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015◇馬車村(2)
しおりを挟む空は綺麗な夕焼け色だ。
「ああ、やだなあ、もう夕焼けだ」
ミーヨが心底嫌そうに呟いて、俺の手を強く握って来た。
何かに不安を感じて、怯えてる感じだ。
「ぜんぜん前に進まないね」
なんか、列の前の方――というか門のあたりで問題が発生しているらしく、列が進まなくなってしばらく経っている。
そのまま、うだうだやってる間に日が暮れてきて、ついには街の門が閉まってしまうらしかった。
「受け付けは明日にする。今日はここまでだ! 散れ!」
「「「「ぶうぶう!」」」」
門の番兵らしい男たちがやって来て、大声で喚くと、待っていた人の群れから抗議の声が沸き上がる。ブーイングってやつだ。どこでも同じだなぁ。
「「「「ぶうぶう!」」」」
「うるさーい、散れ! 散れ!」
無碍に追い払われた。
あーあ、あっさりと目的地に着いたと思ったら、こんな展開か……。
でも、なんだろう。
例えトラブルが起きても、色々な事に対する珍しさが先に立つので、本気で怒る気にはならない。
でもとりあえず、今夜は野宿決定だ。
「どうする、ミーヨ? 『旅人のマントル』で一緒に寝るか?」
「うん」
ミーヨがあっさり同意する。
よし、なるべく人目につかないような場所で、みんなと離れて寝よう。
俺のファイティング・スピリットに火が点いたぜ。
全裸が、俺の最強モードだということを教えてやろう。
やってやるぜ(※性的に)。
……そんなバカなことを考えていると、列に並んでいた馬車が動き出した。
みんな、あきらめて街の外で一泊する覚悟を決めたらしい。
門の近くに、森を切り拓いたみたいな空き地があって、そこに馬車が何台も丸くかたまって、臨時の一時的な宿営地『馬車村』みたいなものが出来つつあった。
俺とミーヨも、なんとなくその輪に誘われて、中に入ってしまっていた。
せっかく二人きりの夜を過ごせると思ったのに――しょんぼりだ。
「晩御飯どうしよう? 『店馬車』があるから商売始めるかも」
ミーヨが、きょろきょろ周りを見ながら言った。
店馬車?
移動店舗とか、屋台みたいなものか?
「……もう夜だし、売れ残り安くならないかな?」
てか、この子の、スーパーの見切り品を狙う主婦みたいな逞しさはなに?
◇
わりと簡単に目的地に着いてしまって、旅の情緒みたいなものを味わえなかったので、実際に『馬車村』の中に入ってしまうと、物珍しくて楽しかった。
『魔法』で光る青白い電球みたいなものと、空中に浮かぶ『魔法』の発光球体に照らされて、お祭りの会場みたいな雰囲気になってる。
色んな人がいた。
金属製品を買い付けに来た商人。農作物を運んできた農民。各地を回って鉄クズを集めて届けに来たという廃品回収みたいな人。ミーヨの言っていた店馬車の売り子。旅の楽団までいた。……そして、獣耳をつけた奴隷の人たち。
そんな人たちで、焚き火を囲む。
べつだん寒いわけではないんだけど、なんかいつの間にか誰かが火を熾していたのだ。
でもって、そのせいでちょっと煙い。アニメ『ゆる○ャン△』のワンシーンみたいだ。なんか、志摩○ンがカップかなんかが煤けるのを嫌って、焚き火じゃなくてバーナーでお湯を沸かしてたのを、ふと思い出す。
向こうでは、まるで錬金工房のゲームに出てくる「調合専用釜」みたいな器具で、煮込み料理を温める人までいる。それを目当てに、ミーヨが小銭を持って向かった。売り物なの?
旅慣れた人たちが多かったので、俺たちのことは「田舎から出てきたばかりの駆け落ち家出カップル」という設定にして、いろいろ話を聞かせてもらうことにする……てか、それ設定じゃないな。事実だな。
「俺ら、田舎から出て来たばっかなんスけど、このあたりって旅してて危なくないんスか?」
うん、我ながらなかなか小者っぽい(笑)。
「『永遠の道』の上なら大丈夫でしょう。最近では、道の上で『獣/化物』に襲われたという話はまず聞きません」
わりと誠実そうな商人ぽい人が応えてくれた。
『ケモノ』と聴いて、俺の言語変換システム(自前の脳と前世の記憶)が、『獣』と『化け物』という二つの漢字を表示した。
そういう「二つの意味」があるらしい。
てか、やっぱ、いるのね?
