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第5話(2) 『一世一代の告白』~一生忘れられない~
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「ルナ」
ハリー達が去って、また2人きりの静寂に包まれた時。真剣な声に名前を呼ばれて、ルナはセンリを見る。
その瞬間大きく風が吹き、センリの黒緋色の髪がふわりと舞った。一際目立つ光緑の瞳は煌めいており、どこか非現実的なその光景に見とれる。
「好きだ」
「…っ」
射抜くような熱い視線で、その言葉がそのまま心臓に打ち込まれたように感じた。
全身がドクドクと脈打つように感じ、顔も瞳も熱くなってくる。
「そんなに可愛い顔をされると期待する」
センリが腕を伸ばしてきて、ルナの顔にかかった髪をふわりと避けてくれる。ギリギリ肌に触れないようなその優しい動作に、泣きたくなるほど、ときめいた。
「…私」
詰まりそうになるが、少し息を整えるように目を閉じる。センリはじっと待ってくれて、この優しくて熱い時間がずっと続いて欲しいと思うくらい心地よい。
長いような短いような静寂は、まるで世界に2人だけになったような錯覚を起こさせる。
目を開けて顔を上げると、変わらずルナを見つめる、光るような緑の瞳が見えた。
「私も、好き」
センリの目が見開く。
なんでルナを好きになってくれたのかとか、どこが好きなのかとか、色々聞きたいことはある。
それでも、まずは素直な想いを返したかった。
ためらったり怖じ気づいて、誤解やすれ違うようなことになってはいけないと、それだけを強く意識して、ルナは言いきった。
「センリのことが好き」
声は震えて、緊張と胸の熱さで目から涙が溢れそうだったが、伝えることができて安心した。
センリは珍しく、すぐに反応せずにルナを見つめていた。
「…抱き締めていい?」
少しして聞かれたそれは、ルナの心臓を大きく揺らすのに十分すぎる破壊力があった。
生まれてこのかた、身内以外の男性に抱き締められたことはない。
だが、恐怖や拒否感はなく、ルナは顔を赤くして俯いてしまったがすぐに頷いた。
頷いてすぐ、センリが近寄る気配がする。
背と頭に回された手で、広い胸に抱き寄せられた。
センリの香りが濃くて、あまりの幸せに倒れてしまいそうだった。
「今なら死んでもいい」
本当に嬉しそうな声がすぐ上から聞こえて、ルナの心を震わせる。
ルナもセンリの背に腕を回すと、より深く抱き締められた。
髪を柔らかく撫でられ、ずっとこのままこの腕の中にいたいと思う。
「私も、今までで一番ドキドキして幸せ」
「今可愛いこと言われると、本当に離せなくなるぞ」
センリの頭を乗せるように抱き込まれて、ぴったりと合わさるような心地よさに目眩がした。
しばらく、そのまま2人は抱き合った。時間にすると数分程度だが、あまりに居心地が良く、渋々離される時は名残惜しくて泣きそうだった。
「夢じゃないよな」
「そんなの、私が聞きたいのに」
お互いに確認し合って、笑い合った。
そろそろ風が冷たく感じてきそうな時に、センリがジャケットを肩にかけてくれる。センリの体温に包まれたように暖かく、こんなに幸せでいいのだろうかと思う。
一度車に戻ろうと手を繋がれて、それだけでも嬉しくて仕方がなかった。
「もう少し話したい…」
車に乗り込んですぐ、ルナはセンリに訴えた。
センリは嬉しそうに笑って頷いてくれる。
「俺もそう思ってたよ」
どこまでも優しい声にとろけそうになる。
「センリはいつから私のこと…その、好きだって…」
甘い雰囲気に酔いつつそう聞いてみると、センリの表情はどこか懐かしげなものに変わった。
「ルナが6歳の時から」
「…え?」
予想だにしない返答に、ルナは若干混乱した。
「どういうこと?」
困惑の問いに、センリは言葉を選んでいる様子だった。
「ルナは6歳の頃までの記憶がある?」
そう聞かれて、ときめきとは別の意味で心臓が鳴った。
ルナは6歳までの記憶がない。両親が6歳の頃に亡くなったのでショックが大きかったのだろうと祖父は言っていた。
ルナが無言で首を横に振ると、センリが気遣うような顔つきになる。
「俺はルナが記憶をなくした原因を知ってる」
「…どうして」
「そうなるきっかけになった場所に、俺もいたから」
心から心配している様子のセンリは、とてもふざけているようには思えない。
「俺たちがはじめて会ったのはあの汚染区域じゃなくて、ルナのおじいさんが住む北部だ」
ルナはこれからセンリが語ることは、ルナにとって重要なことなのだろうと察した。落ち着いた様子のルナに少し安心したのか、センリが頭を撫でてくれる。恋人同士になった実感を呼び起こされて、また少し頬が熱くなった。
「俺が公園で1人で座り込んで雪に降られてたときに、ルナが声をかけてくれた。そのままそこにいると雪に埋まっちゃうよって」
大切そうに話す様子が、まるでずっと隠していた宝物をこっそり見せてくれているかのようだった。
「その時の俺がひねくれてたからちょっと喧嘩になったけど。ルナは座り込んでるから落ち込むんだって、俺の手を引っ張って遊びに誘ったんだ」
センリの話は、ルナにとってははじめて聞く話のはずだった。実際、記憶はないし思い出せないのだが、なぜか懐かしくてたまらない。
「ルナは両親と里帰り旅行中で、しばらくここにいるんだって言って何度も俺を遊びに誘ってくれるようになった。俺を見つけるといつも嬉しそうに駆け寄ってくるから、本当に可愛くて仕方がなかったよ」
「…なんか恥ずかしい」
想いが通じ合った今、隠そうともせず愛しげに見つめてくるので心臓に悪かった。
「大人になったらお嫁さんになってあげるとも言われてたな」
「私、そんなこと言ってたの…!?」
記憶をなくした後からは塞ぎがちで大人しかったと祖父に言われていたが、その前はそんなにもお転婆だったのか。
「1ヶ月くらいそんな風に過ごして、ある日ルナのご両親が俺を食事に誘ってくれたんだ。いつも娘と遊んでくれてありがとうって。遠慮したけどルナもルナのご両親も押しが強くて、そのまま4人でショッピングモール向かうことになった」
センリは、当時を思い出しているのか真剣な顔になっていた。どこか言い表しがたい感情が見え隠れしており、緊張感が伝わってくる。
「ルナのご両親は、2人とも責任感のある戦闘士だった。だからモールで汚染生物を使ったテロが起きたとき、真っ先に討伐に向かっていった」
ルナはここまで聞いても、何かを思い出すことはない。両親が2級戦闘士だったことは聞いているが、どんな最期だったのかは知らなかった。戦闘士のネガティブな情報はシャットアウトされる傾向にあるため、報道記録なども残っていないのだ。
そのために、祖父も頑なに話してくれなかったそれを、ルナは食い入るように聞いていた。
「ルナの両親のおかげでテロの首謀者は途中で現場を放棄した。けど汚染生物はモールを荒らし回って、数十人の被害者も出た。ルナと俺を守るために、ルナのご両親は戦い続けた」
ルナの様子を確認し、センリはそこで話を止めた。ルナがショックな記憶を思い出さないか心配なのだろう。
「…俺は、ルナの記憶がそのまま眠ってくれている方が良いと思ってる」
「どうして?」
「もう、絶望に泣いて狂いそうになるルナを見たくない」
センリの揺れている瞳を見て、センリも大きな衝撃を抱えて生きてきたのだと知った。
だがルナはずっと、両親の最期を知らないまま生きてきたことが引っ掛かっていた。
