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第五章
旅の終わり
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ーーー
風がこの吟を運んでくる。
ーーー
中央の塔は結界の光に満ちていた。
だが、塔の奥から伝わる微かな揺らぎは、まだ不安定さを孕んでいる。
セラはリラを膝に置き、光を見つめていた。
「……私はここに残るわ」
小さな決意が、静かな空気に落ちる。
「教会を出た私に、もう戻る場所はない。この塔の守となるのが、私にできること」
リュカの気配が風に溶けるように漂った。
『それでいい』
どこからともなく聞こえた声は柔らかく、すぐに消えていった。
タリオスはセラに向き直る。
その瞳には、どこか安堵の色が混じっていた。
「……俺は森に戻る。少しずつ、あの森も元に戻っていくだろう」
森に響く風の音が、まだ彼の耳には遠く小さく聞こえる。だがそれでも、確かに呼んでいるのがわかった。
ロウグはタリオスに擦り寄り、小さく鳴いた。
タリオスもそれに答えて、その背を撫でる。
「心配はいらない。お前の家も、きっと元に戻る」
ロウグはもたげた首を少しだけ上げて、再び鳴いた。
ザグは腕を組んだまま、祭壇の台座を軽く叩いた。
「この塔も、まだ調整が必要そうだな」
光を反射する壁面を眺める彼の横顔は、どこか晴れやかだ。
「これから先も、他の塔を見に周ることになるだろう。
……ま、気が向いたらリラの様子も見に寄ってやるさ」
口調は軽いが、その奥にあるのは職人らしい真摯さだった。
短い沈黙。
旅の間に積み重ねた日々が、一気に胸に広がっていく。
思えば不格好な一行だったが、それでも互いの力を信じてここまで来た。
タリオスは深く息を吐くと、もう一度セラに向き直った。
「ありがとう」
セラは少しだけ微笑み、静かに答えた。
「こちらこそ」
「じゃあな」
ザグが軽く手を挙げ、石の階段を下りていった。
セラは残された塔の光に手を触れる。
この場所で彼らを見送ること、それが今の自分にできる唯一のことだった。
塔の光は、遠くまで伸びる風に乗って静かに揺れていた。
ーーー
この話はここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
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風がこの吟を運んでくる。
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中央の塔は結界の光に満ちていた。
だが、塔の奥から伝わる微かな揺らぎは、まだ不安定さを孕んでいる。
セラはリラを膝に置き、光を見つめていた。
「……私はここに残るわ」
小さな決意が、静かな空気に落ちる。
「教会を出た私に、もう戻る場所はない。この塔の守となるのが、私にできること」
リュカの気配が風に溶けるように漂った。
『それでいい』
どこからともなく聞こえた声は柔らかく、すぐに消えていった。
タリオスはセラに向き直る。
その瞳には、どこか安堵の色が混じっていた。
「……俺は森に戻る。少しずつ、あの森も元に戻っていくだろう」
森に響く風の音が、まだ彼の耳には遠く小さく聞こえる。だがそれでも、確かに呼んでいるのがわかった。
ロウグはタリオスに擦り寄り、小さく鳴いた。
タリオスもそれに答えて、その背を撫でる。
「心配はいらない。お前の家も、きっと元に戻る」
ロウグはもたげた首を少しだけ上げて、再び鳴いた。
ザグは腕を組んだまま、祭壇の台座を軽く叩いた。
「この塔も、まだ調整が必要そうだな」
光を反射する壁面を眺める彼の横顔は、どこか晴れやかだ。
「これから先も、他の塔を見に周ることになるだろう。
……ま、気が向いたらリラの様子も見に寄ってやるさ」
口調は軽いが、その奥にあるのは職人らしい真摯さだった。
短い沈黙。
旅の間に積み重ねた日々が、一気に胸に広がっていく。
思えば不格好な一行だったが、それでも互いの力を信じてここまで来た。
タリオスは深く息を吐くと、もう一度セラに向き直った。
「ありがとう」
セラは少しだけ微笑み、静かに答えた。
「こちらこそ」
「じゃあな」
ザグが軽く手を挙げ、石の階段を下りていった。
セラは残された塔の光に手を触れる。
この場所で彼らを見送ること、それが今の自分にできる唯一のことだった。
塔の光は、遠くまで伸びる風に乗って静かに揺れていた。
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この話はここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
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