魔物とかモンスターっぽい存在が。
今のところ、エンカウント・ゼロだけど……そのうち、何か対策がいるだろうなぁ。
「んだね。昔は家畜の群れを歩かせて、襲われる事もあったけど、最近はなくなったねー。祈願! ★送風☆」
二人組の農夫の、温厚そうな人がそう言って、手慣れた感じで焚き火の勢いを強くして、何かの干物を炙ってる。
温度の高い青い炎だ。ガスバーナーみたいだ。『魔法』すげー。
でも、やっぱり、ちょっと煙い。そして干物臭い。
キャンプの焚き火の定番はアレだと思うんだけど……マシュマロないのかな? この世界には。
「……そうなんスか」
二人とも「最近は」って言ってるから、何かの事情が変化してるのかな?
いろいろ訊くと、充分な安全が確保されている場所にだけ、人間が住んでる感じだ。
で、それ以外のところが『ケモノ』の生息域になってる?
でも、この街の濠には、高い石垣が有ったけどな。そんで今居るここは平気なの?
「ここから『王都』までは『道の警備隊』が巡回していますしね」
「へー、そんなのがあるんスか」
交通違反を取り締まるような感じじゃ無さそうだし、何から何を守ってるんだろ?
「ただ『空からの恐怖』だけはどこにいてもやって来るし、ありゃ防ぐの難儀だからなぁ」
屑鉄屋(自分でそう名乗った)のおっちゃんが、夜空を見上げて嘆いた。
夜空には、この惑星を取り囲んでると思われる白い環が、弧状に見える。
時間帯によっては、白く見えるんだな。夜中には黒いアーチに見えたけど。
水平線には昨夜見た「赤い薔薇」が上って来てる。
ミーヨに聞いたら「夏の星座」のひとつで、冬場は見えないらしい。
『みなみのわっか』の反対……北の方には「棒渦巻銀河」も見える。
で、『空からの恐怖』?
「なんスか、それ?」
「兄ちゃん。知らねぇのか?」
おっちゃんが呆れたように言う。
「イヤ、この目で見たコトはないっス」
誰でも知ってる有名なことのようなので、言いつくろっておく。
「そーかぁ、兄ちゃん、そりゃ今まで運がよかったんだよ。神様たちに感謝しにゃならんぞ」
『全知神』とか言う女神様に「斬殺」されたけど……そうなの?
「よく見かけるのは『怪鳥』……ですね。それと、この辺りにはいませんが『翼竜』というヤツもいます。人の何倍もあります」
商人さんが言う。
「あと、『軍団鳥』だ。あいつら何でも食うし、すごい臭いフンすんだ」
農夫Aさん。
『怪鳥』とかくらいなら『★不可侵の被膜☆』があるから、突かれても平気な気がする。
「あとは流れ星――『隕石』だな。鉄が混じってりゃ、売れるんだが……」
屑鉄屋のおっちゃん。
「そんなのがいるんスか?」
この惑星って、日常的な心配事になるほど、隕石が降るのか?
今も夜空に見えてるけど、この惑星には環があるからな。
あそこから、隕石がガンガン降り注ぐとかじゃないよな?
実は先刻、ミーヨに「故郷の村」の事を聞いたら、真ん中に池のあるまん丸い窪地で、周りも丸く盛り上がっていて、そこには防風林が植えてある――という話だった。
どう考えても、「クレーター盆地」な気がする。
火山の「カルデラ」かとも思ったけど、ミーヨは「火山」を知らなかった。
でも、火を吹くドラゴンとか言われなくて良かった。
バカデカい生き物に丸呑みにされたら『★不可侵の被膜☆』もなにもない気がするし。
待てよ? 人の何倍もある『翼竜』はいるって言ってたな。
そこへ、湯気の立つ木の椀を手にしたミーヨが戻って来た。
「はい、これ」
そして木の椀を俺に渡してよこす。木のスプーンがついてる。
椀の中身はなんかどろっとした煮込みだ。何が入ってるのか判らないくらい煮込んであって、かなり甘みがある。
「何の話してたの?」
「『空からの恐怖』の話」
「ふうん」
ミーヨは当然のように俺の隣に座って、
「『ふしぎなわっか』を空から見つけた『対空兵団』ってね、そういうのをやっつけるためにいるんだよ」
そんな事を言った。
俺たちを見ていたおっちゃんたちに、なんとなくザワっとした空気が走る。
ミーヨは可愛いから、仕方ないけど。まったく、男ってしょうもないよな。
「『ふしぎなわっか』……って、お前らボコ村から来たのか?」
それまで黙っていた農夫B氏が割り込んで来た。
「ええ」
ミーヨが軽く受ける。
ところで『ふしぎなわっか』って、そんなに有名な話だったのか?
