黒鳥は踊る~あなたの番は私ですけど?~

callas

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ディアナ・レイティスト

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 (わたしはとつべつ……)

 自分の見目の良さを理解したのは、ディアナが3歳の時だった。
 両親は自分をとても溺愛し、甘やかしてくれた。
 欲しいものは何でも手に入った。

 そんな状態だからどんどん我が儘になっていくのは止められなかった。
 だって止める人がいないから…
 でもある日、姉のオルディナに叱られた。

 何で叱られたかは覚えていないけれど、それに怒ったディアナは、小さい体で姉を思いっきり突き飛ばした。
 姉は突然のことに足がふらつき、後ろへ倒れた。その拍子に手首を捻挫してしまった。

 それにはさすがに両親もディアナを叱った。

 (なんで?)
 彼女は、両親に初めて怒られてショックを受けた。
 自分の味方をしてくれると思ったのに…… 
 
 そこからディアナは自分を取り繕うことを覚えた。
 我が儘な自分ではダメだ。

 ディアナが5歳の時だった─


 優しい自分を心がけると、周りはこれ以上なく可愛がってくれた。
 ある日、姉の持っている人形が可愛くて、姉に強請ったら断られた。
 仕方ない、買って貰えばいいと思っていたら、お母さまが「姉なのだから譲ってあげなさい」とオルディナを叱った。
 
 姉は渋ったが、お母さまに怒られたので、嫌々ソレをディアナに手渡した。

 思いがけず手に入った人形にディアナは嬉しくなった。
 それから彼女は事あるごとに姉のものを強請るようになった。
 姉が嫌がっても、お母さまや周りの視線が、妹に譲れと言ってくれるので、オルディナは諦めたように手渡した。

 (お姉さまがいると欲しいものが倍に増えるわ!)
 
 それを続けていると、徐々に姉は地味になっていった─
 


 「あなたもディアナみたいにきちんとお洒落をしなさい」
 ある日、お姉さまがお母さまに叱られているのを見かけた。

 そこでふとディアナは最近の周囲の反応を思い出した。
 オルディナが地味な装いをするようになってから、周りがディアナを誉めることが多くなった。
 (引き立て役お姉さまが隣にいると、私の美しさが増すのね!)
 それに気づいたディアナは、事あるごとに彼女の隣にいるようになった。仲の良い姉妹のふりをして……

 自分を誰も疑わない……
 ちょっと自分を取り繕うだけで、周りはディアナに良いように動いてくれる。
 それが楽しくて仕方がなかった。

 (ふふふ……《社交界の宝石》と呼ばれる私よ…あとは素敵な相手を見つけるだけだわ…)
 ディアナの心はどんどん傲慢になっていった。


 しかし、甘い蜜外見につられて群がる子息たちは、次々と甘い言葉をディアナに囁いたが、ディアナの満足する相手は中々現れなかった。
 何故ならこの国の王太子にはすでに婚約者がいたし、続く高位貴族とは年が離れていたからだ。

 (王太子の婚約者あの女より私の方が美しいけれど、爵位はあっちの方が上だから仕方がないわ……あとは年が10以上も離れてるし……そういえば来月モナートから留学生が来るって聞いたわ……彼処からのってことは高位貴族間違いなしね!ふふふ……)
 ディアナは期待に胸を膨らませた。



 ◇



 (彼ね……)
 いつものように姉の隣に立ち、周囲を取り囲む子息らと話をしながらも、意識は噂の留学生に向いていた。

 (ジーク様って言ったわね…顔は素敵だし…スタイルもいい……何よりここにいる彼らより高位貴族お金持ちだわ………私にピッタリじゃない!)
 どうやって近づこうかと思案していると、ふと目が合い、彼がこちらに近づいてきた。


 (そうよね!私はこの中にいる誰よりも美しいもの!)
 思わずにやけてしまいそうになるが、それは表情には出さず、さりげなく彼の方に体を向けようとし─

 ! 
 
 (何この匂い……)
 仄かだが、何かの香りが鼻をかすめた。
 不思議に思い周囲を見れば、どうやらはオルディナから発せられていた。
 周りの子息らは話に夢中で気づいていないようだ。

 (なぜ急に……ハッ…まさか!)
 ディアナはどんどん近づいてくるジークに視線を戻し、一つの可能性に思い当たった。
 そしてそれは続く彼の言葉によって、確信となった。

 「君は私の運命の番だ」

 (やっぱり!!)
 自分に相応しいと思った相手が、オルディナの番という事実に怒りが沸いてきたが、すぐに今の状況を思いだした。

 考えるより早く体が動いたディアナは、近づいてくる彼とオルディナの間に立つことで、あたかも自分から発せられているという風に装ったのだ。
 彼が迷うことなくディアナに告げた言葉によって、彼女の目論見が成功したことがわかった。

 態とらしく驚いたふりをすれば、ダンスに誘うために手を差しのべられた。
 その手をとろうとすると、オルディナがディアナの横にずれてきた。

 (っ!余計なことを……)
 内心焦ったが、男は姉を一瞥するだけで、優しい笑顔を自分に戻した。

 (ふっ……ふふふ…そうよね美しい方がいいものね)
 ディアナは満面の笑みでジークの手をとった。

 ダンスホールに向かう途中、チラリと姉を見ればそこにはクロイドという名の留学生が隣に立っていた。

 (お姉さまには身分の低いがお似合いよ)
 ディアナは自分に靡かないクロイドが好きではなかった。
 何となくものの、彼は爵位がないし、自分を見る目がいつも冷たい。
 
 (まぁ地味同士お似合いだわ)
 ディアナはジークに視線を戻し、ホールの中心へと向かった。

 周囲はモナートの留学生の番が、《社交界の宝石》と呼ばれる令嬢だったことに、落胆するもの、祝福するものと様々だった。

 周囲の視線を独り占めしたディアナは満足そうに微笑んでいたが、ジークの表情が困惑に変わっている事に気づいた。 

 彼はディアナが先程いた場所に視線を向けて、何かを探しているようだった。

 「ジーク様?」
 甘えるような声を出せば、彼はハッとしてディアナに向き直り、曲に合わせてリードを始めた。

 見目のいい二人のダンスは、まるで絵画のようで、周囲は見惚れていたが、ディアナは先程の甘い雰囲気が彼にないことに気づいた。

 (やっぱりフェロモン香りが重要ってことね)
 ディアナは優雅に踊りつつも、頭の中で今後どうするか考えていた。




 それからすぐに、ジークからレイティスト家を訪問したいという手紙が届いた─










 
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