そのダークエルフ、白につき。~死神と呼ばれしガンマンが拾った少女は最強のバディだった~

とんがり頭のカモノハシ

文字の大きさ
1 / 9

第一話 荒野の中の白い影

しおりを挟む
 乾いた風が、砂を巻き上げていた。 
〈サンドリッジ〉──魔導鉱石を巡って無法者が跋扈する、世界の端のような荒野。  
 その一本道を、馬にまたがる一人の男が進んでいた。

 黒い外套を翻し、腰には魔導銃〈マギガン〉を下げている。 
 青年の名は カイト。 
 賞金首を追って荒野を渡り歩く、流れ者のバウンティ・ハンターだ。

「……もう少しの辛抱だ。町に着いたら水と干し草をたらふく食わせてやるからな」

 愛馬に声をかけながら首を撫でる。 
 長く過酷な旅路を共に乗り越えてきた、頼りになる相棒だ。 
 焦げ茶色の毛並みが暖かい。

「!」

 風に乗って微かな悲鳴が聞こえた。

 カイトは馬の足を止めて、耳を澄ませる。 
 空耳ではない。 
 やはり誰かが追われている。

「……面倒ごとは御免なんだがな」

 そう呟きながらも、彼は迷わず走り出していた。




 砂丘を越えた先で、カイトは見た。


 黒い鎖を手にした三人の冒険者──いや、奴隷狩りだ。  
 その中心で、白い影が追い詰められていた。

 プラチナ色の髪。 
 雪のように白い肌。  
 そして、ブラッドルビーのように深い赤い瞳。

「エルフの少女か……。奴隷狩りにとっちゃ、見逃せない獲物だわな。しかし、なんだってエルフがこんな荒野に?」

 少女は震えながらも、自分の影を操って抵抗していた。 

「影魔法! へぇ……珍しいな。アルビノのダークエルフなんざ、初めて見たぜ」

 少女の魔力は切れかかっている。 
 影の動きが徐々に鈍くなっていく。

「てこずらせやがって!」 
 奴隷狩りの一人が、下卑た笑みを浮かべた。
「おまえさんみたいな希少種は、変態貴族に高く売れるんだ。せいぜい可愛がってもらえ。その前に俺たちが味見をして──」

 男の言葉が終わる前に、乾いた銃声が響いた。

 バンッ

 奴隷狩りの男の頭が吹き飛んだ。

「……悪いな。俺の趣味じゃなくてね。女の子を追い回すのは」 
 カイトは45口径の魔導銃を残る二人に向ける。
「その子を置いて立ち去るのなら見逃してやる。拒否するなら……言わなくても分かるよな?」

 奴隷狩りたちは一瞬怯むが、すぐに魔導銃を構えた。

「てめぇ、邪魔すんじゃねぇ!」

「賞金首でもねぇ奴に構ってる暇はないんだが……」 
 カイトはため息をつくと、馬を操って砂丘を一気に駆け下りる。
「まっ、見過ごせるほど薄情でもないんでね」

 次の瞬間、砂塵の中で閃光が走った。




 奴隷狩りが放った魔導弾が砂を爆ぜさせる。 

 カイトの愛馬はジグザクに掛けながら距離を詰める。

 バンッ

 カイトの魔導弾がスキンヘッドの奴隷狩りの心臓を打ち抜く。

 残りは一人。

「テメエ、銃を捨てろ!」   
 最後の一人が少女の後ろに回り込み、こめかみに魔導銃を突きつけた。
「こいつがどうなってもいいのか!?」

「子供を盾にするなんざ、見下げ果てた野郎だな……」

「うるせぇ! テメエも西部で生きているんだったらわかってるはずだ。ここでは生き残った者が正義なんだよ」

「おっしゃるとおりだ。時々、忘れそうになる。俺の悪いクセだ」 

 見捨てられると思ったのだろう。 
 少女が青ざめる。  

 カイトはニヤリと笑った。
「大丈夫だ。安心しろ。見捨てたりはしない」 
 彼はゆっくりと銃を前方遠くへ放り投げた。 

 奴隷狩りの男は、ほっとしたように銃を持つ腕で額の汗を拭う。  

 次の瞬間── 

 カイトは手早く手綱を引いて、愛馬を加速させた。  
 その勢いのまま、空中に身を躍らせると、ホルスターの裏側からショートソードを抜いて、奴隷狩りに向かって投げつける。 

 狙いすました一撃は、魔導銃を持つ男の腕を正確に貫いた。

「ぎゃああああ!」  
 痛みで男の手が緩む。

「今だ! 俺とは反対方向に走れ!!」  

 少女はカイトの言葉に従い、駆け出す。

「テメエら、ぶっ殺してやる!」 
 左手に銃を持ち換え、男が叫ぶ。

 バンッ

 着地したカイトは転がりながら投げ捨てた銃を拾い上げ、引き金を引いた。

 少女とカイト、どちらを狙うか逡巡した男は、引き金を引くことなく大地に倒れた。

「一瞬の迷いが生死を分かつ……これも西部の掟だよな。忘れたか?」

 カイトは冷たく言い放ちショートソードを回収すると、膝をついて荒く呼吸する少女に近づき手を差し伸べた。

「……助けてくれたの?」

「たまたま通りかかっただけだ。礼はいらない」

「……でも、あなたが来なければ、私は……」 
 固く目を閉じた少女の頬に涙が伝った。
「どうして、わたしばっかりこんな……」

 粗末な衣服にやせっぽちの体── 
 奴隷狩りに狙われる前から、ろくでもない人生を歩んできたのだろう。

「……ほら。立てるか?」

 少女は小さく頷き、震える足でよろよろと立ち上がった。

「家は近くか?」

「わたしには……帰る場所なんてない……」

 カイトは、天を仰いで短いため息をついた。

「……そうか。そりゃあ、俺と同じだな」

 カイトは黒い外套を脱ぐと、少女の細い肩にふわりとかぶせた。 
 プラチナ色の髪と白い肌は、この荒野ではあまりに目立ちすぎる。 
 奴隷狩りの残党や、他のならず者に見つかれば、また同じことの繰り返しだ。

「とりあえず、この先の町まで行こう。あそこなら水も食い物もある。……おまえ、名前は?」

 少女は外套の襟をぎゅっと掴み、カイトを見上げた。
「……ルナ」

「ルナか。いい名だ。俺はカイト。見ての通りのしがない賞金稼ぎだ」

 カイトは愛馬の背にひょいと飛び乗ると、ルナに向かって手を差し伸べた。
「乗れよ」

 ルナは一瞬ためらったが、カイトの大きな手を取り、彼の後ろに跨った。 
 馬がゆっくりと歩き出す。 
 乾いた風が二人の横を吹き抜けていった。



     ◇



「……どうして、助けてくれたの?」 
 背中越しに、消え入りそうな声が聞こえた。

「さあな。さっきも言っただろ、たまたま通りかかっただけだ。あと……」 
 カイトは前方の地平線を見据えたまま、少しだけ声を和らげた。
「昔、知り合いに言われたことがある。『あんたは、いつか白い少女と出会うだろう。その子はお前の運命を変えるよ、いい方向に』とね……。それを思い出したのさ……」

 ルナは信じられないといったように大きく目を見開くと、やがてカイトの背中にそっと額を預けた。 
 温かい。 
 馬の体温と、この青年の体温が、凍りついていた彼女の心を少しずつ溶かしていくようだった。

 一刻ほど進むと、砂塵の向こうに岩壁に囲まれた町、〈バレル・ジャンクション〉の影が見えてきた。 
 魔導鉱石の交易で栄えるこの町は、活気と欲望が渦巻く、この界隈で一番大きな溜まり場だ。

「いいか、ルナ。町に入ったらそのフードを深く被っておけ。おまえの容姿は、ここでは宝石よりも価値がある。余計なトラブルは避けたいからな」

「……わかった」

 町に入ると、鉄錆と硝煙の匂いが鼻を突いた。 
 酒場からは騒がしい音楽が漏れ、通りでは荒くれ者たちが魔導銃の手入れをしている。

 カイトは馴染みの宿屋兼酒場〈錆びた弾丸亭〉の前に馬を止めた。

「よお、カイト! また手ぶらで帰りか? おまえさんの腕なら、大物の一人や二人、すぐに仕留められるだろうに」 
 店主のガサツな声が飛ぶ。

 カイトは肩をすくめて応えた。
「あいにく、今日は『拾い物』をしちまってね。……親父、奥の静かな部屋を一つ空けてくれ。それと、俺の愛馬に一番いい干し草と、こいつにはパンと温かいスープを」

 カイトがルナを連れて店に入ると、一瞬、酒場が静まり返った。 
 外套に隠れてはいるが、彼女の異質な気配を敏感に感じ取った者がいたのだろう。

 カイトは腰の魔導銃のグリップに軽く手をかけ、鋭い視線で周囲を威圧した。
「……何か文句がある奴は、表で聞くぜ?」

 男たちは舌打ちをして視線を逸らした。 
 カイトはこの界隈では名の知れた早撃ちだ。 
 わざわざ命を捨てる馬鹿はいない。

 二階の簡素な部屋に入ると、ルナはようやく深く息を吐いた。

「ここで少し休め。俺は下で一杯やりながら仕事の情報を集めてくる。……一人で外には出るなよ。この町には、さっきの連中よりタチの悪い狼がうじゃうじゃいるからな」

 カイトが部屋を出ようとした時、ルナがその袖を小さく引いた。

「カイト……」

「なんだ?」

「……ありがとう」

 カイトは一瞬、面食らったような表情を浮かべた顔をが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻り背を向けた。「……礼なら、そのスープとパンを全部たいらげてからにしろ」

 扉を閉める。 
 カイトは廊下で一人、苦笑いを浮かべた。

「賞金首を追うはずが、とんだ厄介ごとを抱え込んじまったな……」

 だが、彼の足取りは、どこか軽やかだった。 

 荒野の気まぐれな風が、彼にとって何年ぶりかの温もりを運んできたのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...