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061◇宝探し(1)
しおりを挟む「ここです! ここからとんでもない神気が!」
どやどやと、十数人の人間がやって来た。
『神殿』のお偉いさんたちが、先刻の『全能神』と『全知神』の『ご光臨』を、どうにしかして感知して押し寄せて来たらしい。
「すごい感覚でした。……あんなの初めて」
先頭は、綺麗な女性だった。
この街にもいる『七人の巫女』の一人かもしれない。
なんか妙にエロい感じに興奮した様子だ。頬が上気してる。
「おおっ、これは姫殿下!」
長い髭を生やした高位の神官らしい男性が、俺たちを見つけて話しかけてきた。
「こちらで、何やら『怪異』はありませんでしたかな?」
イヤ、神様の『ご光臨』を「怪異」とか言っちゃダメだろ。
「うむ。プリムローズ、説明せよ」
「はい、殿下」
第三王女が筆頭侍女に面倒を丸投げにし、こっちにやって来た。
「ジン、眠い。おんぶ」
疲れた子供か?
「……ハイ、どうぞ」
俺はしかたなく「おんぶ」した。
姫は俺の背中に体重をかけ、肩にあごを乗せるともう眠り始めていた。
背中には、なかなか素敵な感触がある。ちっちゃいけれども。
「……(凝視)」
そんな俺を『巫女』と思しき女性が、じ――っと見ていた。
俺が『全能神神殿』の男湯にふさわしい姿だったからだろう。
どうせ風呂掃除だと思って、俺はず――っと全裸だったのだ。
もう、誰にも注意も注目もされなくなっていたのだった。
ちょっと、さびしかったのだ。
と、その人が、
「プロペラ小僧さま?」
そんな風に、俺を呼んだ。
「そ、そんな名前の人は知らない」
俺は、彼女から視線を逸らせながら言った。
でも、俺が言っても可愛くない。やっぱ、エロマン○先生じゃないと……あ、ちょっと訂正。『エロマ○ガ先生』の○霧じゃないと。
「「「「……なんとびっくり! 『ご光臨』ですと!?」」」」
向こうでは、プリムローズさんの説明を受けた神殿関係者のみなさんが驚愕の声を上げている。
「ねー、『宝探し』の話はー?」
ミーヨが、ぶーたれてる。
なんか、もう『宝探し』はどこ行ったの? って感じだった。
◇
『全能神神殿』の一室で、事情を聴かれている。
天井の高い部屋で、天井近くの高い壁のところに鎧戸がついている。
あそこから隣室に、声が筒抜けになっているっぽい。
隣の部屋に、人が居る気配がするのだ。
目の前に、美しく神々しい感じの女性――『七人の巫女』の一人が椅子に座っている。
『巫女』は『巫女見習い』と違って、素顔はオープンらしい。白いヴェールは被ってない。
ねっとりとしたクリームみたいな金髪だ。ツンとした鼻筋で、ぽってりとした厚めのくちびる。瞳は茶色だ。
とある部位が、パツンパツンになった白い祭服を身に着けている。
質朴な『巫女見習い』の服と違って、細かな銀糸の刺繍が一面に入っているので、白銀色に見えなくもない。
つい先刻まで、男湯の掃除中で「全裸」だった俺だけど、この人のために、わざわざパンツを購入の上、着用させられたのだ。
あと、『トガ』もだ。
『巫女』は「清き乙女」じゃないといけないらしくて、異性の裸を見る事は「戒律」に抵触するらしい……てか、もう明らかに手遅れだと思うんだけどな。しっかり見られたし。
二人の間にある机の上には、水差しとコップ。
ただし、『冶金の丘』らしく、両方とも金属製だ。
「あなたの同伴者の少女から、『でね。ジンくんが神さまの悪口言ったら、なんか怒ったらしくて、急に出て来たのー』という証言がありまして」
その美しい女性は、ミーヨの口ぶりを完璧に真似て言った。そっくりだった。
てか、ミーヨは何を言ってるんだ?
