サリオン記

サリオンの記録者

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第四章

四の吟・地脈の塔

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ーーー
風がこの吟を運んでくる。
ーーー

塔の入り口は、黒曜石の裂け目のように暗く、そこから地の奥底の熱が息を吐き出していた。
足元の岩肌には、ところどころ火の粉が散ったような赤いひび割れが走る。

タリオスは裂け目の中を覗き込んだ。そこはもう、外の風も音も届かない世界だった。

「やっぱり、ここは…お前しか行けねぇか」
ザグが小さく息を吐き、背負っていた工具袋を地面に下ろした。
ロウグは鼻先を塔の方へ向け、低く唸る。普段は温和なこの獣が、ずっと落ち着きをなくしているのが気がかりだった。

「地がうねってる……そんな感じがする」
セラがそっとリラの弦を撫でた。音を鳴らせば何か反応があるかと試したが、空気は熱を孕んで淀んでいるだけだった。

「塔の奥にあるのは、地脈の心臓だろうな」
ザグが顎を動かして呟く。「だが、それに触れられるのは…」
タリオスは頷き、足を踏み出した。

「戻るまで、ロウグを頼む」
そう言って、黒い裂け目の中に消えた。


中は、視界が利かないほどの暗さだった。
しかし、地脈を読むタリオスには見える。足元を流れる微かな熱の流れ、そして岩壁の奥で脈打つ何かの気配。

──お前はもう、森の声を聞けていない。

耳元で囁く声。振り返っても誰もいない。塔の中は熱で空間が歪んでいるのか、時折、岩壁にかつての記憶が映し出された。
ナヴァラの森、夢に見た誰かの声、リュカが風に乗せて告げた言葉。

──お前に塔は響かぬ。お前には地が死んで見えるはずだ。

タリオスは歯を食いしばり、地面に触れた。
「そんなはずはない…」
熱い。だが、その奥に確かに生きているものがある。

足元から、赤熱したツタのような光が地面を這い出した。ツタは脈打つように明滅しながら、塔の奥へと伸びていく。タリオスはその光を辿りながら進んだ。



迷路のような塔の奥で、タリオスはそれを見た。
巨大な洞の中央で、溶岩のしぶきのように光る地脈の「心臓」が脈動している。そこには、火花のような吟詞の欠片が漂っていた。

タリオスは震える手で旅の書を取り出し、欠片にかざした。
その瞬間、
「眠れる声よ、土に抱かれ」
声とも熱のうねりともつかぬものが、塔の奥で響き渡った。

欠片が火の粉になり、旅の書の頁に焼き付くように記録される。


---

外では、熱気を孕んだ地脈が揺れるのを感じ、セラとザグが顔を見合わせていた。
「中は、荒れてるな」
ザグが低く呟く。ロウグが立ち上がり、唸っている。岩場にその声が反響して、空気に小さな亀裂が入ったかのようだった。

「…無事だと思う?」
セラがポツリと呟く。
「タリオスは、あの森の地脈とやり合える奴だ。きっと大丈夫だ」
ザグの声は落ち着いていたが、握りしめた拳が熱で濡れているのをセラは見て取った。

やがて塔の裂け目から熱風が吹き、全てが静まった。
そして、ゆらりとタリオスの影が現れる。

「…終わったのか」
セラが駆け寄り、ザグが頷いた。

「塔が目を覚ました」
タリオスは短く息をつくと、地面を見つめて呟いた。
「これで、残るは中央の塔だけだな」


塔の岩肌に、かすかに赤い光が走り、すぐに消えた。
その光は、森から始まった旅が、もう一歩で終わりに近づいていることを告げていた。

ーーー
この話はここまで。
風が、次の吟を運んでくるまでしばしのおやすみを。
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