6 / 9
第六話 影魔法と光魔法
しおりを挟む
アイアン・ポストの町から馬を走らせること一刻。
二人の目の前には、赤茶けた岩石が幾重にも重なる<赤岩の峡谷(レッドロック・キャニオン)>が広がっていた。
「……いたぞ。あそこだ」
カイトが指差す先、岩の隙間から、体長一メートルはある巨大なネズミ――サンドラットが数匹、這い出してきた。
その体毛は砂を固めたように硬質で、陽光を鈍く反射している。
「いいか、ルナ。落ち着いて狙え。大丈夫、練習した通りにやれば当たる」
ルナは頷き、震える手で銃を構えた。
カイトに教わった通り、照準を合わせる。
放たれた魔力弾は、一匹のサンドラットの足元を弾いた。
「キィィッ!」
怒ったサンドラットたちが、猛然とこちらへ突進してくる。
ルナは慌てて次弾を放つが、焦りから狙いが定まらない。
「ちっ、数が多いな……!」
カイトが魔導銃を抜き、正確な射撃で次々とラットを仕留めていく。
だが、岩陰からさらに十数匹の群れが溢れ出してきた。
この数は異常だ。
「ルナ、下がれ!」
カイトが叫ぶのと同時、群れを率いる巨大な親玉がルナを目掛けて飛びかかった。
ルナは恐怖で足がすくみ、動けない。
カイトは迷わず地面を蹴る。
ルナを抱き寄せ、自らの体を盾にする。
鈍い音と共に、アルファの鋭い爪がカイトの肩を深く切り裂いた。
「……ぐっ!」
「カイト!?」
鮮血が舞い、カイトが膝をつく。
サンドラットたちは、獲物の弱体化を悟ったように、一斉に包囲網を縮めてきた。
「逃げろ、ルナ。俺が何とかする」
「嫌だよ、カイト!」
ルナの視界が、カイトの流した血の色で赤く染まる。
胸の奥で、ドロリとした熱い何かが弾けた。
自分を救ってくれた、唯一の居場所。
それを奪おうとする魔獣たちへの、どうしようもない怒り。
「わたしの……わたしのカイトに、触るなッ!!」
ルナが叫んだ瞬間、周囲の空気が凍りついた。
彼女の足元から、自然の理を無視した異常な濃さの影が爆発的に広がる。
影は生き物のようにうねり、地面から無数の黒い触手となって突き出した。
「キィッ!? ギギッ……!」
襲いかかろうとしていたサンドラットたちの四肢を、影の鎖が容赦なく縛り上げる。
魔物たちは身動き一つ取れない。
「これは……?」
カイトが呆然と見上げる中、ルナは無表情に魔導銃を構えた。
その瞳は、普段の赤色よりもさらに深く、禍々しい輝きを放っている。
「……消えて」
至近距離からの連射。
影に拘束され、動かぬ的と化したラットたちは、なすすべなく次々と魔力弾に撃ち抜かれていった。
最後の一匹が動かなくなった時、ルナの影は霧散するように消えた。
「カイト! カイト、大丈夫!?」
先ほどまでの冷徹な雰囲気は消え、ルナは泣き出しそうな顔でカイトに駆け寄った。
「……ああ、かすり傷だ。それよりお前、今の魔法……」
「分からない、体が勝手に……。それより、早く傷を……!」
「……なあ、ルナ……さっきギルドの受付嬢が気になることを言ってた。おまえには『光』と『影』の魔法属性があると」
「……うん……」
「ついさっきの魔法は影だ。光の魔法には『回復魔法』もあるんだが、やれるか?」
「わかんない、やったことないよ!」
「俺の傷口に手を当てて、傷が塞がるイメージで魔力を流してみてくれ」
「わかった。やってみる」
ルナがカイトの肩に手を置き、イメージを集中させると、淡い光が溢れ出した。
光属性の支援魔法――治癒の力が、カイトの傷口を塞いでいく。
「……できた……できたよ、カイト!」
「こいつは驚いた。まさか本当に光魔法がつかえるとはな……。影で動きを止め、光で癒やすか。お前、とんでもない相棒になりそうだ」
カイトが笑うと、ルナは安堵からか、彼の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
「怖かった……。カイトがいなくなるの、絶対嫌……!」
「心配させて悪かった。……でも、助かった。ありがとな、ルナ」
カイトは安心させるように、ルナの背中をトントンと軽く叩いた。
「さあ、証拠品を回収して町に戻るぞ。初仕事の報酬で、美味いもんでも食おう」
「……うん!」
ルナは涙を拭い、満面の笑みを浮かべた。
その日の夕暮れ。
アイアン・ポストのギルドに戻った二人は、受付嬢に討伐の報告を済ませた。
山積みのサンドラットの尻尾を見た受付嬢は、驚きに目を見開いた。
「これ……全部お二人で? しかも、アルファまで混じっているなんて。……ルナさん、もしかして、ものすごい才能を隠していたんじゃありませんか?」
「えへへ……カイトが守ってくれたから」
ルナは誇らしげに胸を張り、カイトの腕をぎゅっと抱きしめた。
午前中にルナを馬鹿にしていた冒険者たちは、その光景を遠巻きに見ながら、顔を引きつらせていた。
カイトの放つ「俺たちに関わるな」という無言の威圧感に、誰も近づこうとはしない。
報酬が入った皮袋を受け取り、二人はギルドを後にした。
「カイト、見て! わたしが稼いだ初めてのお金……!」
「ああ、お前の働き分だ。好きに使っていいぞ」
「じゃあ……カイトに、何かプレゼント買ってもいい?」
「……俺に? 自分の服や、魔導銃のメンテナンス代に取っておけ」
「やだ。カイトにお礼がしたいの」
ルナは譲らず、カイトの袖を引いて露店が並ぶ通りへと歩き出した。
夕日に照らされた二人の影が、長く砂の上に伸びる。
ルナの影は、主の心を映すようにカイトの影へ寄り添い、離れないように繋がっていた。
二人の目の前には、赤茶けた岩石が幾重にも重なる<赤岩の峡谷(レッドロック・キャニオン)>が広がっていた。
「……いたぞ。あそこだ」
カイトが指差す先、岩の隙間から、体長一メートルはある巨大なネズミ――サンドラットが数匹、這い出してきた。
その体毛は砂を固めたように硬質で、陽光を鈍く反射している。
「いいか、ルナ。落ち着いて狙え。大丈夫、練習した通りにやれば当たる」
ルナは頷き、震える手で銃を構えた。
カイトに教わった通り、照準を合わせる。
放たれた魔力弾は、一匹のサンドラットの足元を弾いた。
「キィィッ!」
怒ったサンドラットたちが、猛然とこちらへ突進してくる。
ルナは慌てて次弾を放つが、焦りから狙いが定まらない。
「ちっ、数が多いな……!」
カイトが魔導銃を抜き、正確な射撃で次々とラットを仕留めていく。
だが、岩陰からさらに十数匹の群れが溢れ出してきた。
この数は異常だ。
「ルナ、下がれ!」
カイトが叫ぶのと同時、群れを率いる巨大な親玉がルナを目掛けて飛びかかった。
ルナは恐怖で足がすくみ、動けない。
カイトは迷わず地面を蹴る。
ルナを抱き寄せ、自らの体を盾にする。
鈍い音と共に、アルファの鋭い爪がカイトの肩を深く切り裂いた。
「……ぐっ!」
「カイト!?」
鮮血が舞い、カイトが膝をつく。
サンドラットたちは、獲物の弱体化を悟ったように、一斉に包囲網を縮めてきた。
「逃げろ、ルナ。俺が何とかする」
「嫌だよ、カイト!」
ルナの視界が、カイトの流した血の色で赤く染まる。
胸の奥で、ドロリとした熱い何かが弾けた。
自分を救ってくれた、唯一の居場所。
それを奪おうとする魔獣たちへの、どうしようもない怒り。
「わたしの……わたしのカイトに、触るなッ!!」
ルナが叫んだ瞬間、周囲の空気が凍りついた。
