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073◇代官屋敷(2)
しおりを挟む礼儀作法の「特訓」が終わると――
「お疲れ様でした。お二人には同じ寝室を用意させますので、ごゆっくり……休めないでしょうね?」
「……あはは。何言ってるの? ドロレスちゃんたら」
ドロレスちゃんの意味ありげな言葉に、ミーヨがたじろぐ。
結局、ドロレスちゃんのお爺さんは屋敷には戻って来なかった。
この感じだと、明日も会って話が出来るかどうかは……不透明だ。
本当に、困った大人だ。
「猫みたいに自由で、気ままなチョイ悪ジジイなんです」
ドロレスちゃんはそう言うけれど、孫の贔屓目で見てるし、あきらかに庇ってる。
それだけ、お爺さんの事が好きなんだろうけれども。
「ちゃんとしたところも、あるんですよ?」
本当にちゃんとした人なら、孫に『王家の秘宝』をくすねさせたりはしないだろうよ――とは、口に出しては言えないけどな。
「まあ、面倒な事は明日に回そう。今夜は」
「3回ですか? それとも二日してないから、二日分の6回を足して9回ですか?」
ドロレスちゃんは我々の……てか、俺の性生活に、もの凄く興味津々だ。
「あたし、子供だから、そういう『めかにずむ』は良く分からないんですけど……どうなんですか? お兄さん」
「イヤ、前日の余りが、翌日に繰り越しになるワケじゃ……って、メカニズム?」
そんな言葉を、どこで覚えた? プリムローズさんからか?
「でも、常に残弾は把握しておかないと、戦場で困るじゃないですか?」
……残弾て。
『この世界』にも『魔法式空気銃』はあるけれど、「サバゲ」とか「FPS」やってるワケじゃないんだから。
「うー……どうなの、ジンくん? 9回は無理だよ?」
「お前まで素で悩むな! そんなん、俺だって無理だわ!」
もう、さっさと逃げ出そうっと。
「じゃあ、お休み、ドロレスちゃん。行くぞ、ミーヨ!」
「あっ、お兄さん! 誤魔化さずに教えてくださいよっ!」
ドロレスちゃんが、意外にしつこく食い下がる。
これ、もしかすると、一人で寝るのが、淋しいのかな?
「じゃあ、見学する?」
ミーヨが訊いた。
そんな事訊いて、俺みたいに素直に「ハイ」って言われたら、どーするつもりなんだ?
「う? う、え……」
ドロレスちゃんの目が泳いでる。
「……今回は遠慮しておきます」
おい、「今回は」って何だ?
「「じゃあ、おやすみ」」
「……はい。おやすみなさい」
ちょっとがっかりしているドロレスちゃんを残し、俺たちはその場から逃げ出した。
◇
教師役を務めたメイドさんの一人に案内された寝室は、一階にあった。
長い廊下の両側に、ほぼ等間隔で扉がずらりと並んでる。
二階の広い空間『鏡の間』を支えるために、一階が多くの部屋で区切られていて、その構造で強度を保っているのかもしれない。……イヤ、知らんけど。
「こちらになります」
そこは、夫婦あるいはカップル用の客用寝室らしく、部屋の真ん中に「しろ!」と言わんばかりに、大きな寝台があった。
「その挑戦、受けて立とうじゃないか! やってやるぜっ!!」
「えっ? どうしたの、ジンくん? ……ん? なに?」
俺の唐突な宣言に、ミーヨがびっくりしたようだったけど、すぐに何かの気配に気付いたようだった。
ふんぎゃ――――っ。
寝台の方だな。
ふっしゅ――――っ。
見ると、寝台の上には先客がいた。
メスらしい灰色の猫の背中にのしかかり、首筋に噛みついているオスは、さっきの茶トラ君だった。尻尾を太く逆毛立たせながら、こっちを睨んでいる。
なんというか、絶賛交尾中らしい(笑)。
「……わざわざ人間用の寝台の上ですんなよ」
「へ、部屋替えてもらおうよ」
俺たちが部屋から出ると、
「…………(にかっ)」
ドロレスちゃんが楽しそうに笑っていた。
「「仕返し?」」
◇
ドロレスちゃんも一緒の部屋で寝ないか? と俺とミーヨの二人で熱心に誘ったけど、さすがに身の危険を感じたようで、辞退されてしまった。
二番目に案内された部屋も、最初の部屋と同じようなつくりだった。
部屋の真ん中に「やんのか?」と言わんばかりに、大きな寝台があった。
