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第二部
51.ルクレール家でのお茶会(後編)
しおりを挟むエリスが自戒している間に、紅茶の準備が整ったようだ。
オリビアの手によって四人分の紅茶が運ばれたところで、アフタヌーンティーの開始である。
エリスはさっそく、オリビアに先日の礼を述べた。
「オリビア様、先日は本当にありがとうございました。オリビア様があの場にいてくださって、とても助かりました。弟共々、深くお礼申し上げますわ」
未だニコリともしないオリビアの警戒心を解くべく、エリスは柔らかに微笑んでみせる。
するとオリビアは一度は驚いたように目を見開いたものの、すぐに真顔に戻ってしまった。
「いいえ、礼には及びませんわ。当然のことをしたまでですもの。それより、その後お加減はよろしくて?」
「はい、ただの貧血でしたので……。おかげさまで、すっかり良くなりましたわ」
「そう、それは何よりですわ。でも貧血を甘く見てはいけませんのよ。血液が薄くなると全身の臓器の機能が衰えますから。予防のためには、肉類やほうれん草、あとは海藻類などを召し上がるとよいですわね」
「……!」
エリスは驚いた。
お礼の言葉は本音に違いなかったが、まさか手始めに振った社交辞令的な言葉に、中身のある返しをしてもらえるとは思ってもみなかったからだ。
(先日助けてくださったことといい、オリビア様って表情には出されないだけで、とてもお優しい方なんだわ。それにオリビア様の助言、お医者様が仰っていたことと、ほとんど同じ)
エリスがシオンをチラリと見やると、シオンも同じことを思ったようで、エリスの「オリビア様はとても博識でいらっしゃるのね」という言葉に、援護射撃を始める。
「オリビア様は医学に精通されているのですね。姉さんが倒れたときも、脈と呼吸を的確に判断してくださいました。あのときは僕、とても気が動転していて。だからオリビア様が声をかけてくださって、本当に心強かったんです」
シオンは、年下らしい屈託のない笑みを浮かべる。
するとオリビアは、少しばかり動揺を見せた。
「別に、大したことではありませんわ。昔は、わたくし自身、あまり身体が丈夫ではなくて……ですから、その過程で覚えてしまったというだけで……」
「だとしても、凄いことだと僕は思います。現に僕も姉さんも、オリビア様に助けられたわけですから。僕は、オリビア様をとても尊敬します」
「そ、……そう。……どういたしまして」
「オリビア様、よろしければ、もっと色々教えていただけませんか? 貧血予防にいい食べ物は、肉とほうれん草と海藻……でしたよね。では、他には。他にも何かありませんか? 例えば、果物などで」
「果物?」
腑に落ちない様子で聞き返すオリビアに、シオンは笑みを深める。
「温室に入ってすぐのところに、モモとザクロの木が植わっていました。それでもしかしたら、オリビア様は果物にもお詳しいのではと思ったのです。実は、姉さんはあまり肉を好まなくて……。ですが、果物なら食べられるので」
「――! あなた、ザクロを知っていますの?」
「はい。ランデル王国では自生している地域があるのです。とはいえ、種が多くて食べづらいので流通はしていませんが……。帝国で見るのは初めてだったので、驚きました」
何気ない会話の中に、ランデル王国の出身――それも、商家の人間らしき内容を織り交ぜてくる辺り、流石シオンである。
シオンは温室内をぐるりと見渡し、オリビアに向き直ると、ふわっと笑みを零した。
「ざっと見たところ、他にも十種類ほどの果樹が植わっているようですね。ですが、僕はまだ学生ですし、植物に特別詳しいわけでもないので、あまりわかりません。ですから、僕に色々とご享受願えませんか、オリビア様」
「……っ」
刹那、シオンの見上げるような視線を受け、オリビアが頬を赤く染めたように見えたのは、エリスの気のせいではないだろう。
(まあ、オリビア様が照れていらっしゃるわ。とてもお可愛らしい。……でも何だかまるで、シオンがオリビア様を口説いているように見えるのよね。これって大丈夫なのかしら……)
エリスは、これがシオンの通常運転だと知りつつも、恋愛関係に発展するような誤解を与えなければいいけれど……と少しばかり心配し、ちらりとリアムを横目で見やる。
が、リアムは特に思うところはないのか、初々しい反応を見せる妹を見て、ずっとニコニコしていた。
(リアム様は気にされていないご様子だわ。ということは、シオンのやり方は間違いではないのね)
正直なところエリスは、帝国に来るまで友人の一人もいなかったこともあり、未だに友人の作り方がよくわかっていなかった。
まして男女間での友人関係の構築方法などまったく知識がないわけで、シオンがどのようにしてオリビアと友人になるのか、非常に気になると同時に、不安の種でもあった。
が、こうして見ていると、シオンは自分よりも、ずっと上手にオリビアと接している。
そんな弟の様子に、エリスはただ感心するばかりだった。
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