4 / 5
Ⅲ.いつものお茶と地下林の香り
しおりを挟む
🍄菌歴一二一年
🍄胞子五一周期
二人の老匠は、今日も地下世界の工房で茶を酌み交わすことにした。
☛:技工の老職人、バルドルフ
☞:魔法薬師の仙人、エラミス
---
☛「ほう、今日はごく普通の香りだな」
☞「当たり前の茶が一番難しいのじゃ。なにせ毎回、奇妙な茶を持って来る誰かさんのせいでな」
☛「工房には奇妙な茸しか育たんからな。嗅覚がそれに慣れすぎた」
☞「これは地下林の入口で育つ“竜葉”の芽じゃ。朝露を吸う前に摘まねば、苦みが立つ」
☛「茶師ぶっておるが、どうせ薬草の余りだろう」
☞「残り物にこそ命は宿る。おぬしの歯車も、破片から起こしたものであろう?」
☛「……否定はせん」
⌘
☞「明日、地下林に出る。薬草の在庫が尽きてきたからの」
☛「わしも葉を摘みに付き合おう。茶の香りは地層で変わる。面白いものが採れるやもしれん」
☞「七層目の風を吸った鼻は、肥えすぎておるからの。期待はしすぎないことじゃ」
☛「何を。おぬしこそ珍しい根でも見つからんかと浮足だっとるじゃないか」
☞「地下林の奥には、新芽を吸う茸もある。胞子に混ぜれば、吸湿薬の効果が増すかもしれぬ」
☛「ま、薬と茶の境はずいぶんあいまいだな」
☞「命を通る液体という意味では、同じじゃ」
⌘
☛「“あれ”は、相変わらず動かんな」
☞「まるで黒曜石じゃ。まばたき一つせぬ」
☛「この前、工房に戻ったあと、ほんのり焦げたような匂いがした」
☞「ほう、それは……わしも感じたかもしれん」
☛「……何かが中で動いたのか、それとも目覚めようとして、また眠ったか」
☞「いずれにせよ、まだ時ではないようじゃ」
⌘
☛「……さて、今日の茶は控えめだったな」
☞「たまには、茶がただの茶である日も必要じゃ」
☛「明日は地を歩こう。根に呼ばれぬうちにな」
☞「ではその次の日は、根の夢を見に来い。熱した茸を煎じておこう」
☛「また妙な香りのするやつをな」
⌘
“あれ”は今日も、焦げた香りとともに沈黙していた。
🍄胞子五一周期
二人の老匠は、今日も地下世界の工房で茶を酌み交わすことにした。
☛:技工の老職人、バルドルフ
☞:魔法薬師の仙人、エラミス
---
☛「ほう、今日はごく普通の香りだな」
☞「当たり前の茶が一番難しいのじゃ。なにせ毎回、奇妙な茶を持って来る誰かさんのせいでな」
☛「工房には奇妙な茸しか育たんからな。嗅覚がそれに慣れすぎた」
☞「これは地下林の入口で育つ“竜葉”の芽じゃ。朝露を吸う前に摘まねば、苦みが立つ」
☛「茶師ぶっておるが、どうせ薬草の余りだろう」
☞「残り物にこそ命は宿る。おぬしの歯車も、破片から起こしたものであろう?」
☛「……否定はせん」
⌘
☞「明日、地下林に出る。薬草の在庫が尽きてきたからの」
☛「わしも葉を摘みに付き合おう。茶の香りは地層で変わる。面白いものが採れるやもしれん」
☞「七層目の風を吸った鼻は、肥えすぎておるからの。期待はしすぎないことじゃ」
☛「何を。おぬしこそ珍しい根でも見つからんかと浮足だっとるじゃないか」
☞「地下林の奥には、新芽を吸う茸もある。胞子に混ぜれば、吸湿薬の効果が増すかもしれぬ」
☛「ま、薬と茶の境はずいぶんあいまいだな」
☞「命を通る液体という意味では、同じじゃ」
⌘
☛「“あれ”は、相変わらず動かんな」
☞「まるで黒曜石じゃ。まばたき一つせぬ」
☛「この前、工房に戻ったあと、ほんのり焦げたような匂いがした」
☞「ほう、それは……わしも感じたかもしれん」
☛「……何かが中で動いたのか、それとも目覚めようとして、また眠ったか」
☞「いずれにせよ、まだ時ではないようじゃ」
⌘
☛「……さて、今日の茶は控えめだったな」
☞「たまには、茶がただの茶である日も必要じゃ」
☛「明日は地を歩こう。根に呼ばれぬうちにな」
☞「ではその次の日は、根の夢を見に来い。熱した茸を煎じておこう」
☛「また妙な香りのするやつをな」
⌘
“あれ”は今日も、焦げた香りとともに沈黙していた。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
の続編です。
アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな?
辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる