ミルキも魔族だが、こんなにも優しくリリスに接してくれている。
あの日、逃げ出してしまったわけだけど、リリスの婚約者の魔族とはどんな人物だったのだろうか。
もしかしたらとても素敵な人だったのかもしれない。
ミルキがこんなにも整った顔をしているから、その人達も美しい顔をしていたかも。
それに狼の魔族であるグレイ。
今のリリスは彼のことがちっとも怖いとは思えなかった。
ひどいことはされたけど命を脅かさせるようなことはされていない。
「ん…起きる」
ゆっくりと瞼を開いては閉じて、思考と視界の光を調整していく。
目を開ける頃には思考はすっきりとしていた。
「よし、修復の勉強しなくちゃ!」
バサッと勢いよく起き上がり、ほっぺを軽く叩いた。
人としてのリリスの思考を取り戻して、ミルキに手伝ってもらいながら準備をする。
部屋にはすでに昼食が運ばれていた。
ミルキに椅子を引かれて、着席し昼食を食べる。
なんだか、こうして二人でいると薔薇姫の塔の中みたいだ。
部屋から見える景色がそれを否定しているけど、静かな部屋にそう思ってしまう。
カラス達がいるときは賑やかでそう思うことはなかったのに。
「静かね…」
沈黙に耐えかねてリリスはミルキに話しかける。
「左様でございますね。
あの騒がしい雛がいないと、静かで過ごしやすいです」
ミルキを見れば本当に過ごしやすいというように、清々しい表情をしていた。
「私は賑やかな方が好きよ」
それにリリスは残念そうに告げる。
「リリス様は知らないから、そんなこと言えるのです。
リリス様が寝ている間に、あの雛達は何度もこの部屋に来ては騒がしくピーピー鳴いていたんですよ。
こちらには攻撃を食らわせてこようとしましたし。
返り討ちにしましたけど…。
せっかく休んでいるのに、リリス様が起きてしまうのではとヒヤヒヤしました」
「それはそれで、楽しそうだから起きればよかったかしら…。
寝てる時は賑やかだったのね。
あの子達は心配して来てくれたのでしょうね。
この屋敷に来てからの私はわりと病弱だから。
なんかもう、何かある度に倒れて寝てるの」
「それはリリス様のせいではありません。
あの狼の魔族のせいでしょう?
そいつに出会ったら思い知らせなくてはなりません」
いつもよりも美しい微笑みを浮かべるミルキに部屋の温度が少し下がった気がした。
こちらとしても報復は多少したいと思っていたのでこれでいいかもしれない。
「グレイのせいもあるけど…。
最近は違うでしょう。
私の…というか、薔薇姫の性質が影響してるって、もう分かっているのよ。
ずっと夢で見てるもの」
そう、リリスは夢を見るようになってから自分がどのような存在であるか、分かるようになっていた。
人じゃなくなることも、夢で見せられているものが過去の薔薇姫達の記憶であることも。
完全な記憶ではないが、魔族において自分がとても重要な存在であることに薄々気づいている。
人じゃなくなったら、その謎が全て解けるのかもしれない。
今のリリスにわかるのはこれだけだ。
断片的な物でしかない。
「リリス様が先代達の記憶に苦しまれているのは、私も心苦しく思っております。
ですが、今まで全ての薔薇姫が耐えた道です。
何も望まなければ解けなかったのに、動かしてしまったのはリリス様、あなたですよ」
いたわるような眼差しを向けるが、厳しい言葉をリリスに投げかけてくる。
「ミルキは初めから知っていたのでしょう。
私の中に何かあるって。
教えてくれてたら、よかったのに。
ミルキに似た人にも夢でよく会うわ。
あなたかなり長生きなのね」
「教えても分からないものは、受け入れられないものですよ。
自分の身に起きて、やっと理解するものですからね。
だから、これでよかったのです。
おや、私ことを夢で見てくれるのですね」
嬉しそうにミルキは表情を崩した。
思いがけない表情にカトラリーを落としそうになる。
そういう顔をさせたかった訳ではなく、ミルキがどのような存在であるか詳しく話が聞きたかったのだけど。
「大丈夫ですよ、リリス様。
これ以上、強くなりたいとか、心から何かを望みたいとか必死すぎる願いをその身に抱かなければ、これ以上悪くなることはありません。
その症状は、いずれ落ち着きますよ。
リリス様は楽しいことを見つけたくて外に飛び出したのですから楽しいことをなさってください。
好きなこと、やりたいこと見つけたのでしょう?」
その言葉に何も言えなくなってしまう。
そうだ、私は修復師になるために勉強したいのだった。
今後の自分のことも考えなくてはいけないが、ご飯を食べたら今度こそ工房に向かわなくては行けない。
難しいことは頭の隅にやっておこう。
気分の悪さは堪えるけれど…。
なんでも知ってるミルキが言うのだから、きっと大丈夫なはず。
「そうだったわ。
楽しいことを見つけたくて外に出たのでした。
やりたいことみつけたのだから、頑張らなくてはいけないわね」
リリスはカトラリーを置き、食事を終えた。
修復道具と自分で作った魔術書を持って部屋を出た。
とダミアンお兄様やメルヒから教えられていたけれど、もしかしたらそれは大きな勘違いなのかもしれない。
現に自分が恐れられる存在に変わろうとしているわけだけど、リリスは他者を害そうなんて微塵も考えていない。
リリスは眠り、夢を見る度に魔族への恐ろしさがだんだんと分からなくなっていった。
紫色の花畑に居心地の良いお城の風景。
眺める景色はいつだって安やぎをくれた。
周りには優しく微笑みを浮かべる、人とは違う存在。
