サリオン記

サリオンの記録者

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第五章

塔への道のり

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ーーー
風がこの吟を運んでくる。
これは、タリオスたちが最後の吟を森で受け取り、中央の塔に向かっているときの話。
ーーー

森を抜けた途端、風の質が変わった。
湿り気を帯びた森の空気はすでに失われ、代わりにどこか重く淀んだ風が街道に横たわっている。

ロウグが短く鼻を鳴らした。いつもなら聞こえる羽音や虫の声はなく、石と土とが擦れる音だけが耳に残る。

「……見えるか」
ザグが低くつぶやいた先、地平の向こうに黒い塔が立っていた。中央の塔。都市の中心に刺さるようにそびえるそれは、ここからでも重苦しい存在感を放っている。


・・・

中央都市に入ると、人々のざわめきが広がっていた。
市場には果物や乾物を売る声、道端で壊れた荷車を直す男の槌音、遠くで駆ける子どもの笑い声もある。

だが、活気はどこか表面的なものだった。
「……風が止まったせいだろうな」
セラが小さく呟く。布を干す老女が「今日も風が重いねえ」と嘆くのが聞こえた。

塔が視界に入るたび、人々の影はほんの僅かに色を失っていくように思える。
それでも、まちでは日々を生きている。
露店で揺れる旗、焼き魚の香りに立ち止まる親子、見知らぬ旅人に水を差し出す若者。

「塔が動かずとも、生きていかなきゃならん。だが、風が戻ればこの街ももっと違うんだろうな」
ザグの声に、タリオスは短く頷く。
ロウグが不安げに足元で鳴いた。森から遠ざかるほどに、その声は心細くなっていく。

・・・

塔はすでに、彼らの背を見下ろしていた。
ここから先、長く寄り道することはないだろう。
旅の終わりが近いことを、タリオスはひしひしと感じていた。

その頃、塔の最奥にはすでにひとりの男の気配があった。
静かな気配だったが、刃のように冷たく、塔そのものの空気をより重苦しいものにしていた。

ーーー
この話はここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
ーーー
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