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サリオンの記録者

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Ⅲ.いつものお茶と地下林の香り

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🍄菌歴一二一年
🍄胞子五一周期

二人の老匠は、今日も地下世界の工房で茶を酌み交わすことにした。

☛:技工の老職人、バルドルフ
☞:魔法薬師の仙人、エラミス

---

☛「ほう、今日はごく普通の香りだな」
☞「当たり前の茶が一番難しいのじゃ。なにせ毎回、奇妙な茶を持って来る誰かさんのせいでな」
☛「工房には奇妙な茸しか育たんからな。嗅覚がそれに慣れすぎた」
☞「これは地下林の入口で育つ“竜葉”の芽じゃ。朝露を吸う前に摘まねば、苦みが立つ」
☛「茶師ぶっておるが、どうせ薬草の余りだろう」
☞「残り物にこそ命は宿る。おぬしの歯車も、破片から起こしたものであろう?」
☛「……否定はせん」



☞「明日、地下林に出る。薬草の在庫が尽きてきたからの」
☛「わしも葉を摘みに付き合おう。茶の香りは地層で変わる。面白いものが採れるやもしれん」
☞「七層目の風を吸った鼻は、肥えすぎておるからの。期待はしすぎないことじゃ」
☛「何を。おぬしこそ珍しい根でも見つからんかと浮足だっとるじゃないか」
☞「地下林の奥には、新芽を吸う茸もある。胞子に混ぜれば、吸湿薬の効果が増すかもしれぬ」
☛「ま、薬と茶の境はずいぶんあいまいだな」
☞「命を通る液体という意味では、同じじゃ」



☛「“あれ”は、相変わらず動かんな」
☞「まるで黒曜石じゃ。まばたき一つせぬ」
☛「この前、工房に戻ったあと、ほんのり焦げたような匂いがした」
☞「ほう、それは……わしも感じたかもしれん」
☛「……何かが中で動いたのか、それとも目覚めようとして、また眠ったか」
☞「いずれにせよ、まだ時ではないようじゃ」



☛「……さて、今日の茶は控えめだったな」
☞「たまには、茶がただの茶である日も必要じゃ」
☛「明日は地を歩こう。根に呼ばれぬうちにな」
☞「ではその次の日は、根の夢を見に来い。熱した茸を煎じておこう」
☛「また妙な香りのするやつをな」


“あれ”は今日も、焦げた香りとともに沈黙していた。

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