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サリオンの記録者

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Ⅱ.根花茶と深層の記憶

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🍄菌歴一二一年
🍄胞子四九周期

今日も二人の老匠は、地下世界の工房で茶を酌み交わすことにした。

☛:技工の老職人、バルドルフ
☞:魔法薬師の仙人、エラミス

---

☛「よく来たな、わが工房へ。とっておきの茶を用意したぞ」
☞「これは、また妙な香りじゃな」
☛「根の奥で咲く花がある。年に一度、胞子が湿った頃にだけ開く。そやつの花弁を干しておいた」
☞「……花を咲かせる根など、この地では久しく見ぬと思うていた」
☛「咲くのではない。“地上の光”を思い出すだけだ」
☞「風流を気取るな。お主のことじゃ、どうせ掘削のついでに採ってきたのであろう」
☛「採ったのではない。根が我に握らせたのだ」



☞「そういえば、“あれ”の話じゃが……」
☛「うむ」
☞「掘削の若い衆は、今ようやく第四層まで掘り進んだようじゃ。だが、あれが居た場所はそれより……ずっと深かったのであろう?」
☛「七層目だな。あそこが底かと思うたが、まだ下に向かって音が響いていた」
☞「ほお」
☛「まだ下に空間があったんだろうな。いずれ誰かが辿るだろう。それはわしではなかったがな」
☞「あれを持ち帰ったのは他でもない、お主であろう」
☛「……あれには、呼ばれていた。我が手を通って、地の上に出たにすぎん」



☞「それにしても、動かぬのう」
☛「まるで鉱石だ。けれど音を吸っておる。静かすぎるのだ」
☞「胞子すら避けておるように見える。……死んではおらぬか?」
☛「死んでおれば、腐るはずだ。けれど、あれは傷まぬ」
☞「動きもせぬ、腐りもせぬ。まるで──」
☛「──目を閉じた知恵の塊よ」



☛「そろそろ戻る。根が茶を吸いはじめた」
☞「また花を摘んでくるかの?」
☛「来年だ。この季節にしか咲かん」
☞「それまで“あれ”が目覚めなければ、退屈じゃのう」
☛「……お前が目覚め続けておれば、それでよい」


“あれ”は変わらぬ姿で、今日も沈黙していた。

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