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034◇空からの恐怖(3)
しおりを挟む『地球』では昔、空を飛ぶためのパイオニアたちが、小さな人造の翼を羽ばたかせながら、高い所から飛び降りてたそうで、それは「タワージャンパー」と呼ばれてたらしい。
もちろん、そんなものでは空は飛べないのだけれど……。
でもまあ、俺は『★不可侵の被膜☆』のお陰で無事でした。
今朝の実験は終了。
さてと、ミーヨのところに帰ろう。
――とも言ってられないので、円形広場の石畳に降り立った俺は、上を見上げる。
これで下から狙える。外しても、雲を蒸発させるだけだしな。
なんて事を考えていたら、石弾攻撃を喰らった。
ひゅるるるるるるるる――
鳥肌が立つような風切り音がして、物凄い速度で親指くらいの尖った石が飛んできては、俺の皮膚上に展開されている『★不可侵の被膜☆』に当たって、運動エネルギーを失って、ボトボトと広場の石畳に落ちていく。
有利な上空から狙ってるとはいえ、ハンパない命中率だ。
狙われてるのは、胴体の中心部。心臓だ。
いまのところ、全弾命中してる。
『永遠の道』で「動力付車輪」としてお世話になったゴロゴロダンゴムシたちは、まるでタイヤみたいに丸まって横倒しになってるけど、それはこの石弾投射攻撃から身を護るために、ドーナツ状になって「体の中心」を「空隙」にしてあるからだ――と言う説もあるらしい。俺はゴロゴロダンゴムシじゃないから、本当のところは知らないけれども。
にしても、『★不可侵の被膜☆』が無かったら、俺もう死んでるな。鳥のエサだ。
――本気で、もう工房に帰ろうかな?
でも、やるしかないか。
(右目・輝度最大・収束最大・ピンポイント照射)
わりと単純な飛び方なので、未来位置の予測は楽勝だった。
(レーザー眼)
ボじゅッ!
エグい音がして、ソイツの片側の翼がすべて吹き飛んだ。
本体は、大きく傾いで――ドン! と塔にぶつかり、そのまま壁面をずるずると落ちて来る。
「うーん、やっぱり名前変えようかな?」
思ってたより気恥ずかしかったので、ちょっと迷う。
レーザー眼。
俺の右目の魔眼『光眼』の発光機能を利用した攻撃だ。
『光眼』を『身体錬成』で改変して、光学的に照射面積を絞り込んだレーザー・ポインタをつくる……つもりだったのだけど、さんざん魔改造した結果、もはやレーザー兵器と呼べるものになってしまったのだった。
と言っても、人間の眼球くらいの大きさで、あんな強力なレーザーなんて発振出来るはずがないから、間違いなく『魔法』に関わる『守護の星』が働いているハズだけど……正確な作動原理は俺にもよく分かってない。
とにかく、コレを俺にくれた『全知神』さまもびっくりだろう。
◇
「★着地っ☆」
プリムローズさんが『魔法』で塔から飛んで来た。
着地の際に、地面からぶわっと空気の反射流が起きたけど、プリムローズさんが手に持っていた『旅人のマントル』がジャマで、残念ながら俺の興味を惹くようなものは何も見えなかった。しょんぼり。
「信じられない! なんて無茶なの。なんで生きてるのあなたは? きっちり説明しなさい!」
いやー、ちょっと説明しにくいです。
「……まだ、終わってないか」
ソイツは、まだ瀕死のまま生きて、もがいていた。
人間の脅威になっている存在とはいえ、生命を奪っていいのだろうか?
「致命傷みたいね、助からないわ。トドメを刺しなさい」
プリムローズさんが冷静に言う。
「でも」
俺がためらっていると、諭すように言われた。
「殺すのも情けなのよ。このまま苦しませ続ける気?」
「そう言われても、適当な武器がないんです」
全裸だし。
『この世界』の人って食事用のマイ・ナイフ持ってる人多いけど、俺は持ってない。
てか、小さな小刀じゃ、コイツをどうこう出来そうにないけど。
「ああ、もうしょうがないわね」
プリムローズさんは、大胆にスカートをめくりあげると、右の太ももに括りつけてある、拳銃のホルスターみたいな革のベルトから何かを取り出した。ナイフだった。
護身用なのかな?
「食事用の小刀なのに」
そっちでしたか。
そして、右手の中指と親指を合わせた。
「『守護の星』よ! 『世界の理の司』に働きかけよ! ★慈悲の一撃っ☆」
言うのと同時に、パキン! と指を鳴らす。
物凄くいい音だった。いつも不発に終わるミーヨと大違いだ。
小さなナイフに、キラキラと虹色に輝く魔法の星がまとわりついて、大きな剣のカタチに成った。そこから妙な高周波音がする。
そして、魔法の剣を振り下ろして、あっさりと四ツ目の怪鳥の首を両断した。
怖っ!
