たまたまアルケミスト

門雪半蔵

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014◇馬車村(1)

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「着いたねー」

 ミーヨが、ぐーんと背伸びしながら言った。
 ずっと乗ってた『とんかち』は、オートバイみたいな前傾姿勢をいられるので、かなり大変だったろうな。

 おっ……イヤ、肩でも揉んであげたい。

「ミーヨ。街に入る前に水場探して顔洗おう。可愛い顔がススけてるぞ」

 ヘルメットもゴーグルも無しに飛ばして来たので、二人とも砂塵で顔がうす汚れていたのだ。

      ◇

 色々とトラブルはあったものの、あのあともタイヤゴロゴロダンゴムシ交換を繰り返し、走り続けた。
 なんだかんだで9時間くらいは『とんかち』に乗ってたし、速度は自転車並みでも相当な距離を移動した……ハズだ。村から100㎞くらいは移動したんじゃないかと思われる――そのくらいになる気がするだけで、正確な値じゃないけど。たぶん。

 なにしろ『永遠の道』には、道路標識も道路標示もなく、里程標もないのだ。

 完全な直線一本道で、信号も踏切も料金所も道の駅もサービスエリアもコンビニも自販機も道路工事も渋滞もふやけたエロ……イヤ、ふやけた漫画雑誌もないので、ただひたすら道を進むしかないのだった。

 ミーヨに言わせると、途中でいくつかの村の前を通り過ぎたらしいけど、まったく気付かなかった。
 このあたりの村々は、風よけの防風林に囲まれてて、ぱっと見、ただの森か林にしか見えないらしい。分かんないよ、それじゃ。

 なお、俺たちのゴロゴロダンゴムシ走法は子供の遊びの延長線上みたいで、ほかの旅行者は、かなりしっかりとした『馬車』を利用していた。

 そう、実は途中で、何台かの『馬車』とすれ違った。
 この異世界にも、『馬車』はあったのだ。

 考えてみれば、小一時間ごとにゴロゴロダンゴムシを必要な数だけ探して捕まえるのは大変すぎるだろうし、当然といえば当然の事だったのだ。
 それを知ってちょっと恥ずかしかったけど、ミーヨは特に気にしていなかったので、俺も気にしないことにする。

 ただ、『永遠の道』はとにかく道幅が広いので、100m向こう側の対向車線を走る車体なんて、細かいとこは見えなかった。
 せっかくだだっ広いのに、人間はその両端のみを利用しているだけなのだ。

 ミーヨにその理由を訊くと、
「真ん中の広いとこは『神様の通り道』だから」
 あっさりとそう言われた。

 日本の神社の参道みたいな話だ。

 そして『永遠の道』は、夜行性の生き物がウロチョロするので、夜間は立ち入らないのが普通らしい。
 聞いたら、『道』の中央部にいっぱいいた白いソフトボールみたいな『陸棲型』は、夜中に『道』の上を這いまわるそうなのだ。中身はカタツムリみたいな軟体動物らしいので、ヌメヌメしてて気持ち悪いらしい。ミーヨが可愛い顔をしかめながら教えてくれた。

 それはそれとして、意外とあっけなく着いちゃったのだ。

 最初の目的地『冶金やきんの丘』に。

      ◇

 『永遠の道』の傍らには、ところどころに水が湧き出ている箇所があって、そこから流れ出す水は、白くて綺麗な水路に導かれて、街まで続いてる。
 『冶金の丘』への「接続路」は、そんな水路沿いに整備されていた。

 街への接続路に入ると、『永遠の道』を走行中に、すでに目についていた大きな丘や塔が間近に見えた。

 『丘』といっても、どう見ても人工的なヤツだ。変なカタチだ。

 ミーヨに聞いたら「強風かぜ除けのためじゃない?」とあっさり言われた。
 とにかく、まん丸い薄茶色のドームだ。饅頭そっくりだ。茶色い温泉饅頭だ。中身は「こしあん」に違いない。俺は「粒あん」派なのに……って、違う。てか、そろそろ腹減った。

 高い塔のある市街地は、全体がほりか運河にぐるっと囲まれていて、その水面から高い石垣が切り立つようにそびえていた。なんとなく日本のお城の石垣みたいだ。ただ、岩肌が茶色いので、完全に別物に見える。そんで何かがれたような白い筋があちこちにある。排水口からの水垢みずあかにしては真っ白い。