祖父は心配して本当に何も話さずに育ててくれた。それも愛だと分かっている。
それでも、ルナには知る権利がある。
「私は知りたい。2人が、私を守ってどうなったのか。センリに思い出させるのも酷いことだってわかってるけど、でも」
「俺のことはいい。俺はルナのことだけが心配なんだ」
「私は何も覚えてない。だから大丈夫」
センリはルナの意志が固いことを悟ったのか、静かに息を吐いた。
「…あの汚染生物は、細胞を増幅させる促進剤の影響でより巨大になって暴れまわった。2人のおかげで討伐自体は完了したけど、モールの方が限界を迎えて倒壊したんだ」
センリがルナの手を握る。指を絡めるようにしっかりと握られており、まるで心を繋ぎ止められているかのような感覚だった。
「ルナのご両親は、ルナと俺を突き飛ばして瓦礫の下敷きになった」
「…」
その時のことを思い出しているのであろうセンリは、震えることこそなかったが暖かかった手が冷えていた。
ルナは包むように、もう片方の手を添える。
「大量の瓦礫の下敷きになって、どうみても助からないってくらい、即死だった。ルナはその光景を見て、酷くショックを受けていた」
センリが少しだけ間を置いた。
「……ルナはご両親を引っ張り出そうとしたけど、モールはまだ崩れそうで…俺はルナを抱えてご両親の元から引き離した」
そこまで聞いて、ルナはセンリの腕に頭をもたげた。
センリがわずかに肩を揺らして、予想が当たっているかもしれないと思った。
「私は、センリに酷いことを言った…?」
ルナを守ろうとして抱き上げたセンリに、両親のことしか頭になかったであろうルナは何を言ってしまったのだろう。
「違う、酷いことなんか言われてない。ただルナは、ご両親のそばにいて助けたかっただけだ」
「…助けてくれてありがとう」
センリを見つめて言うと、やはりその瞳はまだ揺らいでいた。
命の恩人で、ルナを一心に思ってくれていた人は、こんなにも優しくて愛しい。
「センリと出会ったおかげで、私は今すごく幸せだよ」
「ルナ…」
「好きな仕事もできて、友達と美味しいものも食べれて、こうして私を見つけてくれたセンリと一緒にいられて…」
そこまで言ったところで、センリがルナ寄りかかるようにして頭を乗せてきた。センリの手を包んでいた手ごともう一方の手で握られる。
「ずっと会いたかった」
儚げな声に、思わず涙が出そうだった。
「ルナのおじいさんに、思い出すといけないからと言われてそのまま会えなくなって」
センリの声も震えている。ルナが思うより大きな感情を、センリはずっと持ったままでいてくれたのだ。
「強くなって有名になれば、ルナを探しやすくなると思った。それだけを目標にして生きてきた」
胸が熱くて、とうとうルナの瞳から涙がこぼれた。
「あの時、ルナを見つけることができて本当に良かった」
少しだけ身を離したセンリが、ルナの涙を掬う。
センリが言っているのは、2人が再会したあの討伐作戦だろう。
あの時センリが駆け付けるのがもう少し遅ければ、ルナはこの世にいなかった。
「私、2度もセンリに救われちゃったね」
「何度でも救うよ。そのためにここまで来たんだ」
何よりも信じられるその言葉は、宝物のようだった。見つかるかもわからないルナをずっと探し続けてくれたセンリ。
彼に同じだけのものを返せるか分からないが、生涯をかけて精一杯愛し続けたいと思う。
「愛してる…ルナ」
「…っうん、うん。私も」
痛いほど伝わるその感情は、最期まで揺るぎないのだろうと思わせてくれる。
この人を、何よりも大事にしたい。
人生でこんなにも大切で愛しい夜があるのだと、ルナは最期のその時まで、この日を何度も思い返すこととなる。
そしてそれは、これから起きる全ての幸せや苦しみ、事件も、全てを覆ってしまえる程の愛の始まりだった。
ハリー達が去って、また2人きりの静寂に包まれた時。真剣な声に名前を呼ばれて、ルナはセンリを見る。
その瞬間大きく風が吹き、センリの黒緋色の髪がふわりと舞った。一際目立つ光緑の瞳は煌めいており、どこか非現実的なその光景に見とれる。
「好きだ」
「…っ」
射抜くような熱い視線で、その言葉がそのまま心臓に打ち込まれたように感じた。
全身がドクドクと脈打つように感じ、顔も瞳も熱くなってくる。
「そんなに可愛い顔をされると期待する」
センリが腕を伸ばしてきて、ルナの顔にかかった髪をふわりと避けてくれる。ギリギリ肌に触れないようなその優しい動作に、泣きたくなるほど、ときめいた。
「…私」
詰まりそうになるが、少し息を整えるように目を閉じる。センリはじっと待ってくれて、この優しくて熱い時間がずっと続いて欲しいと思うくらい心地よい。
長いような短いような静寂は、まるで世界に2人だけになったような錯覚を起こさせる。
目を開けて顔を上げると、変わらずルナを見つめる、光るような緑の瞳が見えた。
「私も、好き」
センリの目が見開く。
なんでルナを好きになってくれたのかとか、どこが好きなのかとか、色々聞きたいことはある。
それでも、まずは素直な想いを返したかった。
ためらったり怖じ気づいて、誤解やすれ違うようなことになってはいけないと、それだけを強く意識して、ルナは言いきった。
「センリのことが好き」
声は震えて、緊張と胸の熱さで目から涙が溢れそうだったが、伝えることができて安心した。
センリは珍しく、すぐに反応せずにルナを見つめていた。
「…抱き締めていい?」
少しして聞かれたそれは、ルナの心臓を大きく揺らすのに十分すぎる破壊力があった。
生まれてこのかた、身内以外の男性に抱き締められたことはない。
だが、恐怖や拒否感はなく、ルナは顔を赤くして俯いてしまったがすぐに頷いた。
頷いてすぐ、センリが近寄る気配がする。
背と頭に回された手で、広い胸に抱き寄せられた。
センリの香りが濃くて、あまりの幸せに倒れてしまいそうだった。
「今なら死んでもいい」
本当に嬉しそうな声がすぐ上から聞こえて、ルナの心を震わせる。
ルナもセンリの背に腕を回すと、より深く抱き締められた。
髪を柔らかく撫でられ、ずっとこのままこの腕の中にいたいと思う。
「私も、今までで一番ドキドキして幸せ」
「今可愛いこと言われると、本当に離せなくなるぞ」
センリの頭を乗せるように抱き込まれて、ぴったりと合わさるような心地よさに目眩がした。
しばらく、そのまま2人は抱き合った。時間にすると数分程度だが、あまりに居心地が良く、渋々離される時は名残惜しくて泣きそうだった。
「夢じゃないよな」
「そんなの、私が聞きたいのに」
お互いに確認し合って、笑い合った。
そろそろ風が冷たく感じてきそうな時に、センリがジャケットを肩にかけてくれる。センリの体温に包まれたように暖かく、こんなに幸せでいいのだろうかと思う。
一度車に戻ろうと手を繋がれて、それだけでも嬉しくて仕方がなかった。
「もう少し話したい…」
車に乗り込んですぐ、ルナはセンリに訴えた。
センリは嬉しそうに笑って頷いてくれる。
「俺もそう思ってたよ」
どこまでも優しい声にとろけそうになる。
「センリはいつから私のこと…その、好きだって…」
甘い雰囲気に酔いつつそう聞いてみると、センリの表情はどこか懐かしげなものに変わった。
「ルナが6歳の時から」
「…え?」
予想だにしない返答に、ルナは若干混乱した。
「どういうこと?」
困惑の問いに、センリは言葉を選んでいる様子だった。
「ルナは6歳の頃までの記憶がある?」
そう聞かれて、ときめきとは別の意味で心臓が鳴った。
ルナは6歳までの記憶がない。両親が6歳の頃に亡くなったのでショックが大きかったのだろうと祖父は言っていた。
ルナが無言で首を横に振ると、センリが気遣うような顔つきになる。
「俺はルナが記憶をなくした原因を知ってる」
「…どうして」
「そうなるきっかけになった場所に、俺もいたから」
心から心配している様子のセンリは、とてもふざけているようには思えない。
「俺たちがはじめて会ったのはあの汚染区域じゃなくて、ルナのおじいさんが住む北部だ」
ルナはこれからセンリが語ることは、ルナにとって重要なことなのだろうと察した。落ち着いた様子のルナに少し安心したのか、センリが頭を撫でてくれる。恋人同士になった実感を呼び起こされて、また少し頬が熱くなった。
「俺が公園で1人で座り込んで雪に降られてたときに、ルナが声をかけてくれた。そのままそこにいると雪に埋まっちゃうよって」
大切そうに話す様子が、まるでずっと隠していた宝物をこっそり見せてくれているかのようだった。
「その時の俺がひねくれてたからちょっと喧嘩になったけど。ルナは座り込んでるから落ち込むんだって、俺の手を引っ張って遊びに誘ったんだ」
センリの話は、ルナにとってははじめて聞く話のはずだった。実際、記憶はないし思い出せないのだが、なぜか懐かしくてたまらない。
「ルナは両親と里帰り旅行中で、しばらくここにいるんだって言って何度も俺を遊びに誘ってくれるようになった。俺を見つけるといつも嬉しそうに駆け寄ってくるから、本当に可愛くて仕方がなかったよ」
「…なんか恥ずかしい」
想いが通じ合った今、隠そうともせず愛しげに見つめてくるので心臓に悪かった。
「大人になったらお嫁さんになってあげるとも言われてたな」
「私、そんなこと言ってたの…!?」
記憶をなくした後からは塞ぎがちで大人しかったと祖父に言われていたが、その前はそんなにもお転婆だったのか。
「1ヶ月くらいそんな風に過ごして、ある日ルナのご両親が俺を食事に誘ってくれたんだ。いつも娘と遊んでくれてありがとうって。遠慮したけどルナもルナのご両親も押しが強くて、そのまま4人でショッピングモール向かうことになった」
センリは、当時を思い出しているのか真剣な顔になっていた。どこか言い表しがたい感情が見え隠れしており、緊張感が伝わってくる。
「ルナのご両親は、2人とも責任感のある戦闘士だった。だからモールで汚染生物を使ったテロが起きたとき、真っ先に討伐に向かっていった」
ルナはここまで聞いても、何かを思い出すことはない。両親が2級戦闘士だったことは聞いているが、どんな最期だったのかは知らなかった。戦闘士のネガティブな情報はシャットアウトされる傾向にあるため、報道記録なども残っていないのだ。
そのために、祖父も頑なに話してくれなかったそれを、ルナは食い入るように聞いていた。
「ルナの両親のおかげでテロの首謀者は途中で現場を放棄した。けど汚染生物はモールを荒らし回って、数十人の被害者も出た。ルナと俺を守るために、ルナのご両親は戦い続けた」
ルナの様子を確認し、センリはそこで話を止めた。ルナがショックな記憶を思い出さないか心配なのだろう。
「…俺は、ルナの記憶がそのまま眠ってくれている方が良いと思ってる」
「どうして?」
「もう、絶望に泣いて狂いそうになるルナを見たくない」
センリの揺れている瞳を見て、センリも大きな衝撃を抱えて生きてきたのだと知った。
だがルナはずっと、両親の最期を知らないまま生きてきたことが引っ掛かっていた。
祖父は心配して本当に何も話さずに育ててくれた。それも愛だと分かっている。
それでも、ルナには知る権利がある。
「私は知りたい。2人が、私を守ってどうなったのか。センリに思い出させるのも酷いことだってわかってるけど、でも」
「俺のことはいい。俺はルナのことだけが心配なんだ」
「私は何も覚えてない。だから大丈夫」
センリはルナの意志が固いことを悟ったのか、静かに息を吐いた。
「…あの汚染生物は、細胞を増幅させる促進剤の影響でより巨大になって暴れまわった。2人のおかげで討伐自体は完了したけど、モールの方が限界を迎えて倒壊したんだ」
センリがルナの手を握る。指を絡めるようにしっかりと握られており、まるで心を繋ぎ止められているかのような感覚だった。
「ルナのご両親は、ルナと俺を突き飛ばして瓦礫の下敷きになった」
「…」
その時のことを思い出しているのであろうセンリは、震えることこそなかったが暖かかった手が冷えていた。
ルナは包むように、もう片方の手を添える。
「大量の瓦礫の下敷きになって、どうみても助からないってくらい、即死だった。ルナはその光景を見て、酷くショックを受けていた」
センリが少しだけ間を置いた。
「……ルナはご両親を引っ張り出そうとしたけど、モールはまだ崩れそうで…俺はルナを抱えてご両親の元から引き離した」
そこまで聞いて、ルナはセンリの腕に頭をもたげた。
センリがわずかに肩を揺らして、予想が当たっているかもしれないと思った。
「私は、センリに酷いことを言った…?」
ルナを守ろうとして抱き上げたセンリに、両親のことしか頭になかったであろうルナは何を言ってしまったのだろう。
「違う、酷いことなんか言われてない。ただルナは、ご両親のそばにいて助けたかっただけだ」
「…助けてくれてありがとう」
センリを見つめて言うと、やはりその瞳はまだ揺らいでいた。
命の恩人で、ルナを一心に思ってくれていた人は、こんなにも優しくて愛しい。
「センリと出会ったおかげで、私は今すごく幸せだよ」
「ルナ…」
「好きな仕事もできて、友達と美味しいものも食べれて、こうして私を見つけてくれたセンリと一緒にいられて…」
そこまで言ったところで、センリがルナ寄りかかるようにして頭を乗せてきた。センリの手を包んでいた手ごともう一方の手で握られる。
「ずっと会いたかった」
儚げな声に、思わず涙が出そうだった。
「ルナのおじいさんに、思い出すといけないからと言われてそのまま会えなくなって」
センリの声も震えている。ルナが思うより大きな感情を、センリはずっと持ったままでいてくれたのだ。
「強くなって有名になれば、ルナを探しやすくなると思った。それだけを目標にして生きてきた」
胸が熱くて、とうとうルナの瞳から涙がこぼれた。
「あの時、ルナを見つけることができて本当に良かった」
少しだけ身を離したセンリが、ルナの涙を掬う。
センリが言っているのは、2人が再会したあの討伐作戦だろう。
あの時センリが駆け付けるのがもう少し遅ければ、ルナはこの世にいなかった。
「私、2度もセンリに救われちゃったね」
「何度でも救うよ。そのためにここまで来たんだ」
何よりも信じられるその言葉は、宝物のようだった。見つかるかもわからないルナをずっと探し続けてくれたセンリ。
彼に同じだけのものを返せるか分からないが、生涯をかけて精一杯愛し続けたいと思う。
「愛してる…ルナ」
「…っうん、うん。私も」
痛いほど伝わるその感情は、最期まで揺るぎないのだろうと思わせてくれる。
この人を、何よりも大事にしたい。
人生でこんなにも大切で愛しい夜があるのだと、ルナは最期のその時まで、この日を何度も思い返すこととなる。
そしてそれは、これから起きる全ての幸せや苦しみ、事件も、全てを覆ってしまえる程の愛の始まりだった。
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