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056◇獣耳奴隷たち(4)
しおりを挟む空中飛行そのものは、あっという間に終わった。
弾道曲線にまかせて飛行すると、『この世界』でよく見かけるブロッコリーみたいな樹の群れが、ぐんぐん視界で大きくなった。
でも、樹にぶつかることもなく、上手いこと地面に着弾した。
てか、砲弾って俺なので、着弾てゆうか「着地」なんスけど。
しかも、運動エネルギーを吸収する『★不可侵の被膜☆』のお陰で、着地が「ふにゃり」って感じで、自分でも気持ち悪かったよ。
とにかく俺は、『冶金の丘』を取り囲む「濠」を飛び越えて、東の森の中に降り立った。
振り向くと、樹々のあいだに、茶色い石垣が聳えているのが見えた。
相当な「高低差」があるので、一気に移動するには、空を飛ぶしかなかったのだ。
街から、200mくらいは飛んだかな?
でも、やっぱり急造じゃダメだな。飛距離が出ない。
ペットボトルロケットの方が、もっと飛びそう(泣)。
某アニメの最終話の、あの脱出方法って……ネタバレになるから、やめとこ。
にしても、爆発(的な空気の膨張)自体は、音速を超えてるはずなのに、初速が凄く遅かった気がする。
砲身内部に、螺旋状の「ライフリング」が無い「滑腔砲」だしな。
てか、俺自体がグルグル回転させられてもな。
たぶん、フツーに気持ち悪くなっちゃうだろうしな……。
とにかく、「方角」は間違いないはずなので、急いで子供たちを探そう。
俺は大声で叫んだ。
「お――――い! ケンタロウの娘――っ! お父さんの命が惜しかったら、素直に出てこ――い!」
別に、あの馬耳おじさんには何もしないけど、こんな事したら「心配かけて、お父さんの寿命が縮んじゃうぞ」って言いたいワケだ。うん。
「お、おっ父には、何もしないで欲しいのでごんす」
濡れた服で体を隠しながら、女の子が木の陰から出て来た。
奴隷の証の作り物の「獣耳」は……つけてなかった。まあ、脱走したんだから、当然か。
そして、親子そろって、その「語尾」なのか?
「君がそうか? もう一人は? 田中さんの娘は無事か?」
「タナカさん? 誰でごんす?」
「ホラ、君のお父さんの友達の田中……イヤ、名前知らないわ」
俺の勘違いだった。馬耳奴隷Bさんだ。
「……」
近くから、もう一人が、こっちを見ていた。
なるほど、二人とも父親たちが自慢したがるような可愛らしい子だった。イヤ、俺ホントにロリ○ンじゃないよ?
二人とも、『奴隷の印』である「蒙古斑」が出そうな、ばりばりのモンゴロイドだった。きっと『ご朱印船』に乗っていた遠い昔の日本人の子孫なんだろう。元・日本人の『前世の記憶』を持つ俺から見ても、完全な日本人顔だ。
「じゃあ、二人とも街に戻ろう。ここは『ケモノ』が出て、危ないんだよ。めっちゃ大きくて、君らなんか丸呑みしちゃうような」
手頃な見本が居たので、俺はそちらを指さす。
「ちょうど、あんな感じの……」
『ケモノ』だった。
めっちゃでっかい。
見たコトある。
コイツ、「シャクレオオカミ」だ。
実は円形広場の商店街の隅に、コレの剥製が飾ってあるのだ。
コレのメスにも遭遇した事あるけど、メスはただの野犬みたいだった。
でも、オスの個体は、名前の通りに下顎が大きく突き出ていて、そこから上向きに大きなナイフみたいな牙が生えてる。体の方はデカくて茶色い「狼」だ。
プリムローズさんが単に「シャクレ」って呼んでたけど、関西人らしい(?)無遠慮な表現だ。的確だけど。
にしても、オスとメスで随分と違う。確か「雌雄二体」ってヤツだ。クワガタかカブトムシみたいだ。肉食獣ならライオンか。
シャルるるルルゥ――
変な唸り声だ。シャクレてるせいかな?
ギラギラした目でこっちを睨んでいる。
てか、タイミングがマズい。
俺の必殺技「レーザー眼」が使えないのだ!
先ほどのラッキースケベ・イベント(笑)で「カメラ機能」の連写モードをやりすぎて、10分ほどのクールダウンが必要なのだ(泣)。何事もやり過ぎは良くないってコトですね。
てか、アホか俺は?
「逃げるぞ!」
「「キャイン!」」
俺は女の子二人を引き寄せ、小脇に抱えて、森の中を走り出した。
声からすると、この子たち、犬耳かな?