 この「石垣」って何かに対する防壁なんだろうけど……何に対するものなんだろ?
 濠の外は森だ。こんもりとした森の樹々は、鮮やかな若葉色で綺麗だ。太くて長い幹も緑がかってるから、俺が異世界初日に身を寄せてお世話になったブロッコリーみたいな木と同じヤツだろう。

 あの森に……何か危険な生物が棲んでんのかな? クマとか狼みたいな。

 そんで「石垣」は、その上に載ってる建物と見比べると、2階分くらいの高さだ。そう考えると、大して高くはない。でも、クマとか狼くらいなら侵入を阻止出来そうだ。

 街の門まで続く「接続路」は、緩い坂道になっていた。
 石垣の上にある市街地と、それなりの高低差があるのだ。

 市街地のあちこちから、白い煙が立ち上っているのが見える。
 でも煙じゃなくて、蒸気のようにも見える。どっちだろ?
 
 ――とりあえず、日暮れも近そうなので、さっさと中に入りたい。

「ジンくん。こっち向いて――はい、祈願。★洗顔っ☆」

 ミーヨが、俺の頬っぺたを指先でなぞりながら『魔法』を発動させた。
 虹色のキラキラとした小さな星が舞って、顔が数秒ですべすべさっぱりした。

 てか、『洗顔魔法』なんてあるのか?

「祈願。★洗顔☆」
 ミーヨが自分自身にも『魔法』をかけてる。

「――あ、あれ?」

 なんか、失敗したらしくて、目立つおでこだけがテカテカになっている……。

 洗顔といえば――来る途中のトイレ休憩で、●(液体)を元にした『錬成』にチャレンジして、一回目は「シャンプー」を錬成して成功した。

 ただ自分で使う気にはなれず、よけいなとこまでベトベトになって後始末がタイヘンだった……。

 そして2回目には、金属を溶かすような強酸性の液体をイメージして出してみたら、それが着地・・した地面から白煙と異臭があがって一人でムセまくってしまった。

 いま考えてみると、なぜ俺様の俺様そのものは無事だったのだろう? 謎だ。

 ●(固体)の『錬成』はまだ試していない。
 死んで蘇って、二日しか経っていないせいか、老廃物が溜まっていないせいなのか……「出ない」から仕方ない。

 そんなことを考えながら、俺は本日13匹めと14匹めのゴロゴロダンゴムシを解放した。

 乗っていた『とんかち』は、その気になれば人力でけるので、変わった形のスーツケースだと思って引っ張っていこう。街に入る時にお金とられるかもしれないけど、コレ手荷物扱いしてくれるかな?

 ご褒美の『虹色豆』という名の青い豆を、ぱらっと地面に撒くと、すぐに二匹が近寄ってそれを食べ始めた。

 青いのに、なんで虹色豆なんだろう?

 これを「青」と言うと「虹の色は虹色だ! 成敗!!」ってバッサリ斬られちゃうのか?
 ちなみにコレ。『地球』は日本のアニメ『多田君は○をしない』の劇中ドラマだ。

 ここは『地球』でも日本でもないし、知らないことばっかりだ……。

      ◇

 街に入るための接続路には、すでに何台もの馬車が並んでいた。

 緩い坂道なので、待つ間はみんな後輪にクサビみたいな車輪止めをハメて、後退あとずさりを防止してる。
 俺たちの『とんかち』にはそんなものはないから、俺用の木靴をハメた。『全知神』とか言う女神様の加護『★不可侵の被膜☆』のおかげか素足でもぜんぜん平気なのだ。

 あと、さくっと『馬車』と呼んだけど、使役されている動物は馬だけじゃなかった。
 いかにも力強そうな馬車馬にしか見えない生き物。小型のロバやラバっぽい生き物――はいいとして、中にはイヌゾリを牽くような犬の群れやら、鹿みたいなツノのある四脚獣。デカい爬虫類的な生き物。飛べない感じのデカい鳥までいた。

 ――そして、ヘンな獣の耳をつけた獣人?

 いろいろだった。

 地球でもガソリン・エンジンもディーゼルもEVもハイブリットも水素燃料もまとめて『自動車クルマ』と呼ばれてるんだし、めんどくさいから、便宜上ぜんぶ『馬車』と呼ぶことにする。

 馬車は、車体やカタチはまちまちだけど、共通して車輪が精巧でよく出来ていた。
 規格化されていて、どこかで工業的に量産されてるような感じで、付け替えとかが簡単そうだった。車輪だけ見ると、それなりに工業技術が発展してるように見える。

 でもやっぱり、どれも内蔵動力源とかなくて、動物に牽かせてる。

 なんでだろ?