「ミーヨ」
「……ジンくん」
二人で見つめ合って、さあ、これから! というタイミングで――
「……うっ、ぎゃぁぁぁあああああ!!」
どこかで、悲鳴が聞こえた。
「……ミーヨ」
「ジンくん? そんなことしてる場合じゃないよ。今の声」
「ほっとこう。おっさんの声だったし」
「服、脱いじゃう前で良かったね。行ってみよう!」
「イヤ、俺はすでに……こんなになってるのに」
仕方なく、確認する事にした。
廊下に出ると……炎に赤く染まってるワケでもない。火の粉が飛んでるワケでもないし、煙も無い。とりあえずは火災じゃなさそうだ。良かった。すると泥棒とか侵入者にでも鉢合わせしたとかか? イヤ、まるで何者かの襲撃を受けた時のような悲鳴だった。
(ああ、なんてこった)
廊下は暗かったけど、『光眼』の「暗視機能」を持つ俺には、それが見えた。
ミーヨには見せたくない。
俺も、見たくはない。
残酷な現実。
そこに居たのは……全裸のおっさんだった(泣)。
「「「……どうした? どうした?」」」
廊下に人が出て来た。
「誰か明かりを――」
「点けないでくれ!」
闇の奥で、全裸のおっさんが叫んだ。うん、全裸だもんね。
「その声、ホセか?」
「いや、ロベルトだ」
誰でもいいよ。夜なんだから、静かにしろよ。
「何があったんだ? ロベルト?」
「い、いや……女だと思ってたら『化物』だった。売り子に化けてやがった」
ケモノ……『化物』の方か?
そんで「売り子」って何? ビールか? 車内販売か?
「こ、この馬鹿野郎! お屋敷の中に売り子を連れ込む馬鹿がいるか!」
「いや、だから『化物』だったんだよ。もう一匹……猫に化けてやがって、そいつら目を合わせた途端に、化けの皮が剥がれて正体を現わしやがったんだ」
「「「……『化物』だとう!?」」」
『化物』が、猫に化けてた?
『化物』って、たしか「タマゴから孵化して最初に見た物の姿カタチを真似して生きていくモノ」って話じゃないの?
そんで、「気になる異性を見つけた時にだけ、化けの皮を脱いで、正体を現わして繁殖のために交尾する」って、前にドロレスちゃんが言ってたよ?
そんで、どれくらい昔の事かは知らないけど『女王国』で『化物混入事件』とかがあったんじゃねーの? 前にラウラ姫が言ってたよ?
それって、どんななの?
「そいつら、どこに居るんスか?」
ちょっと興味がわいたので、会話に割り込んだ。
「いや、まあ、俺の部屋に……」
「……とにかく、明かりだ!」
「祈願! ★励光っ☆」
「あ、いや。止めて。お願い」
虹色のキラキラ星が飛んで行って、天井の『水灯』が青白く光り出すと、それは姿を現した――って全裸のおっさんの方だけど(泣)。
「きゃああっ! 護身! ★痺れムチっっっ☆」
ミーヨの声だ。悲鳴も可愛い。
パンッ!
「がふっ!」
「ロ、ロベルトォォォ――ッ!」
公然わいせつの人が、瞬殺されたようだ(※直視は不可能だ)。
「ジ、ジンくうん!」
ミーヨがしがみ付いてくる。
よしよし、ナデナデっと(※肩です)。
「とりあえず……ここの部屋だよな? 開いてるし」
明るい照明の下でナニかするつもりだったらしい。室内は明かるかった。
関係ないけど「ジャカルタ・カル○ッタ 軽田」はアニメーターさんだ。
あと、関係ないけど「ガフの部屋」って何だっけ?
なんかで聞いたな……と思いつつ、その部屋の中に入る。
「ぐっはー、ナニコレ? キモイ!」
「うええっ」
ぬめりのある銀色でつるんとしたヒトガタが、2体。絡み合っていた。
何て言うか、こう。ハリガネみたいな細いヒトガタだ。なんだろう……『ほし○こえ』の「アガルタ人」……あ、違うか。「タルシ○ン」みたいだ。
「「「「「……うげえ」」」」」
みんな気持ち悪がってるよ。
「うええっ?」
むにゅんっっ――
突然、2体が融合して「銀色の球体」に成った。
そこに、「割れ目」が出来た。
タテ……ヨコ……タテ……まるで「卵割」みたいだ。
不意に、分裂が止まった。
そして、割れ目からバラバラになって……またたくさんの銀色の球体に成った。
十数個……イヤ、16個だろうな。
「タ……タマゴ産みやがった」
誰かが、呆然と呟いた。
これを、「産む」って言うの?