そんなことを考えながら、俺は走った。
ふしぎなことに、アイツは追って来なかった。
◇
「ジン!」
森の中で見つけたのは、プリムローズさんとラウラ姫とシンシアさんだった。
――なんで、みんな防具もなしに、危険な森の中に入ってくるかな。
「みんな、どうして?」
「『魔法』で……濠を……凍らせたんだ……ハアハア……走るのは……苦手だ」
プリムローズさんが、息も絶え絶えに言う。
「二人とも無事か?」
「うむ。二人とも泣かずに頑張ったな」
「二人とも、怪我はありませんか?」
三人三様だけど、俺はまったく心配されてないらしい。ちょっと淋しい。
でも、とりあえず目的達成だ。子供たちは、無事保護した。
「まだ、いる。森の中……」
田中さんの娘が、たどたどしく言った。
……イヤ、田中さんじゃないんだってば。
「え? どうしたの?」
ミーヨまで追いついて来た。
手には『なべのふた』を持っていた。かなり重たそうだ。可哀相に。
「もう二人、一緒に、脱走」
女の子が、森の奥を指す。
『逃げたのは何人だ?』
『女のガキだけ、4人だ!』
……そう言えば、そうだった。
「この二人を頼む!」
俺は森の中に引き返した。
◇
(間に合え!)
俺は走った。
そして見た。
その光景を。
樹木の間の巨体と、その前の小さな人影。
小さな女の子が小さな女の子を守るために、『ケモノ』の前に立ちはだかっていた。
両手を広げ、後ろにへたりこんでいる子を庇うようにして。
我が身を捨てて、他人を助けようとしていた。
震えながら、守るべきもののために、気高く立っていた。
俺は激しく胸を打たれた。
そして、こうも思った。
(俺には、絶対に真似出来ない)
――なぜなら、
(俺、不死身だし)
ガバァッと大きく開いた狼の顎に、俺は自分の左腕を差し込んだ。
あむっ
発動した『★不可侵の被膜☆』のお陰で、痛くも痒くもなかった。
『前世』で喰らった事のある猫の「甘噛み」の方が、ずっと痛かった記憶があるよ。
「……?」
狼が戸惑っている。
噛み砕いたはずの俺の腕が、ずっと牙の間に挟まっているからだろう。
「逃げろ! 早く!」
俺は二人の少女に叫んだ。
しかし、二人は目の前の光景に呆然としてた。
――当然か、いきなり全裸の男が現れて、狼の口に素手を突っ込んでるんだから(笑)。
「早く!」
もう一度促す。
一人の子が、座り込んでる子を立ち上がらせ、
「……(こくん)」
俺にちょっと頷いてから、二人で手を取り合って走り出した。
よし、離れてくれた。
(気体錬成。毒ガス)
チン!
こんなこともあろうかと、密かに練習を繰り返して来て、練りに練った『毒ガス』だ。
……って、普段はこの後「花の香り」に再錬成するから安全だけれども。
とにかく、今回は演習ではない。実戦なのだ!
俺は、発生したガスを右手で握りしめ、狼の鼻先で解放した。
専門用語で言う『にぎりっ●(気体)』だ。
ソイツは慌てて俺の手を放し、少し後退ると、ぶるるるん、と頭を振った。
……あんまし、効いてない。
ま、塩素ガスだしな。ガチな毒ガスとか無理だし。
そう言えばガスマスクをつけた主人公が、悪の秘密結社の一員として世界征服を目指すアニメがあったな。アレの首領も幼女だっけ。
それはそれとして――シャクレオオカミを完全に自由にしてしまった。
完全に失敗だ。
ソイツは、向きを変えて女の子たちを追う気らしかった。
マズい。
俺の目から見ても、俺よりあの子たちのほうが美味そうだもんな。
イヤ、変な意味じゃなしに。
狼の気をこちらに惹きつけなければ……惹きつける?
よし。
(気体錬成。メスの『シャクレオオカミ』の匂い)
俺はそれを嗅いだことがあるのだ!
チン!
珍奇な匂いだった。甘いバニラのようだった。
すかさず(※二重の意味)、全力で放った。
専門用語で言う『放●(気体)』だ。
狼が――止まった。
そして鼻をひくつかせながら、こっちを見た。
ハアハア言ってる。大量のヨダレが垂れてる。
……発情したオスの顔だった。
これ、別な意味でヤバくね?
俺、いま全裸だし、なんかちょうどお尻から『メス狼』の匂い出しちゃったし。
「えーっと、そんな興奮しないで、落ち着こうか?」
言ってはみたけど、無駄だった。
ソイツが襲い掛かって来た。
股間には、モザイク処理が必要だった。
慌てて逃げようとして、向きを変えると、そこには何故か茶色いトラ猫がいた。
ソイツに気をとられて、木の根っこに足をとられた。
ちょうど、orzの体勢になってしまった。しかも、全裸で。
後ろからは、盛りのついた獣のような『ケモノ』が迫って来る。
前方に虎猫? *門に狼?
俺様、大ピンチだった!
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