というか……。
「さっき、『魔法』は人間が『この世界で生きるための手助け』で、他の生物を『殺すための道具』じゃない、って言ってなかったですか?」
俺はなんとなく黙っていられなくて、突っ込みを入れた。
そしたら、俺の「レーザー眼」も、やっぱり『魔法』じゃないのかも知れないな。
「ああ、そうね。たしかに、言ったよ」
プリムローズさんが、何かの発見をしたみたいに興味深そうだった。
「けれど、これは食糧にするための生き物を苦しまさずに殺すための『屠殺専用魔法』なのよ。人がそれを食べて、生きるためのね。だから『生きるための手助け』で間違ってはいないと思うけど」
彼女の中では、矛盾が解決されているようだけど……俺にはよく判らない。
てか、この警告色みたいなカラーリングの怪鳥を……食うの?
「あとは……瀕死状態の生き物の、苦痛を取り除いてあげる時にも発動するのよ。君が何かして、瀕死状態だったでしょ?」
「まあ……そうですけど」
俺の「レーザー眼」の一撃が、言ってみれば「致死ダメージ」だったわけか……。
誰がそれを「判定」してるんだろう?
さっき、彼女が言ってた『世界の理の司』ってヤツか?
そんな俺の思いとは関係なく、彼女は無言でふしぎな仕草をした。
「…………」
イヤ、俺には解る。
四ツ目の「冥福」を祈り、「合掌」したのだ。
純粋な『この世界』の人ならば、こんな時にはミーヨみたいに「X」印を描くハズだ。
「プリムローズさんって中身は元・日本人ですよね?」
どうしても訊きたくなった。訊かずにはいられなかった。
「…………」
彼女は何も言わなかったけど、どうしても気になることがあったので、言葉を続ける。
「『デコピン』と『指パッチン』――ひょっとして関西ご出身ですか?」
実はそうでしょ?
「……前世のことはお互いに詮索しない。いい?」
じろりとガラス玉みたいな冷たい目で睨まれた。
怖っ。
この人の瞳、血液の赤みがないと紫色じゃなくて、水色のガラス玉に見えるのだ。
「……ハイ」
なんか、金○袋がキュンと縮まる。さっきの『屠殺専用魔法』が怖すぎた。
「コレはあなたに譲るわ。手柄にすれば」
プリムローズさんが、血が流れたままの怪鳥を指さす。
「どういうことですか?」
なんとなく、彼女の『中の人』が俺よりもずっと年上な気がして、タメ口がきけなくなりつつある。
見た目は十代半ばの美少女なのに、そこに棲んでる『魂』の成熟のようなものを感じてしまう。
「『空からの恐怖』を討伐した者には報奨金が出るから、あなたが貰うといいわ。わたしは無関係という事にしたいから」
突き放すように言われた。
「無関係? ……ところで、コイツが現れた時に『ああ、やっちゃった! 朝方に『飛行魔法』を使うと、呼び寄せちゃうってホントだったのね』とか言ってませんでした?」
「……」
無言だ。
突っ込まれたくなかったんスね? いろいろと不都合なんスね?
「……ぼそっ(聞かれてたのか)」
だから、その呟きが俺には聞こえちゃうんですってば。
「というか、俺もどんな風に倒したのか? って事情を聴かれるのがイヤなので、このまま立ち去りたいんですけど」
滅茶苦茶な戦い方だったから、人には話したくないな。
「ああ、そうね。あなたも説明しにくいでしょうね。まあ、好きにして。私はもう行かなくてはならないから、行くわ」
最後はもうどうでもいいみたいに言って、立ち去ろうとしたけど――
不意に、何かを思い出したように振り返って、
「あなた、どこに住んでるの? 時間をつくって会いに行くから、教えてくれる?」
わりと穏やかな表情で、そう言われた。
「西の『濠』沿いに大き目のパン工房があって、そこに下宿してます」
俺は正直に言った。
「パン工房? ミーヨと一緒に?」
「ハイ」
「へえええ、意外。ま、いいか、そのうち会いに行くから、じゃあ、また」
プリムローズさんは、そう言って立ち去った。
「ハイ。また」
再会を約束して、別れた。
俺も面倒くさい事はイヤなので、報奨金とやらは諦めて帰ろう。
どうせ『金一封』程度だろうし。
朝食がまだなので、腹減ってるし。
『四ツ目の怪鳥』の死骸を、広場に放置っていうのもアレだけど……。
◇
――こうして『冶金の丘』の平和は守られた。
その守り手が一体誰であったのか、誰にも知られることなく。
◆
名を秘した善行は、必ずしも善意の結果ではない。
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