俺の不利になるような証言を……よし、あとでたっぷりと(以下略)。
「悪口ではないです。俺の思い込みと考え違いからの誤解を解くためにわざわざ『ご光臨』なさった、というのが真実です」
俺がそう言うと、女性の右肩がびくんと動く、そして、それに連動して「お胸」も揺れた。
『神殿』関係者のみなさんは『ご光臨』と聞くたびに、無意識に体のどこかしらを、びくん、と反応させるので、からかうと面白いのだった。
少し離れた机には、速記係か記録係らしい白いヴェールを被った女性が座っていて、俺たちの会話を書きとってる。
『巫女』や『巫女見習い』と違って、服は黒い。『神官女』という職の女性らしい。
俺の『脳内言語変換システム』が、『ゴブリン○レイヤー』のヒロインに遠慮してるのか、そんな名称になってる。
そう言えば、『灰と幻想のグリ○ガル』でも、初期のチーム・ハ○ヒロが『ゴブリン○レイヤー』と呼ばれてたな。そんで、あの作品では男女関係無く『神官』だった。
「……(さらさらさら)」
『神官女』さんが、パッと見はストローみたいな細いガラスのペンを紙の上で走らせてる。
ペン軸は「ホソナガガラスガイ」の貝殻だそうだ。
中にインクが詰まってる。そんでペン先の部分には、何かの生き物の「爪」が使われてるらしい。真ん中に隙間があって、筆圧でインクがそこから滲み出る仕組みらしい。なので「羽ペン」ならぬ「爪ペン」って名前だそうだ。
その『神官女』さんは、俺たちの会話に聞き洩らすまいと神経を研ぎ澄ませてる。
てか、『★聞き耳☆』で「耳がでっかく」なっちゃってる。『この世界』の『魔法』の仕様で、アイコン的にそうなってるのだ。『★遠視☆』を使うと「目がでっかく」見えるし。とすると「嗅覚」を上昇させると、どーなるんだろ? 鼻の穴がデカくなって見えるのか?
にしても、警察の「取り調べ」ってこんな感じなんだろうか?
幸い、前世ではお世話にならなかったので、よく知らない。
だって「小市民」ですから。
「その『誤解』というのは?」
「それは先ほど説明しましたよ、ロザリンダさん」
もう、面談は30分ほど続いている。話すべきことは終わってるのだ。
他のみんな(ラウラ姫を除く)は、俺の秘密の核心については触れずに『事情聴取』を受けてくれたらしい。
よりにもよって『神殿』の人たちに、『賢者の玉』だの『錬金術』だの『全知神』の加護『★不可侵の被膜☆』だのの話はしたくない。
「『巫女』の名前を軽々しく呼んではいけない、と教えたでしょう。プロペラ小僧さま!」
「分かりましたから、俺のこともその二つ名で呼ぶのは止めてください」
ちょっと険悪になりつつあったところへ、
「もう、その辺でいかんべ」
扉が開いて、二人の高位神官が入って来た。
二人とも、先刻見た『全能神』のように長い髭をたくわえていた。
「なんにせよ。『ご光臨』じゃ『ご光臨』。ワシがここに赴任してきて初めてじゃ。喜ばしいこっちゃ」
聞いたら、『全能神』および『全知神』の『ご光臨』は、この惑星の各地で年に何度かあるそうで、そんなにミラクルな出来事でもないらしい。
ただし、ここ『冶金の丘』への『ご光臨』は久しぶりだったらしく、『神殿』関係者のみなさんは、すごく嬉しいらしい。
「あんたら、お昼も食べてきんさい。今日は肉だで」
俺の脳内では、常に『この世界』の言語が日本語に翻訳されているのだけど、この人たちの言葉は、なんか滅茶苦茶な方言のごった煮に聞こえる。
『神殿』の人たちは、あちこちの都市に「人事異動」というか「転任」があるらしいので、赴任先の方言が混じってるのかもしれない。
あるいは、俺の『脳内言語変換システム』が、テキトーにふざけて「翻訳」してるのかもしれないけれども。
「…………」
『巫女』ロザリンダ嬢は、一瞬だけ口元を皮肉な形に歪めたけど、無言で素直に退席した。
立ち上がる時と、歩く時、たぷんたぷんと揺れるものが目に付く。
そう、この女性、実は凄い巨乳なのだ!
まるで「シ○ル」か「バル○ラ先生」あるいは「牛飼○」か「○の乙女」みたいなのだ!
――『巫女』なのに、実に怪しからんのだ!
そんなスウさんみたいな事を思いながら、なんとなく『前世』からのクセで椅子の位置を直しつつ立ち上がり、俺様の俺様のポジションもリポジショニングしつつ、退室した。
部屋の外では、みんなが待っていた。
「ジンくん、お疲れー」
そう言って、あとでたっぷりと「お仕置き」が必要なミーヨが、俺の手を握った。
「……あ、ああ」
ま、いいか。ミーヨだし。
「お手間をおかけしました。お疲れではないですか?」
シンシアさんが俺を気遣って言うと、
「……(きっ)!」
『巫女』さんが、思いっきりシンシアさんを睨んだ。
「シンシア。あれは『巫女見習い』であれば、誰でも感じるものなのです。増長の無いように」
ロザリンダ嬢の言葉には、棘がある。
「かしこまりました。『巫女』さま。ご忠告感謝いたします」
幸い、シンシアさんの方からは、あの鋭い眼光は見えなかったらしい。対応は平静で丁寧なものだった。
ところで「あれ」ってなんだろう?