角があったり、赤い翼を持っていたり、とんがり耳だったり。
リリスの夢に出てくる彼らはいつだって、悪意を向けてくることは無かった。
姿形は恐ろしいと思うけど、そんなもの気にならないくらいに穏やかな表情をしている。
「…リリス様、もう午後ですよ」
優しいミルキの声を聞きながらぼんやりとそんな思考をしていた。
ミルキも魔族だが、こんなにも優しくリリスに接してくれている。
あの日、逃げ出してしまったわけだけど、リリスの婚約者の魔族とはどんな人物だったのだろうか。
もしかしたらとても素敵な人だったのかもしれない。
ミルキがこんなにも整った顔をしているから、その人達も美しい顔をしていたかも。
それに狼の魔族であるグレイ。
今のリリスは彼のことがちっとも怖いとは思えなかった。
ひどいことはされたけど命を脅かさせるようなことはされていない。
「ん…起きる」
ゆっくりと瞼を開いては閉じて、思考と視界の光を調整していく。
目を開ける頃には思考はすっきりとしていた。
「よし、修復の勉強しなくちゃ!」
バサッと勢いよく起き上がり、ほっぺを軽く叩いた。
人としてのリリスの思考を取り戻して、ミルキに手伝ってもらいながら準備をする。
部屋にはすでに昼食が運ばれていた。
ミルキに椅子を引かれて、着席し昼食を食べる。
なんだか、こうして二人でいると薔薇姫の塔の中みたいだ。
部屋から見える景色がそれを否定しているけど、静かな部屋にそう思ってしまう。
カラス達がいるときは賑やかでそう思うことはなかったのに。
「静かね…」
沈黙に耐えかねてリリスはミルキに話しかける。
「左様でございますね。
あの騒がしい雛がいないと、静かで過ごしやすいです」
ミルキを見れば本当に過ごしやすいというように、清々しい表情をしていた。
「私は賑やかな方が好きよ」
それにリリスは残念そうに告げる。
「リリス様は知らないから、そんなこと言えるのです。
リリス様が寝ている間に、あの雛達は何度もこの部屋に来ては騒がしくピーピー鳴いていたんですよ。
こちらには攻撃を食らわせてこようとしましたし。
返り討ちにしましたけど…。
せっかく休んでいるのに、リリス様が起きてしまうのではとヒヤヒヤしました」
「それはそれで、楽しそうだから起きればよかったかしら…。
寝てる時は賑やかだったのね。
あの子達は心配して来てくれたのでしょうね。
この屋敷に来てからの私はわりと病弱だから。
なんかもう、何かある度に倒れて寝てるの」
「それはリリス様のせいではありません。
あの狼の魔族のせいでしょう?
そいつに出会ったら思い知らせなくてはなりません」
いつもよりも美しい微笑みを浮かべるミルキに部屋の温度が少し下がった気がした。
こちらとしても報復は多少したいと思っていたのでこれでいいかもしれない。
「グレイのせいもあるけど…。
最近は違うでしょう。
私の…というか、薔薇姫の性質が影響してるって、もう分かっているのよ。
ずっと夢で見てるもの」
そう、リリスは夢を見るようになってから自分がどのような存在であるか、分かるようになっていた。
人じゃなくなることも、夢で見せられているものが過去の薔薇姫達の記憶であることも。
完全な記憶ではないが、魔族において自分がとても重要な存在であることに薄々気づいている。
人じゃなくなったら、その謎が全て解けるのかもしれない。
今のリリスにわかるのはこれだけだ。
断片的な物でしかない。
「リリス様が先代達の記憶に苦しまれているのは、私も心苦しく思っております。
ですが、今まで全ての薔薇姫が耐えた道です。
何も望まなければ解けなかったのに、動かしてしまったのはリリス様、あなたですよ」
いたわるような眼差しを向けるが、厳しい言葉をリリスに投げかけてくる。
「ミルキは初めから知っていたのでしょう。
私の中に何かあるって。
教えてくれてたら、よかったのに。
ミルキに似た人にも夢でよく会うわ。
あなたかなり長生きなのね」
「教えても分からないものは、受け入れられないものですよ。
自分の身に起きて、やっと理解するものですからね。
だから、これでよかったのです。
おや、私ことを夢で見てくれるのですね」
嬉しそうにミルキは表情を崩した。
思いがけない表情にカトラリーを落としそうになる。
そういう顔をさせたかった訳ではなく、ミルキがどのような存在であるか詳しく話が聞きたかったのだけど。
「大丈夫ですよ、リリス様。
これ以上、強くなりたいとか、心から何かを望みたいとか必死すぎる願いをその身に抱かなければ、これ以上悪くなることはありません。
その症状は、いずれ落ち着きますよ。
リリス様は楽しいことを見つけたくて外に飛び出したのですから楽しいことをなさってください。
好きなこと、やりたいこと見つけたのでしょう?」
その言葉に何も言えなくなってしまう。
そうだ、私は修復師になるために勉強したいのだった。
今後の自分のことも考えなくてはいけないが、ご飯を食べたら今度こそ工房に向かわなくては行けない。
難しいことは頭の隅にやっておこう。
気分の悪さは堪えるけれど…。
なんでも知ってるミルキが言うのだから、きっと大丈夫なはず。
「そうだったわ。
楽しいことを見つけたくて外に出たのでした。
やりたいことみつけたのだから、頑張らなくてはいけないわね」
リリスはカトラリーを置き、食事を終えた。
修復道具と自分で作った魔術書を持って部屋を出た。
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