彼女の足元から、自然の理を無視した異常な濃さの影が爆発的に広がる。
影は生き物のようにうねり、地面から無数の黒い触手となって突き出した。
「キィッ!? ギギッ……!」
襲いかかろうとしていたサンドラットたちの四肢を、影の鎖が容赦なく縛り上げる。
魔物たちは身動き一つ取れない。
「これは……?」
カイトが呆然と見上げる中、ルナは無表情に魔導銃を構えた。
その瞳は、普段の赤色よりもさらに深く、禍々しい輝きを放っている。
「……消えて」
至近距離からの連射。
影に拘束され、動かぬ的と化したラットたちは、なすすべなく次々と魔力弾に撃ち抜かれていった。
最後の一匹が動かなくなった時、ルナの影は霧散するように消えた。
「カイト! カイト、大丈夫!?」
先ほどまでの冷徹な雰囲気は消え、ルナは泣き出しそうな顔でカイトに駆け寄った。
「……ああ、かすり傷だ。それよりお前、今の魔法……」
「分からない、体が勝手に……。それより、早く傷を……!」
「……なあ、ルナ……さっきギルドの受付嬢が気になることを言ってた。おまえには『光』と『影』の魔法属性があると」
「……うん……」
「ついさっきの魔法は影だ。光の魔法には『回復魔法』もあるんだが、やれるか?」
「わかんない、やったことないよ!」
「俺の傷口に手を当てて、傷が塞がるイメージで魔力を流してみてくれ」
「わかった。やってみる」
ルナがカイトの肩に手を置き、イメージを集中させると、淡い光が溢れ出した。
光属性の支援魔法――治癒の力が、カイトの傷口を塞いでいく。
「……できた……できたよ、カイト!」
「こいつは驚いた。まさか本当に光魔法がつかえるとはな……。影で動きを止め、光で癒やすか。お前、とんでもない相棒になりそうだ」
カイトが笑うと、ルナは安堵からか、彼の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
「怖かった……。カイトがいなくなるの、絶対嫌……!」
「心配させて悪かった。……でも、助かった。ありがとな、ルナ」
カイトは安心させるように、ルナの背中をトントンと軽く叩いた。
「さあ、証拠品を回収して町に戻るぞ。初仕事の報酬で、美味いもんでも食おう」
「……うん!」
ルナは涙を拭い、満面の笑みを浮かべた。
その日の夕暮れ。
アイアン・ポストのギルドに戻った二人は、受付嬢に討伐の報告を済ませた。
山積みのサンドラットの尻尾を見た受付嬢は、驚きに目を見開いた。
「これ……全部お二人で? しかも、アルファまで混じっているなんて。……ルナさん、もしかして、ものすごい才能を隠していたんじゃありませんか?」
「えへへ……カイトが守ってくれたから」
ルナは誇らしげに胸を張り、カイトの腕をぎゅっと抱きしめた。
午前中にルナを馬鹿にしていた冒険者たちは、その光景を遠巻きに見ながら、顔を引きつらせていた。
カイトの放つ「俺たちに関わるな」という無言の威圧感に、誰も近づこうとはしない。
報酬が入った皮袋を受け取り、二人はギルドを後にした。
「カイト、見て! わたしが稼いだ初めてのお金……!」
「ああ、お前の働き分だ。好きに使っていいぞ」
「じゃあ……カイトに、何かプレゼント買ってもいい?」
「……俺に? 自分の服や、魔導銃のメンテナンス代に取っておけ」
「やだ。カイトにお礼がしたいの」
ルナは譲らず、カイトの袖を引いて露店が並ぶ通りへと歩き出した。
夕日に照らされた二人の影が、長く砂の上に伸びる。
ルナの影は、主の心を映すようにカイトの影へ寄り添い、離れないように繋がっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる