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074◇代官屋敷(3)
しおりを挟む「……へー、そんな事があったんですか?」
翌朝、ドロレスちゃんに話してみたら、ぜんぜん気にもしてない様子だ。
なお、彼女は別棟に居たので、騒ぎにはぜんぜん気付かなかったそうだ。
「あんなのが、人間の中に混じってたら。めっちゃ怖いよ!」
「でも、見分け方はありますよ」
ドロレスちゃんが、さくっと言う。
「どんな?」
ミーヨが訊ねる。
「化ける相手の、服までソックリにマネしますから、ずっと同じ服を着てるとか……夜なのに『昼服』を着てるとか……冬なのに夏服着てるとか」
ドロレスちゃんは、指折り数えつつ、特徴をあげていった。
「でも、そんな奇人とか変人なら、いそうだけど。てか、裸を見られて化けられたら? フツーに服着るんじゃあないの?」
俺は突っ込んだ。
昨夜のケースが、まさにそれっぽかったのだ。
そんで、脱ぎ捨てられた「化けの皮」って、何かに再利用出来るのか?
ちょっと違うけど……『甘○ブリリアントパーク』に、「魔法の肉襦袢」だかで「他人に変装」するエピソードがあったぞ?
「そうだと思いますが、見たまんまを丸写しで真似るんですから……鏡みたいに、左右が逆さになってるハズですよ?」
「……鏡面反転か」
『宝探し』の時の「鏡のような床」を思い出してしまうな。ぐへへへ。
ま、アレは上下反転だったけど。
「でも、人間の体なんてだいたい左右対称で、同じなんじゃないの? ホクロでもない限り……あ! ああ、そのための『魔法の黒子』かあ」
ミーヨが、何かに思い当たったようで、ひとりで納得してる。
「はい。だから、身分証として『魔法の黒子』を入れるのが習わしになったそうですよ」
「アレって、体の真ん中の『心中線』を外した位置につけるもんね」
ミーヨも、あのホクロの事を知ってるのか?
いろいろと訊いとけば良かったな。知らない事多すぎるもんな、俺。
「それって『化物混入事件』キッカケじゃないの? その『事件』ってどんななの?」
訊くと、何故かミーヨとドロレスちゃんが、チラチラとお互いを見合ってる。
「言っていい?」
「どーぞ」
「んー……とね。昔々に、王家に生まれた赤ちゃんが『化物』と取り替えられた事件……なんだけど」
なるほど、ミーヨが気を遣うハズだ。
養女に出されてるけど、ドロレスちゃんは王家出身。元・第七王女だもんな。
「取り替えっ子か」
童話の『みにくいアヒルの子』とかとは……違うだろうな。
てか、どんなストーリーだっけ? 白鳥に変身するんだっけ? イヤ、もともと白鳥なんだったかな。
「子供を産めない女官さんが、どーしても赤ちゃんが欲しくって、『化物』のタマゴを孵化させて、すり替えたんだって。……そして、その残された方の赤ちゃんが……」
ミーヨが言葉を切ると、継いだのはドロレスちゃんだった。
「『成長しない赤ん坊』として、10年以上も赤ん坊の姿のままだったそうなんです」
「……怖い怖い怖い。めっちゃ怖い」
『地球』にも「永遠の仔猫」とかいなかった?
完全に、別物だろうけど。
で、その後、どーなったんだ?
「そ、それで?」
「たまたま『王都防衛軍団』の『特派旅団』の兵士の一人が……戦争が恐くて『化物』を『替え玉』に仕立てて……」
「そこで、運命的な出会いを果たした2頭の『化物』は、お互いに『化けの皮』を脱いで、繁殖のために」
「あー、ハイハイ。わかったわかった」
阻止性交……イヤ、阻止成功。
「そんで、その連れ去られた方の赤ちゃんは? どーなったの?」
江戸時代の日本でも「将軍のご落胤」とかが名乗り出て来る事件があった気がするな。てか、その手の「詐欺師」って、世界史的にも何人もいた気がするな。
「「……(無言)……」」
「ん? 知らないの?」
「伝わってない、と思うよ」
「あたしも知らないです」
二人とも、素っ気ない反応だ。
「そっかー、残念」
どうなったんだろうな? その赤ちゃん。
子供欲しさに取り替えられたんだから、そのまま大事に育てられたんだろうけれども。
「でも、わたし分かるな。どうしても子供が欲しいって思う事……あるかもしれない」
ミーヨが、そんな事を言い出す。
彼女だって、もうすぐ17……まだ16歳なのに。子育てとか、きっとタイヘンだぞ?
「そう言えば、『女王国』の女王様って、『経産婦』じゃないと即位出来ないんですよ。知ってました?」
ドロレスちゃんまで、変な事を言い出した。
「お兄さんには、もっともっと頑張って貰わないと(ニヤリ☆)」
ナニを頑張るんだよ? ナニか? ナニだな(笑)。
「でも、お兄さん。『化物』の交尾って、あっ、という間に終わるそうですから、それに巡り会えたのは、スゴイ幸運だと思いますよ? しかも、その直後に産卵だなんて……一生に一度あるかないか、くらいの奇跡だと思いますよ?」
「……嬉しくないよ、そんなの」
産卵ってより「散乱」だったよ。最後、バラバラになってたよ。
そして、また言わせちゃったよ。「交尾」って。まだ12歳の子に。
「……それで、その流れでお聞きしますが、結局昨夜は何回したんですか?」
そっちの方が、かなり気になるみたいだ。
「うん。さん」
「ハイ、そこまで! お二人とも、お止しなさい。はしたないったら、ないですわ!」
これ、プリムローズさんの仕事なのに、俺かよ。
てか、何で俺こんな口調? 昨夜のメイドさんの影響かなあ。
「今夜は夜会のあとに、おねーちゃんと……ですから。残弾は大丈夫ですか?」
「いつも通りだったから、大丈夫だよね?」
ミーヨさんや、およしなさいな。
「イヤ、あのね、君たち……頼むから」
本当に困りますう。
「あたしはまだ子供なので、夜会には出れませんけど……お兄さんたちは、社交界に華麗に初登場ですからね。頑張ってください!」
ドロレスちゃんが、俺たちを無責任な感じに激励した。
でも、「社交界に初登場」とか。
たしか「デビュタント」ってヤツか? そんな大層なこっちゃないと思うんだけどな。
「……わたし、出ない」
ミーヨが、ぼそっと呟いた。
「えっ? なんでだよ」
「夜会とか、社交界とか……そういう場には出れないよ。お父さんのこともあるし……」
ミーヨは自信なさそうに、口ごもった。
「……イヤ、でも……」
俺が、なんと言おうか迷ってると――
「こちらにございます。旦那様」
遠くで、メイドさんの声がした。
「おう、なんでぇ! テメエら、誰の許しを得てここに居やがんだ? このク○ッタレ!」
朝の食卓に不似合いな、下品な「がなり声」が響いた。
◇
ほぼ、一ヶ月(※地球感覚)ぶりに会ったドロレスちゃんのお爺さんは、まったく変わってなかった。
『冶金組合』の事務所で会った俺たちの事を、全然覚えてなかった。
説明がめんどいので、もう「初対面」で通すことにした。
「ラウラっ子の『愛し人』だあ?」
ドロレスちゃんに、そう紹介されてしまったのだ。
父親じゃなくて「祖父」の立場なので、俺の扱いに困っているらしい。なにか奇妙な表情で、じーっと見られた。
てか、この人自身も先代の女王陛下の『愛し人』だったせいか、自分自身がそうだった時の事でも思い出したのか……あるいは、俺に対して何か同情してるか……ホントに妙な感じに見られまくった。
で、俺たちが『王家の秘宝』を発見し、その不自然な減少を問うたところ、ドロレスちゃんが自分がやった事を認めた――と話すと、じろっ、と孫娘を睨んだあとで、お爺さんは言った。
「ドロん子は悪くねーぞ!」
「…………」
ドロレスちゃん、家じゃ「ドロん子」って呼ばれてるのか?
――後で、これをネタにからかってやろうっと。
「…………」
「…………」
双方とも、しばらく無言が続いた。
お爺さんが「悪いのは自分だ」と言い出すのを待ってるのに、認めてくれない。
ドロレスちゃんに罪がないのなら、じゃあ誰が? という点について、完全に口を噤んでる。
困った大人だ。
「で、彼女に『王都』に行ってもらって、その件について女王陛下に直に釈明をしてもらおう――というのが、我々が出した結論でして」
「…………」
お爺さんは、腕組みしたまま黙りこんでる。
寝て……ないよな?
「話はわかった。『王都』でもどこでも連れてきな! ドロん子、余計なコトはしゃべんじゃねーぞ!!」
「おう!」
……イヤ、そういう相談は、裏でコッソリやって欲しい。
結局、「二の四分」のあいだ、ドロレスちゃんの「『王都』行き」が決定した。
ちなみに、「二の四分」は、一年間を四分割した第二の季節で……ああ、ややこしい。
カンタンに言うと、「夏」だ。
『地球』の感覚だと、6月から8月だ。
言ったら、「夏休みのあいだは東京に滞在」みたいな感じだ。
なお、旅費は保護者が負担するように! と、声を大にして言いたい。
……言えないけどね。
言いたい事があっても、実際に口に出して言えないのは、からかい上手な、おでこが広くて声が可愛い女子中学生だけじゃないのだ。
◇
ふだん『代官屋敷』に居るのは、住み込みの使用人だけらしい。
ちなみに、昨夜全裸で怒られてたロベルトさんは、お屋敷の料理人だそうだ。
朝と昼のあいだの微妙な時間帯に、事務方の官吏と、『番兵隊』の隊長さんが定期報告にやって来た。
ちなみに、『王都』から派遣されて『塔』に詰めている『対空兵団』と、この街の『番兵隊』は意外と仲良しらしい……って、どうでもいいわ。んなこと。
でも、実はこの話。当の隊長さんから雑談の中で聞いた。
ヒマだったらしくて、向こうから話しかけられたよ。
なんか、こう……のんびりしてる。
部外者ながら、女王陛下の「直轄領」なのに、こんなにゆるゆるでいいんだろうか? と思ってしまう。
官吏も隊長さんも、なんというか「上司」であるドロレスちゃんのお爺さんに染め上げられていて、いい加減で大雑把な人たちばかりだった。とても、「お役人」には見えない。
で、この人たちの部下を含めた全員が、ドロレスちゃんが言うところの『手下』だったらしい。
緊急時に動員しても、何もしてくれなさそうな人たちだったよ。
◇
「「「「「……(ドヤドヤドヤ)……」」」」」
お昼を過ぎると、急に人の出入りが激しくなった。
今宵、『代官屋敷』では、第三王女ライラウラ姫(※ラウラ姫は愛称だ)を主賓とした「夜会」が催されるそうなのだ。
本来、ラウラ姫が到着してすぐに、歓迎の宴を行う予定が、館の猫屋敷化によって、ずっと延期されていたらしい。
屋敷内の清掃は、「職務上の機密を守るため」に外部には頼めなかったそうで、内部の少人数だけでは人手が足らず、なかなか完了しなかったらしい。てか、まだいるよ。猫たち。
『冶金の丘』の代官屋敷では、そう滅多に「パーティー」とか「晩餐会」とか「舞踏会」とかはやらないそうで、会場の設営やら飾り付け、食事まで、ほぼ「丸投げ」に近いかたちで、街の『飲食店組合』に任せてしまったらしい。
それで、そこから「夜会」の準備のために、大量の人員がやって来たのだ。
屋敷内のそこかしこに居る猫ちゃんたちは、「夜会」の前後だけ、豪華なエサで釣って、外に追い出すらしい。
なお、「夜会」には、主賓であるラウラ姫ご本人と、さらにその『破瓜の儀』のお相手の『愛し人』も出席されるそうだ。
てか、他人事みたいに言ってるけど、俺の事だ。
……やれやれ。
◇
「それでは……ポチっとな!」
ドロレスちゃんが言うと、虹色のキラキラ星が飛び去って、『★密封☆』されていたクローゼットが開いた。
「お爺ちゃんの服ですが、着れそうなやつを好きに使っていいって話でした」
ドロレスちゃんが、さくっと言う。
「そりゃどうも」
俺は「夜会」に着れそうな服を持っていなかったので、『女王国』の男性が着る「正装一式」を借りる事になったのだ。
「これは……派手。これも……派手。ぜんぶ……派手」
ミーヨが物色してる。
てか、ぜんぶ派手なのか? お爺さんの服なのに?
見ると、スパンコールとかビーズみたいなので、キラキラと色彩が乱舞してる。
なるほど、派手だ。
いまどき、芸人だってこんな服着ないよ。
「これちょっと着てみて」
おとなしめのやつを、手渡された。
「おう」
俺は、手渡された服に袖を通す。
ん? 袖に腕を通す? あれ? 日本語表現がよく分からん。
そんなんはいいとして、「長い間しまってあった服」って、「防虫剤の匂い」が浸みついてそうなイメージがあるけれど。
「……くんかくんか……」
でも、特にそんな事は無かった。
お爺さんの「若いころ」だから、何十年も前のものなのに。
『魔法』で『★密封☆』されてただけある。素直にスゴい。
「……ん?」
でも……どこからともなく漂ってくるこの匂いに、めっちゃ嗅ぎ覚えがある。
カレーの匂いだ。
「……くんかくんか……」
「確かに匂うね。『神授祭』の匂いがする。なんで今頃?」
ミーヨが、ふしぎな事を言う。
『神授祭』って「冬至」の時にやる年に一度のクリスマスみたいなお祭りのハズだ。それと「カレー」がどう結びつくんだ? 俺なんて『前世』では確実に週一ペースで食ってたぞ。
「『神授祭』の匂いって?」
訊いてみた。
「この匂い。『満腹丸焼き』の匂いだよ」
「満腹丸焼き?」
ナニソレ? 美味しそう。
でも、カレーの香りだし、味だってそうに違いない。
てか、「はちみつ抜き」なのか? 「ガラムマサラマシマシ」なのか? それだと、どっかの秘密基地に案内されそうだな。ああ、『師匠』!
「季節外れなんですけど、おねーちゃん……いえ、姫殿下に『夜会で食べたい料理は御座いませんか?』と御聞きしたところ、『うむ。ならば』とご所望されたのが『満腹丸焼き』だったんです」
「ああ、そーなんだ」
イヤ、君らだけで納得してないで、俺にも教えて。なんなの?
「『満腹丸焼き』って?」
「大きな鳥のお腹に、色んな香辛料や香味野菜をギッチリ詰め込んで、満腹にするの」
「それを大きな窯で、まるっと丸焼きにするんですよ」
ミーヨとドロレスちゃんが「連携技」で教えてくれた。
「時々窯から出して、上から汁を回しかけながら焼くそうですから、匂いが漏れてくるんでしょう」
「……へー」
クリスマスの「ローストチキン」みたいなものらしい。
『地球』由来のハーブや香辛料がいくつか『この世界』にも根付いてるらしいけど……スパイスの配合がカレーに似てるのかな?
「ああ、『神授祭』かあ」
ミーヨがうっとりと呟く。
なにやらロマンティックなイメージを思い描いているらしい。
「『神授祭』の頃は、街の中がこの匂いでいっぱいになりますもんね」
ドロレスちゃんまでうっとりしてる。
てか、そのロマンティックなシーズンに、街中が「カレーの匂い」でいっぱいになるの?
どーなの? それ。
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