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第二部
27.チェスと兄心(後編)
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(ま、手を抜かれるよりは百倍マシだがな)
アレクシスは適当に駒を動かしながら、本題を問う。
「で、兄上。話とは何です。もしや、例の港でまた密輸でも?」
「…………」
「金の次は宝石か、あるいは麻薬……、……兄上?」
実は、アレクシスが明日からの軍事演習に急に参加することになったのは、クロヴィスから「港の様子を見てこい」と命じられたからだった。
一年前に起きた金の密輸事件。
税関をすり抜け外国から持ち込まれた純度の低い金が、帝国内で高値で売却されている――ということが発覚し、事態を重く受け止めた政府がこれに介入。関係者一同を摘発、検挙した事件である。
関係していた業者は多額の罰金を科せられた上、営業停止を余儀なくされた。
港を治めていた領主も摘発されたが、調査の結果、領主と密輸船との直接的な関係は認められず、処罰を免れた、という経緯がある。
その後は特に何の問題も起きていないと報告が上がっているが、今回の軍事演習先の駐屯地は、ちょうどその港の側。
その為クロヴィスは「軍事演習のついでならば、皇族が港を訪れても何らおかしくはない。いい牽制になるだろう」と、アレクシスに演習参加を命じたのである。
そういう理由で、アレクシスの演習参加は『急遽』決まった。アレクシスの訪問を、前もって知られないようにする為だ。
そんなわけで、アレクシスはクロヴィスの話が「密輸」に関することなのではと踏んでいたのだが……どうやら違ったらしい。
「いや、港の件は先日話した通りで変わりない。お前には、渡したリストの店舗を回ってもらうだけでいい。あくまで客としてな」
「でしたら、話というのは?」
港の件でなければいったい何だというのだ。
不審に思いながら再度尋ねると、クロヴィスは表情一つ変えず、黒の塔を淡々と取りにくる。
「お前ではない。用があるのはセドリックの方だ」と言いながら。
「セドリック?」
「ああ。本当はセドリックだけを連れ出すつもりだったのだけどね。お前と久々にチェスをするのも悪くないと思い、こうして誘ったのだ」
「…………」
ますます意味不明である。
――が、そう思うと同時に、隣の執務室に誰かがやってきたようだ。
壁越しに聞こえてくるセドリックの対応で、その人物がマリアンヌであることに気付いたアレクシスは、これ幸いと席を立った。
「先約があるのでしたら、俺はこれで失礼して――」
「待ちなさい。話があると言ったろう」
「いや、話があるのは俺ではなくセドリックなのでしょう? でしたら、俺は不要では」
「それはそうだが、そうではない。セドリックに用があるのは私ではなくマリアンヌだ。……まったく、セドリック本人は気付いているというのに、主人のお前がそれではな」
「…………」
「さあ、席に着きなさい。勝敗はまだ決していないよ」
「…………」
(いったいどういうことだ? まったくもって意味がわからん)
結局、クロヴィスはそれ以上説明する気がないようで、アレクシスは何もわからないまま再び席に着かされる。
その後は、執務室からマリアンヌが居なくなり――それと同時に「チェックメイト」と宣言されるまでの間、チェスに付き合わされたのだった。
アレクシスは適当に駒を動かしながら、本題を問う。
「で、兄上。話とは何です。もしや、例の港でまた密輸でも?」
「…………」
「金の次は宝石か、あるいは麻薬……、……兄上?」
実は、アレクシスが明日からの軍事演習に急に参加することになったのは、クロヴィスから「港の様子を見てこい」と命じられたからだった。
一年前に起きた金の密輸事件。
税関をすり抜け外国から持ち込まれた純度の低い金が、帝国内で高値で売却されている――ということが発覚し、事態を重く受け止めた政府がこれに介入。関係者一同を摘発、検挙した事件である。
関係していた業者は多額の罰金を科せられた上、営業停止を余儀なくされた。
港を治めていた領主も摘発されたが、調査の結果、領主と密輸船との直接的な関係は認められず、処罰を免れた、という経緯がある。
その後は特に何の問題も起きていないと報告が上がっているが、今回の軍事演習先の駐屯地は、ちょうどその港の側。
その為クロヴィスは「軍事演習のついでならば、皇族が港を訪れても何らおかしくはない。いい牽制になるだろう」と、アレクシスに演習参加を命じたのである。
そういう理由で、アレクシスの演習参加は『急遽』決まった。アレクシスの訪問を、前もって知られないようにする為だ。
そんなわけで、アレクシスはクロヴィスの話が「密輸」に関することなのではと踏んでいたのだが……どうやら違ったらしい。
「いや、港の件は先日話した通りで変わりない。お前には、渡したリストの店舗を回ってもらうだけでいい。あくまで客としてな」
「でしたら、話というのは?」
港の件でなければいったい何だというのだ。
不審に思いながら再度尋ねると、クロヴィスは表情一つ変えず、黒の塔を淡々と取りにくる。
「お前ではない。用があるのはセドリックの方だ」と言いながら。
「セドリック?」
「ああ。本当はセドリックだけを連れ出すつもりだったのだけどね。お前と久々にチェスをするのも悪くないと思い、こうして誘ったのだ」
「…………」
ますます意味不明である。
――が、そう思うと同時に、隣の執務室に誰かがやってきたようだ。
壁越しに聞こえてくるセドリックの対応で、その人物がマリアンヌであることに気付いたアレクシスは、これ幸いと席を立った。
「先約があるのでしたら、俺はこれで失礼して――」
「待ちなさい。話があると言ったろう」
「いや、話があるのは俺ではなくセドリックなのでしょう? でしたら、俺は不要では」
「それはそうだが、そうではない。セドリックに用があるのは私ではなくマリアンヌだ。……まったく、セドリック本人は気付いているというのに、主人のお前がそれではな」
「…………」
「さあ、席に着きなさい。勝敗はまだ決していないよ」
「…………」
(いったいどういうことだ? まったくもって意味がわからん)
結局、クロヴィスはそれ以上説明する気がないようで、アレクシスは何もわからないまま再び席に着かされる。
その後は、執務室からマリアンヌが居なくなり――それと同時に「チェックメイト」と宣言されるまでの間、チェスに付き合わされたのだった。
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