サリオン記

サリオンの記録者

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第一章

塔の上で

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《塔の上で》
ーーー
風がこの吟を運んでくる。これは、風の塔の最上階で交わした言葉の話。
ーーー

風が吹けば、塔全体がわずかに揺れる。
足元に広がるのは、谷と森のうねり。見渡す限りの風景を前にしても、タリオスは微動だにせず、塔の壁に浮かび上がった文字を見つめていた。

「読めたかい?」
背後から声をかけたのは、塔守リュカ。深緑の外套を風にたなびかせ、壁にもたれている。

「……『風は忘れず 名を越えて呼ぶ』。そんな言葉が、浮かび上がった」
「やっぱり君が来るって、風が教えてくれてたみたいだ」

リュカは小さく笑ったあと、塔の縁まで歩く。
「さすがに下を見ると、足がすくむね。塔守になって何年も経つけど、これは慣れない」

タリオスは、まだ壁を見ながら言った。
「風が好きなんじゃないのか」

「好きと怖いは両立するもんだよ」

ふたりの間に、しばし風だけが通り過ぎた。
その風に、タリオスは問いを乗せた。

「これは、何かの始まりなのか? それとも終わりに向かってるのか」

リュカはすぐには答えなかった。
風の音に耳を澄ませてから、静かに言った。

「それを決めるのは、塔でも風でもない。君たちがどう“響かせる”か、だよ」


そのとき、セラにはある直感があった。この人と、いつか同じ場所に立つのだと。
理由も根拠もない。でも、心の奥の方でそう囁く声があった。

タリオスが壁に浮かび上がった吟を読んでいるあいだ、セラはただ風を感じていた。
風が、何かを伝えようとしている。けれど、まだ言葉にはなっていない。

セラはそっと目を閉じる。
“私が求めていたのは、たぶん、この塔じゃない”
けれど——

“この旅が、私をどこかに連れて行ってくれる”
その確信だけがセラの心に染みていった。

ーーー
この話は、ここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
ーーー

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