そんで、ミーヨの村(俺の故郷でもあるワケだけど)って「ボコ村」って名前だったのか? いま初めて知った。
てせも、なんか「窪地の村」的な意味合いの言葉が、「ボコ村」って感じに、俺の脳内で変換される気もする。
そんで、『ガル○ン』の熊キャラとは、完全に無関係だと思われる。
で、そのボコ村を出たって言っても、どっかで村の関係者に会っちゃうんだろうなあ。
俺のこと知ってる人に会わないよな?
そんな人に会っても『俺』は知らないよ?
「俺りゃあ、生まれはボコ村なんだよ。こいつ(農夫Aさん)の親戚んとこに婿にはいっちまってるけどな。いやー、懐かしいなぁ」
「おじさんのご実家、どちらですか?」
ミーヨが話を続けてくれている。
おっちゃんらも、女の子と話す方が楽しそうだ。うん、気持ちはよく分かる。
俺は煮込みを食べながら、ぼんやりと辺りを見渡してみる。
キャンキャン! キャンキャン!!
犬の鳴き声が聞こえる。
馬車馬代わりの「犬の軍団」にエサをやるために、口元を抑えていた装具を外したせいらしい。かなり騒がしい。寝る前にまた付けて欲しい。それとも食べ終わると静かになるのかな?
一方で、馬やロバやラバたちは無口(?)だ。草食ってる(笑)。
二本の枝角がある「鹿馬」も静かだ。訊いたらそんな名前だった。
なんか知らないけど暗闇の中なのに、右目で見ると色んな物の様子が判る気がする。
『全知神』とか言う女神様に埋め込まれた『光眼』って「暗視機能」があるのかな?
あるんならもっと見えるようにな――ったよ。
ホントにあったよ。「暗視機能」。
色のないモノクロ的な感じだけど、思いっきり見えてるよ。……なんか妙に嬉しくねー。
あ、アレ何だろ? デカい岩? 違う。何か突起物が突き出た。
ああ、カメだ。
むっくり起き上がったのは亀の頭だ(笑)。
さっきミーヨに教えてもらった。爬虫類っぽい「ハダカリクガメ」だ。
陸亀で甲羅がないから裸呼ばわりされてるらしい……。地球の寒い海にいる、妖精とか天使とか言われてる「クリオネ」も和名は「ハダカカメガイ(裸亀貝)」だけど……。
脚を折りたたんで丸まって寝てる飛べない鳥は「ダメドリ」って名だった。
飛べないからダメらしい……酷い。
焚き火の向こう側では、旅の楽団が静かな曲を奏でていた。
聴いたことのない音色の、ふしぎな形の楽器だった。
前世では味わえない幻想的な夜だった。
(この光景を、目に焼き付けておこう)
パシャ!
ん? なに今の音。
この世界ってカメラ無いはずだけど……って、ひょっとすると俺の脳内効果音か?
またまた右目の『光眼』の新機能かな?
試しとこ。
えっと――ミーヨの横顔。うん、可愛い。
(右目・画像・撮影・保存)
パシャ!
あ、やっぱりだ。
……ただ、どうやったら視れるんだろ?
そして、他人にも見せれるのか?
出来ないんなら、ただの「心の中の思い出」でしかないぞ?
まさかとは思うけど、『光眼』をプロジェクター替わりにして、どっかに投影すんのか?
それ、ちょっと人前では無理だな。
関係者以外立ち入り禁止にして、あとで試そう。
あの女神、いちおう『全知神』らしいから、知的好奇心から画像資料を残したくてコレを創ったに違いない。
うん、ただの照明器具ならあんまり使い道もなかったろうけど、これから『光眼』くん大活躍だな。
――てなかんじで、俺は異世界で「カメラ」を手に入れちゃいました。
カモン! ラッキースケベ(笑)!!
◆
こらこら。
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