6 / 28
第一章
塔の上で
しおりを挟む
《塔の上で》
ーーー
風がこの吟を運んでくる。これは、風の塔の最上階で交わした言葉の話。
ーーー
風が吹けば、塔全体がわずかに揺れる。
足元に広がるのは、谷と森のうねり。見渡す限りの風景を前にしても、タリオスは微動だにせず、塔の壁に浮かび上がった文字を見つめていた。
「読めたかい?」
背後から声をかけたのは、塔守リュカ。深緑の外套を風にたなびかせ、壁にもたれている。
「……『風は忘れず 名を越えて呼ぶ』。そんな言葉が、浮かび上がった」
「やっぱり君が来るって、風が教えてくれてたみたいだ」
リュカは小さく笑ったあと、塔の縁まで歩く。
「さすがに下を見ると、足がすくむね。塔守になって何年も経つけど、これは慣れない」
タリオスは、まだ壁を見ながら言った。
「風が好きなんじゃないのか」
「好きと怖いは両立するもんだよ」
ふたりの間に、しばし風だけが通り過ぎた。
その風に、タリオスは問いを乗せた。
「これは、何かの始まりなのか? それとも終わりに向かってるのか」
リュカはすぐには答えなかった。
風の音に耳を澄ませてから、静かに言った。
「それを決めるのは、塔でも風でもない。君たちがどう“響かせる”か、だよ」
そのとき、セラにはある直感があった。この人と、いつか同じ場所に立つのだと。
理由も根拠もない。でも、心の奥の方でそう囁く声があった。
タリオスが壁に浮かび上がった吟を読んでいるあいだ、セラはただ風を感じていた。
風が、何かを伝えようとしている。けれど、まだ言葉にはなっていない。
セラはそっと目を閉じる。
“私が求めていたのは、たぶん、この塔じゃない”
けれど——
“この旅が、私をどこかに連れて行ってくれる”
その確信だけがセラの心に染みていった。
ーーー
この話は、ここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
ーーー
ーーー
風がこの吟を運んでくる。これは、風の塔の最上階で交わした言葉の話。
ーーー
風が吹けば、塔全体がわずかに揺れる。
足元に広がるのは、谷と森のうねり。見渡す限りの風景を前にしても、タリオスは微動だにせず、塔の壁に浮かび上がった文字を見つめていた。
「読めたかい?」
背後から声をかけたのは、塔守リュカ。深緑の外套を風にたなびかせ、壁にもたれている。
「……『風は忘れず 名を越えて呼ぶ』。そんな言葉が、浮かび上がった」
「やっぱり君が来るって、風が教えてくれてたみたいだ」
リュカは小さく笑ったあと、塔の縁まで歩く。
「さすがに下を見ると、足がすくむね。塔守になって何年も経つけど、これは慣れない」
タリオスは、まだ壁を見ながら言った。
「風が好きなんじゃないのか」
「好きと怖いは両立するもんだよ」
ふたりの間に、しばし風だけが通り過ぎた。
その風に、タリオスは問いを乗せた。
「これは、何かの始まりなのか? それとも終わりに向かってるのか」
リュカはすぐには答えなかった。
風の音に耳を澄ませてから、静かに言った。
「それを決めるのは、塔でも風でもない。君たちがどう“響かせる”か、だよ」
そのとき、セラにはある直感があった。この人と、いつか同じ場所に立つのだと。
理由も根拠もない。でも、心の奥の方でそう囁く声があった。
タリオスが壁に浮かび上がった吟を読んでいるあいだ、セラはただ風を感じていた。
風が、何かを伝えようとしている。けれど、まだ言葉にはなっていない。
セラはそっと目を閉じる。
“私が求めていたのは、たぶん、この塔じゃない”
けれど——
“この旅が、私をどこかに連れて行ってくれる”
その確信だけがセラの心に染みていった。
ーーー
この話は、ここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
ーーー
0
あなたにおすすめの小説
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。
発端は彼女の父親が行方不明となり、叔父である父の弟が公爵邸に乗り込んで来たこと。
何故か叔父一家が公爵家の資産に手を付け散財するが、祖父に相談してもコロネに任せると言って、手を貸してくれないのだ。
そもそも父の行方不明の原因は、出奔中の母を探す為だった。その母には出奔の理由があって…………。
残された次期後継者のコロネは、借金返済の為に事業を始めるのだ。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる