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第三章
砂が導くもの
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《砂が導くもの》
ーーー
風がこの吟を運んでくる。これは、砂漠に立つ機構の塔のふもとで、タリオスたちが戸惑い、ザグの噂を聞くまでの話。
ーーー
塔は、まるで朽ちた楽器のように沈黙していた。
砂に埋もれかけた歯車の群れ、音を失ったパイプ、階層ごとに織りなす金属の螺旋──セラがリラを鳴らしても、タリオスが地脈に触れても、何も応えなかった。
「……やっぱり、この塔は止まってる」
セラがそう呟いた。
塔内に漂うのは、乾いた油と砂の匂い。響くのは足音だけだ。
「共鳴の塔までは、まだ気配があったのにな」
タリオスは階段の縁に腰を下ろし、ツタのように伸びる地脈を指先でなぞる。だが、まるで枯れ枝だ。命の気配は感じられない。
結局、ふたりは塔を出て、ふもとの街へ降りた。
オアシスの水辺に開けたそこは、砂漠を越える旅人と商人がひしめく小さな市だった。
テント張りの市場では、香辛料と布、錆びた金属細工が並び、香の煙が流れている。リラを見た子どもたちが珍しそうに駆け寄ったが、セラは微笑んで手を振っただけだった。
宿を探す途中、辻の占い台に座る女が目に入った。
乾いた砂を器に撒き、流れるような指先で模様を描いていく。
その形が、たちまち砂紋の渦を作った。
「旅人か」
占い師が顔を上げる。顔の半分を覆う薄布が風に揺れ、瞳がきらりと光った。
「動かぬ塔を見てきたのだろう?」
タリオスが立ち止まった。
「……ああ。どうすれば動く?」
女は小さく笑った。
「塔を起こせるのは、ひとりしかおらぬ。名はザグ。砂に沈んだ楽器職人だ」
「職人……?」
「塔に残された音の設計図を解けるのは、あの者だけ」
セラがリラを抱き直し、目を細めた。
「どこに行けば会えるの?」
占い師は砂をぱらりと払い落とし、街の外れに目を向けた。
「南の縁、沈みかけたドーム屋根の下。彫金の音が聞こえるはず」
ふたりは無言で顔を見合わせた。
そして、灼熱の風に吹かれながら、ドームの影を目指して歩き出した。
ーーー
この話は、ここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
ーーー
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風がこの吟を運んでくる。これは、砂漠に立つ機構の塔のふもとで、タリオスたちが戸惑い、ザグの噂を聞くまでの話。
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塔は、まるで朽ちた楽器のように沈黙していた。
砂に埋もれかけた歯車の群れ、音を失ったパイプ、階層ごとに織りなす金属の螺旋──セラがリラを鳴らしても、タリオスが地脈に触れても、何も応えなかった。
「……やっぱり、この塔は止まってる」
セラがそう呟いた。
塔内に漂うのは、乾いた油と砂の匂い。響くのは足音だけだ。
「共鳴の塔までは、まだ気配があったのにな」
タリオスは階段の縁に腰を下ろし、ツタのように伸びる地脈を指先でなぞる。だが、まるで枯れ枝だ。命の気配は感じられない。
結局、ふたりは塔を出て、ふもとの街へ降りた。
オアシスの水辺に開けたそこは、砂漠を越える旅人と商人がひしめく小さな市だった。
テント張りの市場では、香辛料と布、錆びた金属細工が並び、香の煙が流れている。リラを見た子どもたちが珍しそうに駆け寄ったが、セラは微笑んで手を振っただけだった。
宿を探す途中、辻の占い台に座る女が目に入った。
乾いた砂を器に撒き、流れるような指先で模様を描いていく。
その形が、たちまち砂紋の渦を作った。
「旅人か」
占い師が顔を上げる。顔の半分を覆う薄布が風に揺れ、瞳がきらりと光った。
「動かぬ塔を見てきたのだろう?」
タリオスが立ち止まった。
「……ああ。どうすれば動く?」
女は小さく笑った。
「塔を起こせるのは、ひとりしかおらぬ。名はザグ。砂に沈んだ楽器職人だ」
「職人……?」
「塔に残された音の設計図を解けるのは、あの者だけ」
セラがリラを抱き直し、目を細めた。
「どこに行けば会えるの?」
占い師は砂をぱらりと払い落とし、街の外れに目を向けた。
「南の縁、沈みかけたドーム屋根の下。彫金の音が聞こえるはず」
ふたりは無言で顔を見合わせた。
そして、灼熱の風に吹かれながら、ドームの影を目指して歩き出した。
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この話は、ここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
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