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033◇空からの恐怖(2)
しおりを挟む「でも、今日は『絶対に働いてはいけない日』なんじゃないの?」
「そうよ、おかげで居るはずの『対空兵団』の駐屯兵がここに居ないんじゃない……って早く鳴らしなさい!」
プリムローズさんは、いらだっているようだ。
そうこうしてるうちに、巨大な鳥が近づいてきた。
空を飛んでるから、『鳥』と呼んでるけど、地球のそれとは大分違う。
決定的に違うのは、その六枚の翼だった。
飛行機の翼のような主翼の開長は数mくらい――そして、その前方に一対の高速で羽搏く牽引式プロペラみたいな役目の翼を持ち、目に見えないほどの高速で動いているらしく、ずっとブ――ンと低周波音がしている。
体長は3mを超えるくらいで、胴体は毒蛇のような邪悪な感じのカラーリングだった。
後方に伸びた翼は脚を兼ねているらしい。
爪がなくて、趾の間に水かきっぽい被膜がある――飛行機の昇降舵とか方向舵みたいな役割を持っているのかも。イヤ、ラダーは主翼の端っこについてるかな。
長い首の先の頭部には眼が四つあって、上下左右に死角のない感じに付いている、なんというか異形の造形だ。
クチバシは空気抵抗を軽減するためか、尖ってて鋭い。
突かれると痛そう。ただ俺には『★不可侵の被膜☆』があるので、突かれないとは思うけど。
それにしても……女神『全知神』から貰った右目の魔眼『光眼』の機能なのか、動いてるのに細かいところまでめっちゃ良く見える。
ソイツは俺とプリムローズさんに気付いているのに、塔の中に居るせいか、攻撃してはこない。
なんとなく、風の魔法みたいなものを使うのかと思っていたけど、拍子抜けだ。
攻撃手段が至近距離からの直接物理オンリーだというなら、『空からの恐怖』という名前ほどの恐怖は感じない。
でも人から聞いた話では、口から石弾を飛ばして地表の敵……というか「エサ」を倒して、死体を持ち去ってどこかで貪り喰うらしい。
ここは塔の上なので、高低差を利用出来ない。
敢えて、その「石弾投射攻撃」をしてこないだけかもしれない。
女の子の前でカッコつけたい気持ちもあったけど――なんか、自分でもびっくりするくらい冷静に、醒めた目で状況を見ていた。
これからの旅の途中で、バトルがあることを前提に、いろいろと地道な自己改造を続けてきているので、
(やっとバトルかぁ――ここまで長かったなぁ……しみじみ)
とか呑気に思っていた。
「大丈夫、ヤツは俺が倒す。君は逃げて!」
一度、こういう事を言ってみたかったのだ。うん。
「はあ? 寝ぼけてるの?」
プリムローズさんはのってくれなかった。残念。
「ま、見てて」
(右目・輝度最大・照射三秒)
「行くぜっっ、目からビィィィィイイイイム!」
俺は『四ツ目の怪鳥』目掛けて『光眼』の投光機能『目からビーム』を発動した。
突然まばゆい光を浴びた『四ツ目の怪鳥』の飛行姿勢が、ゆらりと揺れた。
効果はそれだけだった。
最初から、ただの目くらましのつもりだったけど――挑発には成功したみたいだ。
ソイツは俺を「敵」と認定して、俺たちがいる塔の周囲を旋回し始めた。
うん、街を狙わないんなら、別に警鐘を鳴らす必要はないだろう。
今日、お休みだから、みんなまだ寝てるだろうし。
横顔(?)についてる片側の二つの眼が、塔の中にいる俺たちを睨んでいる。
「私がやるから、あなた引っ込んでなさい」
プリムローズさんが強気だ。
なんなの、その自信?
彼女は右手の小指の爪を親指で押さえた。
何の仕草かよく分からないけど、そのままの手を怪鳥に向けて、その動きを追う。
そして、
「『守護の星』よ! 『世界の理の司』に働きかけよ! ★空気爆弾っ☆」
キラン☆ と虹色の星が舞った。
彼女の強気の根拠は『魔法』だった。
その発動方式がミーヨとまるで違う。初めて聞くやり方だ。
でも……戦闘中に『世界の理』とか言われると、中二病っぽく聞こえるな。
「……ん?」
不意に、横方向から妙な熱の放射を感じる。何なの、これ?
「★解放っ☆」
パチン! と小指を使ったデコピンの仕草をすると――
ドバン!
『四ツ目の怪鳥』の前方で何かが爆発し、白い水蒸気と小さな氷がキラキラと舞った。
高圧縮した空気の塊を解放して、爆発的に膨張させたらしい。これが「空気爆弾」?
冷風が俺たちにもビシビシ当たって、冷たいっス。
『四ツ目の怪鳥』は爆発の衝撃で大きく姿勢を崩した……でも、まだ飛んでる。
「これじゃダメか」
悔しそうに彼女は言って、次の動作に入った。
今度は人差し指の爪を親指で押さえ、タメのようなものを作っている。
「『守護の星』よ! 『世界の理の司』に働きかけよ! ★可燃気球っ☆」
また、キラン☆ と虹色の星が舞う。
そして凄い数の虹色の薄膜に包まれたシャボン玉みたいなものが、すーっと一点に集まって来た。傍目には凄い綺麗なメルヘン動画に見える。そんで可燃性の気体って何? メタンとか? それとも●(気体)か(笑)?
「★点火っ☆」
バキン! という物凄い音のデコピン動作のあと、塔の外に炎の球体が現れた。
ちょうど『四ツ目の怪鳥』の進行方向だ――ソイツは回避しきれず、火球に飛び込んだ。
「なんか臭っ!」
「文句言うなっ!」
火球から出て来たソイツは、あちこち焦げて黒ずんでいた。
たぶん、敵を火だるまにする感じの攻撃魔法だったんだろうけど、一瞬で通り過ぎちゃったからな。
まだ、飛んでるし、見開いた四ツ目に激しい憎しみが宿っている気がする。
攻撃がギリギリで当たってない。てか「わざと当ててない」感じがする。
「さっきから攻撃がぜんぜん当たってないんですけど?」
ちょっと不自然だったので、訊いてみる。
「攻撃? 『魔法』で生き物を攻撃なんて出来るワケないでしょ!」
叱るように言われた。
「えっ? なんでですか?」
緊迫した状況下だけど、つい間抜けな感じで訊いてしまった。
だって、俺『★不可侵の被膜☆』のせいで、身体の内側でしか『魔法』を発動出来ないし。知らねーよ?
「つまり君は、『この世界』の『魔法』についてよく分かってないわけね?」
プリムローズさんが、塔の周りを飛ぶ四ツ目に警戒しながら言った。
「『魔法』は人間にとって『この世界で生きるための手助け』であって、他の生き物を『殺すための道具』じゃないからよ」
よく判らない。
どんなものでも「使う人次第」って意味か?
「それが『この世界』の『魔法』の決まり! だから生き物を直接攻撃は出来ない。弾丸を飛ばしたり、罠を仕掛けるような間接的なやり方で戦うしかないのよ!」
なんで、そんな制限があるんだ?
「生きる権利と、生きるための悪知恵のせめぎ合いね!」
だから、よく分かりませんてば。
ま、考えるのは後にしよう。
「俺がなんとかします!」
俺にはまだ奥の手があるけど、外して周辺の建物に当てるのが怖い。
流れ弾で人殺しとかヤダしな。
よし、体当たりだ。
俺は『旅人のマントル』を脱いで全裸になった。
「え? え? 何で脱いでるの? その癖まだ治らないの?」
プリムローズさんがちょっと引いている。
意外とリアクション薄いな。
女の子の前だとキャーキャー言われて大人気なんだけど(※誤解)。
てか、その癖まだ治らない――ってどういう意味だろ?
「プリムローズさん、これ預かってもらえます?」
俺は彼女に『旅人のマントル』を手渡し……たら、受け取ってもらえなかった。ドサッと床に落ちる。
おい、それはないだろう――と思ったら、彼女の視線は俺の(以下略)。
「俺がアイツに飛び乗って仕留めます」
もう充分に速度や動作を観察したので、怪鳥君に飛び乗れる自信がある。
「え? 本気? 冗談でしょう? ここ塔の最上階なのよ?」
正気を疑われているらしい。そりゃそうか。
俺は助走をつけて、塔から大きくジャンプした。
「とぉうっっ!」
掛け声がダジャレみたいだ、と思ってしまったら、目測がズレた。
「あっ、バカっっ!!」
プリムローズさんの声が聞こえた。
俺は飛び移りに失敗して、そのまま転落した。
耳元で風切り音が、ビュォォォオオオオオ――と鳴っている。
(マンガみたいに地面に突き刺さったらヤダな)
俺は初ダイブの最中、そんな事を考えていた。
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