てか、「誰でも感じる」とか……別にエロい事ではなさそうだけど。
なんとなく、訊いちゃいけないような、秘密な事のような気がして訊けなかった。
「ジンさん。お疲れ様でした」
改めて、労いの言葉を頂いたので、俺もきちんと返す。
「お気遣いいただいて、ありがとうございます、シンシアさん」
「『神官長』様から、みなさんにも昼食を、との事でしたので、ご一緒しましょう」
シンシアさんが先導してくれるので、みんなぞろぞろ着いていく。
◇
『神殿』の回廊を歩きながら、
(♪腹減りー。 ♪腹減りー)
ラウラ姫が、妹君から教わったという『腹減りのうた』を、誰にも聞こえないような小声で歌っている。俺には聴こえてるけどね。
「『全能神』と『全知神』……。『世界の理の司』の管理者と思われるような存在が『ご光臨』? 前に『神行集』で読んだ限りでは……数千年前の初めての『ご光臨』の時は全裸で現れたらしいけど……今風の装いだったなあ」
今回、神様を初めて見たプリムローズさんが、色々とブツブツ言ってる。
「『神行集』の改訂版に……載るだろうな。さっきの事が。私は匿名でお願いしたいな」
なんだそりゃ?
「『全能神』さまと『全知神』さま……。合体すると『全知全能神』になると聞き及びますが……『合体』ってどういうことでしょう? この間の『破瓜の儀』みたいに……まさか、そんなことないですよね……? 『全能神』さまってお爺ちゃんでしたものね」
シンシアさんも、なにか妄想を逞しくしているようだ。少し頬が赤い。
「でー、『宝探し』の話なんだけどー?」
ミーヨだけは、大事なことを忘れてない。
ブレずに貧乏だ。
「おお、そうだった。まあ、食堂の隅ででも話そう」
プリムローズさんが気軽に言う。
◇
「「「「「風と水と大地と火と星と人に感謝を! いただきます!!」」」」」
『神殿』で昼食もゴチになった。
勝手に菜食主義的な戒律でもあるのかと思い込んでたけど、肉料理だ。
思いっきり肉食OKなのが、なんとなく違和感を感じるけど、それには理由があるのだ。
『この世界』では、時間の区切りを――一年384日を四分割して『四分』。
さらに三分割して『日々』と呼び、色の名前をつけて区別している。ちなみに今は『地球』の北半球の6月に相当する『青の日々』だ。
そして、その32日間の『日々』を8日間ずつ四分割して、『巡り』と呼んでいる。『地球』の『週』にあたる区切りだ。
でもって8日間は、『地球』の「曜日」にあたる――①木の実の日 ②お菓子の日 ③お肉の日 ④お野菜の日 ⑤お魚の日 ⑥果物の日 ⑦卵の日 ⑧お豆の日――という順序でグルグル巡っている。
つまり――
「うむ。今日は『お肉の日』だったな!」
ラウラ姫が、心から嬉しそうにしてる。
『前世』が日本人の俺としては、「スーパーの特売日」みたいに感じるけどね。
なんでも、『絶対に働いてはいけない日』に円形広場に落ちていた大きな鳥が『神殿』に寄贈されたらしく、今日の昼食はその肉を柔らかく熟成させた上で、ていねいに煮込んだものと、『神殿』内のカマドで焼かれた酸っぱい黒パン、緑色の謎な豆のスープ(グリンピースかもしれない)と、野菜の酢漬け、真っ赤なポタテ、あとは何種類かの果物――という献立だった。あんまり食欲をそそる色彩じゃない。
実は「日の名前」は、あまり食生活に関係ないのだ。その辺は雑なのだ。
パン工房で働いていた身としては、『パンの日』がないのが淋しいけれど、毎日食べるものなので除外されてるらしい。
ちなみに、『神殿』の黒パンは、何か黒いものを生地に練りこんでるらしく、ガチで真っ黒だ。食い物としては有り得ない黒さだ。
俺は『鳥肉の煮込み』に関して、微妙に身に覚えがある気がするので、食べずにラウラ姫に押し付けた。
「うむ。では」
もちろん、姫は喜んで食べてくれた。
めでたしめでたし。
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