2 / 10
第一章 今日も俺は手紙を届ける
第二話
しおりを挟む*
「――くそッ」
俺はバイクに跨がりエンジンをふかしながら、独り悪態をつく。
この仕事についてから3ヵ月。その間に300通程の配達を行ってきた。――のだが。
その殆どが、見事に受け取り拒否されてしまうのだ。今の女性の様に。けれどそれでは困る。だからここ最近は、拒否されても無理やり手紙を置いてくるようにしていた。
「――こっちの気も知らないで」
別に俺だって、好きでこんなことしているわけじゃない。こんな仕事、ノルマを達成したらすぐにでも辞めてやる。あと700通、それを配り終えたら……俺は――。
そんなことを考えながら、なんとかその日の配達を終わらせた。
*
夕方事務所に戻ると、部長が俺のデスクで待ち構えていた。
「お疲れっす」
俺がぶっきらぼうに呟けば、部長は難しい顔をしながら俺のデスクに右手を置く。
「お前、クレームが来てるぞ。無理やり受け取らせたらしいじゃないか」
その言葉に、脳裏に何人かの顔が過ぎった。
さっきの婆さんか……それともその後のおっさんか?いや、昨日の主婦って可能性も――。
俺はあり過ぎる可能性に苛立ちを募らせる。
「おい、聞いてるのか」
俺を見据える鋭い瞳。その視線に、俺は今直ぐ退職願を叩きつけたい気持ちに駆られた。
けれど、まだ辞める訳にはいかない。
だから俺は必死に取り繕って、なんとか頭を下げる。
「すみませんでした」
俺の謝罪に、部長の低い声が返される。
「いつ辞めて貰っても、構わないんだぞ」
「――っ」
それは、脅しか?そう思って顔を上げれば、しかしそうでは無いようで――どういう訳か、部長の瞳が憐れむようにこちらを見下ろしていた。
「この仕事は、きついからな」
「……っ」
それだけを言い残し、部長は自分の席へと戻っていく。俺はその背中を、黙って見送ることしか出来なかった。
21
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】その約束は果たされる事はなく
かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。
森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。
私は貴方を愛してしまいました。
貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって…
貴方を諦めることは出来そうもありません。
…さようなら…
-------
※ハッピーエンドではありません
※3話完結となります
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる