36 / 80
036◇新しい出会い(2)
しおりを挟む「でも、本人以外が教える分には問題ないんだって。彼女はシンシア・ダ・イナダさん。わたしたちと同じ16歳だって」
ミーヨが、おでこをキラン☆ と光らせながら言った。
「普通、『巫女見習い』は家名は付けずに、個人名だけで呼ばれるんです。ですから、私は『巫女見習い』シンシアです。ジンさん、名乗らなかった無礼を、お詫びいたします」
黒髪の美少女シンシアさんは、そう言って微笑んだ。
一度他の人から聞いちゃったら、自分で名乗ってもOKらしい。
「シンシアさん……月の女神アルテミスの別名だ」
誰がつけたんだろ?
「……?」
当の本人は、知らないみたいだ。
そんで、家名が「イナダ」って、「稲田」さんかな?
ここはパン工房で、なおかつ異世界だけど、お米が食べたくなるお名前だ。
そう言えば『この世界』に「お米」ってあるのかな?
でもって、『この世界』には無い『月』に所縁のある名前だけど、『○○王子と笑わない猫。』みたいに家名は「ツツ○クシ」じゃないんだね? 俺も、この子に「変態さん」呼ばわりされたくないから、別にいいけど。
あと、俺が小倉百人一首で唯一知ってるのが、小野小町の「花の色はうつりにけりないたずらに 我身世にふるながめせしまに」って歌だけど……イヤ、今ソレまったく関係ねー。
「名前がらみでもうひとつ。さっきシンシアさんは、プリムローズさんのことを、プリマ・ハンナさんて呼んでなかった?」
俺は気になっていたので、訊いてみる。
「ええ、プリマ・ハンナさんですもの」
発言者は、シンシア・ダ・イナダ嬢だ。
「プリマ・ハンナ・ヂ・ロースさん――がプリちゃんの本名だよ」
発言者は、ミーヨ・デ・オ・デコ嬢だ。
「ぢ?」
座薬が必要なご病気ですか?
とか言ったら、めっちゃ怒られるだろうな。自制。
「あー、ヤメて! 私、貴族のD音入りの名前キライなの」
プリムローズさんが、手を振って嫌がってる。
◇
「それにしても、君、ヘンだったよ」
「俺が? 何の話ですか?」
突然、プリムローズさんにそう言われて驚いた。
「今朝、『塔』から飛び降りて無事だったろう? その時の話さ」
「ああ、見てましたもんね? 『★不可侵の被膜☆』っていう『魔法』らしいんですけど……アレって、傍から見ると、どんな感じなんスか?」
どうせ、ミーヨが話してしまっているだろうと思って、隠す気にはならなかった。
俺はバリバリの当事者なので、俺以外の第三者視点では、どんな風に見えるのか知りたかったのもある。
「『★不可侵の被膜☆』? へえ、初めて聞いた」
あれ?
まさか、俺様の金○袋の『賢者の玉』とかの下ネタ要素だけを、面白おかしく話しただけだったのかな?
「『空からの恐怖』のひとつに数えられている『隕石』を受け止める『神聖術法』があるって話を聞いたことがあるけど……それなのかな?」
独り言みたいに呟いてる。
『隕石』を受け止める……って、『○ヴァンゲリ○ン』の「AT○ィールド」みたい。
「何と言うか、地面に接地した瞬間に、ピタッと止まった。静止した……というか。でも、『魔法』が働いたような感じはなかったんだよ」
記憶を辿りながら、その時の様子を描写してくれた。
でも、上手く説明出来ないみたいだ。
「とにかく、止まった次の瞬間には、ふにゃふにゃと崩れてたね。本来、君の体に受けるはずの衝撃は、一体どこに消えてるんだろう? 物理法則を無視しているような感じだったな」
物理法則を無視だとう?
『俺の○内選択肢が、学○ラブコメを全力で邪魔している』のOPの「逆立ち」みたいにか? ……違うか。
ちなみにOPって「オープニング」の事だよ? 俺が『前世』で使ってたPCの、女性の特定部位の肌色画像を貯めこんだ秘密のフォルダ名じゃないよ? あ、でも『○○コメ』の雪平ふ○の風に言うと「PO」になるな。そんで『○○コメ』って味噌みたい。
そんなバカな事を考えながら、黙り込んでいると――
「……どうかしたのかい?」
「……いえ」
心配されちゃいました(笑)。
「色々と知りたいと思ってるんです! 教えてください、プリムローズさん!!」
色々と誤魔化すために、勢い込んで言ってみた。
「いや、物理法則とか言っちゃったけど、私『文系』だから『理数系』は苦手で……」
赤毛と水色の瞳を持つコーカソイド系の人なのに、日本人的なあいまいな笑顔だった。
「イヤ、異世界に転生しておいて、文系もへったくれもないでしょうに」
期待してたけど、なんかダメそう。
「……それにしても、ふにゃふにゃ、ですか?」
美少女に言われると、凹むワードだな。
「ああ、ふにゃふにゃ、っと地面に崩れるような感じで横になってた。私はほぼ真上から見てたよ」
「ふにゃふにゃ」
「ふにゃふにゃだった」
何度も言われてたら、おち○……イヤ、落ち込んで来た。
「えー……そんな事ないよね、ジンくん!」
「うん。わかった。わかった」
ミーヨが、俺を弁護しようとしていたけど、なんとなく流れから下品な展開になりそうだったので、制止した。
「……」
日本人似の黒髪の美少女シンシアさんも、最後の方は聞いていたらしい。俺の顔を、微妙な表情で見ていた。
イヤ、ふにゃふにゃじゃないッスよ?
◇
「えっ!? 『ご朱印船』ですか?」
話を聞いて、びっくりした。
日本人顔の黒髪の美少女シンシアさんに邪な気持ちを抱いた俺は、彼女の完全攻略のために、まず外濠から埋めるべく、彼女のご先祖様について質問してみたのだ。……って正直過ぎだぞ、俺。
ちなみに彼女は『神殿』に仕える『巫女見習い』だそうで、現役の間は純潔を守る事が義務らしい。日本のアイドル風に言うと「恋愛禁止」らしい。
なので、「彼氏いるの?」といったゲスな質問は不要なのだった。
「ええ。私の家の家伝では、先祖は『あゆたや』を目指して『ご朱印船』に乗っていて、気付くと『この世界』にいたそうなんです」
本当に、見た目通りに、日本人の血を引いてたんだな……。
他にも、いろいろと話を聞いてみると、どうやら『この世界』に住んでいるモンゴロイド系の人間は、すべて数百年前に『この世界』に連れて来られた日本人の子孫らしく、他のアジア諸国の血を引く人たちは居ないらしい。
そして、この大陸の東には、その子孫たちが住み着いている「島国」があるらしい。それこそ、「異世界もののテンプレ」だな。
でも、それって、たまたま『ご朱印船』ごと連れて来られたから、そうなったのかな?
そして、その船に女性は乗ってたのかな?
「……?」
シンシアさんが、俺を不思議そうに見つめている。
彼女を見る限り、すんごい美少女が乗ってたとしか考えられないんだけどな。
それこそ、「世界三大美女」とか言われる「小野小町」みたいな。
ま、「世界三大美女」って、日本人が勝手に言ってるだけらしいけど。
もしかすると、『この世界』って、夜空の星座がまるっきり姿を変えて、月が砕け散ったりした後の、21世紀よりも、ずっとずっと先の超超超未来の『地球』なんじゃないの? と思った事もあったけど……彼女の話を聞くと、どうも違うみたいだな。『ご朱印船』って、16世紀か17世紀の話だしな。
やっぱ、『地球』とは別な「異世界」なんだな、ここ。
なんで、ニンゲンが棲んでんだろ?
ミーヨの話だと、数千年前に『方舟の始祖さま』が『地球』の動植物と一緒にやって来たらしいけど……何か特別な理由があって、こうなってるワケでもなさそうだしな。
『この世界』のリアル神様『全能神』や『全知神』が、何を考えてるのかまったく分からないな。
その『ご朱印船』も、別に「選ばれし者」が乗ってたワケじゃないだろう。
その子孫が、「蒙古斑」を理由に『獣耳奴隷』にされちゃってるんだから。
『この世界』のモンゴロイドのすべてが、みんな日本人の子孫だと言うのなら、元・日本人の記憶を持つ転生者のプリムローズさんが『この世界』の「奴隷制度」に強い嫌悪感と義憤を抱いてるのがよく分かる。
俺も、目の前のこの黒髪の美少女が、一歩間違えれば『獣耳奴隷』だったかもしれない――と思うと、めっちゃ腹立つしな。
◇
しばらく4人で雑談を交わしていると、食堂から出られる裏庭の方から賑やかな話し声がして、三人の女性が入って来た。
「うむ。そうか! アレにぶら下がって、体を上げ下げすると、腕の力がつくのか!」
「御意に御座います」
「でも……アレ、物干しですよ?」
このパン工房の主スウさんと、いつものドロレスちゃん。
もう一人は――見て、一発で分かった。
ドロレスちゃんそっくりだ。
つまり、その姉の第三王女さまか。
「む? プリムローズ。朝の話の少年とは、彼のことか?」
「はい、殿下」
おお、プリムローズさんが筆頭侍女らしく、かしこまってる。俺には偉そうなのに。
王女様が、すっと俺の前に寄って来た。
「私は『三人の王女』が一人。第三王女。ラララ・ド・ラ・ド・ラ・エルドラドだ」
そして、あっさりとフルネームを名乗った。
「「「「「…………」」」」」
非公式の場なので、みんなは無言で簡略化された作法で敬意を表す。
ところで、ラララ?
ここはパン工房で、なおかつ異世界だけど、ラーメン食べたくなるようなお名前だ。
そう言えば、『この世界』に「めん類」ってあるのかな?
小麦粉はあるし、小麦粉とかん水……か重曹……最悪、海水があれば作れるハズだから、『錬金術』なしで自作しようかな?
ここは異世界だから、『ラーメン大好き○泉さん』みたいにあちこちの有名店回るのは不可能だけど、お家ラーメンで、上にいろいろ「ぶっかけトッピング」で。ああ、ホントに食いたくなってきた。
――しかし、今はそんな事を考えている場合ではない!
俺は、ピン! ときていた。
「よし、揃った! みんな所定の位置に整列して!」
俺は、五人を横一列に並ばせた。
「では、順にお名前を!」
ダ。「シンシア・ダ・イナダ」
ヂ。「プリマ・ハンナ・ヂ・ロース」
ヅ。「ドロレス・ヅ・ツキ」
デ。「ミーヨ・デ・オ・デコ」
ド。「ラララ・ド・ラ・ド・ラ・エルドラド」
「揃った! ダ・ヂ・ヅ・デ・ド!」
王女様やみんなも、ノってやってくれた。
「「「「「おおおおっ!」」」」」
みんなから、拍手と歓声が沸き起こる。
「……どうせ私はちょっとお茶目なパン屋さん」
一人、なんか拗ねてる人もいるけれども。
「みんな可愛くて美少女だし、王女様もいるからハートの『クイーン・ハイ・フラッシュ』だな!」
トランプの「ポーカー」の「手」だ。
もっとも、クイーンじゃなくて、代理のプリンセスだけれども。
「「「「『くいーん・はい』?」」」」
そして、『地球』の言葉なので、通じてないけれども。
ちなみに『この世界』には、断面が綺麗なピンクのハート形の、「オトメナス」という野菜がある。
しかも、その別名が「ハート」だそうな。
夜空の「プロペラ星」と同じく、『前世の記憶』持ちが広めたらしい言葉や文化が、断片的に存在してるのが『この世界』だ。
「「「「……(照れ)」」」」
みんなの頬が赤い。
美少女って言われて、照れてるのね?
「……」
そんな中で、プリムローズさんだけが、こめかみを押さえてる。
頭痛ですか?
◆
揃えて並べる。それだけで楽しい事もある。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】ある二人の皇女
つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。
姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。
成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。
最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。
何故か?
それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。
皇后には息子が一人いた。
ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。
不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。
我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。
他のサイトにも公開中。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる