サリオン記

サリオンの記録者

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第五章

最後の吟

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ーーー
風がこの吟を運んでくる。
ーーー

塔の最上階まで続く螺旋階段を登り切ると、そこは大きな吹き抜けの空間だった。 中央に祭壇のような台座が据えられ、そこに描かれた放射状の線は壁の内側へと広がり、塔全体を網のように巡っている。

「ここが、この旅の目的地か」
ザグがキヴレを抱え直し、目を細めて空気の流れを感じ取った。

タリオスは祭壇に向かい旅の書を広げた。

・・・
我は継ぐ者 塔にして歌なり
風は忘れず 名を越えて呼ぶ
やがて芽吹くは ひとつの響き
眠れる声よ 土に抱かれ
終わりの果てに 始まりを聴け
・・・

地脈の律動が、低く塔の根本から震えているのを足裏で感じ取っている。

セラのリラとザグのキヴレが、中央の祭壇で共鳴を始めた。タリオスは、地脈に意識を繋ぐ。台座から放射状に広がる線が光を帯び、塔全体が淡い輝きに包まれていった。

そのとき、外の空気がわずかに揺れた。

遠くから吹き込む風の気配に、セラは視線を上げた。 深緑の外套の影が塔の入口を抜け、吹き抜けの風に乗って現れる。

「…リュカ!」

リュカは、塔の最上部を見上げかすかに口角を上げた。

「お前たちの旋律は、いま風に乗った」
リュカが低く告げると、光は塔の外壁へと伝わり、都市を包むように広がっていった。

結界が張られたのだ。だが——

セラがリラを弾く手をふと止めると、塔の光が一瞬揺らいだ。再び旋律が流れ出すと、光は安定を取り戻す。

「……まだ塔は、自ら立つには弱い」
リュカが塔を見上げながら言った。
「旋律は塔に記憶された。だが、その芯は不安定だ。塔守が必要だ」

セラは弦に触れながら、深く息を吐く。
「つまり、異変があれば——この音で支えるのね」

「そうだ。いま、塔がお前の音を覚えているところだ」
リュカの風がセラの髪を撫でる。

次の瞬間、彼の外套は風とともに塔の外へ消えていった。

タリオスはその背を見送りながら、小さく息を吐いた。 「これで、俺たちの旅は終わりか」

「……まだ、終わってはいないさ」 ザグが短く笑った。

ーーー
この話はここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
ーーー
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