「この『とんかち』ってゴロゴロダンゴムシがないと走らないよな? お前、どうやって村から『永遠の道』までコレいてきたんだ?」
 ちょっと手持ち無沙汰なので、訊いてみた。

「馬でだよ。村の共有だから『道』まで牽いてもらったら、すぐ帰したけど」
「そっかー」

 人力じゃなかったのね。
 そう言えば来る途中で、オウジサマとか言う野生化した白馬を見たっけ。逆にきちんと飼育されてる馬もいるって事だもんな。てか馬車を牽いてる馬がそこにいるもんな。

「あれ? ということは村から『道』までの道があったんだ……」
「そりゃそうでしょ」
「そりゃそうだよね」

 まあ、納得した。

 麦畑をかき分けて突き進んだことあるひと手を挙げて!

 はーい!

      ◇

 実は『永遠の道』を挟んだ『冶金の丘』の「お向かい」にも、町らしい建物のかたまりが見えるけど、
「あれは『駅』だよ」
 とミーヨに言われて、それっきり説明なしだ。

 俺も『前世』で日本にいた頃には、『駅』に特別な興味も関心も持ってなかったから、それと似たような感じでスルーしてるみたいだ。
 多分、鉄道の駅じゃなくて、『馬車』で移動する人たちが利用するような施設だろうと思う。

 俺とミーヨも街に入るために、人や馬車の列に並んだ。
 対向車線には、俺たちと入れ違いに、街から出て行く人たちの馬車の列が通りすぎていく。

 この世界で『俺』として目覚めてから、人の群れに混じるのは初めての経験だったので、ちょっと緊張する。

 で、周りの人たちを少し観察してみると、見た目は完全に「地球人」な人たちばかりだった。
 21世紀の科学文明に到達する以前の、いつの時代かに、地球からなんらかの方法で連れてこられた人たちの子孫――のようにしか見えない。

 ミーヨが言ってた『方舟はこぶね始祖しそさま』って、いつ頃の時代の、どの辺の人たちなんだろ? 名前が伝わってないらしいんだよな。そんで、なんだってこの異世界に、ワープするみたいにやって来たんだろ?

 ただ、元はどうあれ、ユーラシア大陸中央部みたいな混血が進んでいるような気がする。ミーヨはコーカソイド系で色白な感じだけど、六割くらいの人たちの肌は、すこし浅黒い。
 実は俺も、自分の手足を見るかぎりはそんな感じだ。……そう言えば、鏡がないので自分の顔をちゃんと見てない。俺ってどんな顔してるのやら。

 ――そして、完全な地球人に見える人たちに混じって、頭に犬耳やら馬耳を付けた人がちらほらいた。

 一体なんなのか、すごい気になる。

 それらは、いわゆるファンタジー的異世界ものにいる「獣人」とか「亜人」ではないようで……ちゃんと自前の耳が人間と同じ個所にあるのに、わざわざ頭に「犬耳」や「馬耳」を付けている。
 よく出来てるけど、作り物なのがバレバレだ。

 ファッションで付けているようにも見えない。
 彼らは一様に貧しそうで、普通の人よりも一段下に扱われていた。
 主人と思われる人間につき従い、使役されているように見えるのだ。

 我慢できなくなって、ミーヨに小声で訊いてみる。

(ミーヨ。ミーヨ。あの動物の耳つけてる人たちって何?)
奴隷ドレイ。あんまりじろじろ見ちゃダメだよ)

 ああ、やっぱり。

 異世界といっても、現実ってこんなものか? と思ったけど、それには理由らしきものがあるらしい。

(『前世』ですごく悪いことした人の『魂』がこの世界に来ると、『奴隷の印』がついて生まれてくるんだって)

 ミーヨが俺の肩に手をかけ、耳元でそっと教えてくれた。

 そうなの?

 『前世』での罪によって、罰として奴隷として生きなきゃならないのか?

 ――それがこの世界の決まりなら、俺には何も言えないけど。

 たしか『地球』の何かの宗教にも、そんな制度なかった?
 ヒトってどこの惑星に住んでも、似たような事考えるのかな?

 でも、奴隷の『前世』がホントに重犯罪者だとしたら、奴隷の反乱とか起きたらヤバい事になりそう――とか、ついロクでもない想像をしてしまう。これがフラグにならない事を祈ろう。

 そして俺も……「来世」が奴隷とかイヤなので、きちんと生きよう。

 絶対に、人殺しとかしないように。

 そう、心に誓う。
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