本体が消えて、まるっとタマゴになってるやん。
「化けの皮って……アレ?」
ミーヨが、寝台の横を指差す。
使い終わった特殊メイクみたいな、シリコンゴムみたいなのが、でろーん、と床に落ちてる。人間の女性っぽいのと、毛の付いた猫っぽいのが二つ……。
どうでもいいけど、『全能神神殿』の「お風呂掃除」した時に、似たような「モップ(?)」があったような気がするんですけれども……。
タマゴの方は……これもなんか、「石」に化けてようとしてるみたいだ。
球体が、いびつに変形していく。
「「「「「……(呆然)……」」」」」
出来上がったは、地味な石だった。ジミー・ス○ーンだ。
ゲームの登場人物じゃなくて、アニメーターさんだ。メカデザインとか、いろいろやってるけど。
「「「「「……(呆然)……」」」」」
みんな、あっけにとられて呆然としてるよ。
「うー……話に聞いて、知ってはいたけど……『化物』の正体って、こんななんだ?」
ミーヨが、ちょっと幻滅したような声だ。
俺は何も期待してなかったから、がっかり感は無いけれども。
「はい。ちょっと失礼」
そこに、前にも会った年配の男女が、ホウキとチリトリを手にあらわれた。
そして、ごく当然のように、タマゴと化けの皮を片付け始めた。
チリトリは四角い箱状で、ラーメン屋の出前に使うヤツに似てる。
いま思い出した。たしか「岡持ち」とかいう名前だった。上にスライドする蓋が付いてるとこまでソックリだ。
「……(さっさっさ)……」
手際よく、片付け終えた。
にしても、まったく動じた様子がない。タマゴなんて、結構大きいのに。
「どーするんスか? それ」
訊いてみた。
「その辺に放っておけば、ゴロゴロダンゴムシが食べてくれるよ」
「……へー」
完全に、「生ゴミ扱い」だ。
タマゴが孵化するところ……見てみたい気もするけどな。
「「「「「……はい。寝るべ、寝るべ」」」」」
みんな、もう寝るらしい。
たしかに、死人や怪我人が出たわけでもないし、物も建物も壊れてない。泥棒でもないし……後はもう、寝るしか無いわな。向こうの方では、ロベルトさんが全裸のまま怒られてるけど……。
俺とミーヨも、あてがわれた部屋に戻った。
◇
「ミーヨ。『化物』のコト、どんくらい知ってんの?」
ちゃんと訊いた事は無かったな。
彼女、ヌルッとした感じのモノがキライらしいから、俺が躊躇ってたんだけど。
「んー……とね」
ミーヨの話によると――
かなり昔に、学者だか博士だか誰だかが、実際に実験した事があったらしい。
タマゴは孵化までには○○日かかる……とかじゃなくて、ある程度にまで「育つ」と孵化するらしい。
……イヤ、タマゴが「育つ」って、なんなの?
ないでしょ、そんなの。
「……でね」
孵化した直後には、デッカい目玉がついていて、その「巨眼」で初めて見たモノをコピーして、それソックリの「化けの皮」を被るらしい。
ただ、生まれた直後は、魂の入ってないような、腑抜けた感じらしい。
そんで、しばらくのあいだ「学習」のために「初めて見たモノ」に、ベッタリと付きまとうらしい。
その「学習」によって、「初めて見たモノ」の生態や行動まで完全にコピーしてしまうらしい。
そして、ある日ふいに行方を眩ますらしい。
そして、あっちこっちで色々仕出かして、「初めて見たモノ」(※この場合はその学者の事だろう)に、めっちゃ迷惑かけるらしい……。
ドッペルゲンガーとかじゃなくて、実体あるもんな。
なんでまた、『この世界』には、そんな謎生物がいるのやら。
……やれやれ。
「そんで、『売り子』って?」
「もー……ジンくんのえっち」
どうやらエッチな事らしい。ほほう?
「んー……とね」
前にミーヨから聞いた「独身男性用の野菜」ヨメイラズウリの「女性販売員」らしい。
「ソレって、秋に採れるじゃあなかった?」
「うー……だから、今の時期はつまり……」
……販売員そのものが売り物になるらしい。
デリヘ○みたいな感じ?
でも、今回は本物の女性じゃなかったらしいし……スルーしようっと。
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