最初で最後の君への手紙

夕凪ゆな

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第一章 今日も俺は手紙を届ける

第二話

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「――くそッ」

 俺はバイクに跨がりエンジンをふかしながら、独り悪態をつく。

 この仕事についてから3ヵ月。その間に300通程の配達を行ってきた。――のだが。
 その殆どが、見事に受け取り拒否されてしまうのだ。今の女性の様に。けれどそれでは困る。だからここ最近は、拒否されても無理やり手紙を置いてくるようにしていた。

「――こっちの気も知らないで」

 別に俺だって、好きでこんなことしているわけじゃない。こんな仕事、ノルマを達成したらすぐにでも辞めてやる。あと700通、それを配り終えたら……俺は――。

 そんなことを考えながら、なんとかその日の配達を終わらせた。





 夕方事務所に戻ると、部長が俺のデスクで待ち構えていた。

「お疲れっす」
 俺がぶっきらぼうに呟けば、部長は難しい顔をしながら俺のデスクに右手を置く。

「お前、クレームが来てるぞ。無理やり受け取らせたらしいじゃないか」

 その言葉に、脳裏に何人かの顔が過ぎった。

 さっきの婆さんか……それともその後のおっさんか?いや、昨日の主婦って可能性も――。
 俺はあり過ぎる可能性に苛立ちを募らせる。

「おい、聞いてるのか」
 俺を見据える鋭い瞳。その視線に、俺は今直ぐ退職願を叩きつけたい気持ちに駆られた。
 けれど、まだ辞める訳にはいかない。
 だから俺は必死に取り繕って、なんとか頭を下げる。

「すみませんでした」

 俺の謝罪に、部長の低い声が返される。

「いつ辞めて貰っても、構わないんだぞ」
「――っ」
 それは、脅しか?そう思って顔を上げれば、しかしそうでは無いようで――どういう訳か、部長の瞳が憐れむようにこちらを見下ろしていた。

「この仕事は、きついからな」
「……っ」

 それだけを言い残し、部長は自分の席へと戻っていく。俺はその背中を、黙って見送ることしか出来なかった。
 
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