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第三章
ザグを動かすもの
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ーーー
風がこの吟を運んでくる。
ーーー
夜明け前の鐘が、低く塔の奥に響く。
その音に、ザグは荒い息をひとつ吐き、背中の袋を背負い直した。重いはずの工具や部品は、今の心持ちのせいかやけに軽い。
「……もう十分だ」
独りごちて、ザグは歩き出す。
この場所に来て二十年余り、教会は少しずつ変わっていった。
本来は吟を継ぐための祈りの場だったはずが、今は歯車と回路の音に満たされている。
吟を「機構」に組み込み、制御できるものに変える……それが正しいのかどうか。
「命も、音も、止めて繋ぐもんじゃない」
石壁に囲まれた会議室で、ザグは何度もそう口にした。
けれど、その声は組まれた歯車の音にかき消され、やがて自分の中でも沈んでいった。
この頃、教会の内部では二つの教義が芽吹きはじめていた。
“終焉を受け入れる派”と“継承を模索する派”。
まだ表立った争いはなかったが、どちらにも与さない自分は、どこにも居場所がないと感じていた。
「道具職人なら、道具に徹しろ」
長老に冷たく言われた夜の記憶が胸に残る。
ザグは煤けた黒の上着の襟を立て、街灯の消えかけた小道を抜ける。
「教会がこんなに歯車だらけになっちまったなら、俺が残る意味もない」
吐息が白く夜気に溶けた。
教会の外れの広場に出たとき、東の空がわずかに淡く染まりかけていた。
視線を巡らせると、まだ誰もいない。
だが心の奥で、遠い未来に出会う誰かの旋律が確かに鳴っている気がした。
(……いずれ、塔を動かすやつが来る)
道具職人ザグは歩みを止めない。
これから向かうのは、砂と風の塔のふもとにある街。
そこに行けば、新しい歯車に出会える気がしていた。
ーーー
この話はここまで。風が次の話を運んでくるまでしばしのおやすみを。
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風がこの吟を運んでくる。
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夜明け前の鐘が、低く塔の奥に響く。
その音に、ザグは荒い息をひとつ吐き、背中の袋を背負い直した。重いはずの工具や部品は、今の心持ちのせいかやけに軽い。
「……もう十分だ」
独りごちて、ザグは歩き出す。
この場所に来て二十年余り、教会は少しずつ変わっていった。
本来は吟を継ぐための祈りの場だったはずが、今は歯車と回路の音に満たされている。
吟を「機構」に組み込み、制御できるものに変える……それが正しいのかどうか。
「命も、音も、止めて繋ぐもんじゃない」
石壁に囲まれた会議室で、ザグは何度もそう口にした。
けれど、その声は組まれた歯車の音にかき消され、やがて自分の中でも沈んでいった。
この頃、教会の内部では二つの教義が芽吹きはじめていた。
“終焉を受け入れる派”と“継承を模索する派”。
まだ表立った争いはなかったが、どちらにも与さない自分は、どこにも居場所がないと感じていた。
「道具職人なら、道具に徹しろ」
長老に冷たく言われた夜の記憶が胸に残る。
ザグは煤けた黒の上着の襟を立て、街灯の消えかけた小道を抜ける。
「教会がこんなに歯車だらけになっちまったなら、俺が残る意味もない」
吐息が白く夜気に溶けた。
教会の外れの広場に出たとき、東の空がわずかに淡く染まりかけていた。
視線を巡らせると、まだ誰もいない。
だが心の奥で、遠い未来に出会う誰かの旋律が確かに鳴っている気がした。
(……いずれ、塔を動かすやつが来る)
道具職人ザグは歩みを止めない。
これから向かうのは、砂と風の塔のふもとにある街。
そこに行けば、新しい歯車に出会える気がしていた。
ーーー
この話はここまで。風が次の話を運んでくるまでしばしのおやすみを。
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