5 / 40
一章 ルカ・ワイアットと贈り物の魔法
5、赤髪の女騎士
しおりを挟む
王都キルクスバーク第2区。石畳の大通りには商店が並び、行き交う人で賑わっている。
目に入るもの全てが新しいルカは、紅い顔をますます赤らめて興奮していた。手を繋いだ二人を、道行く人が微笑ましそうに見ている。
「もし、そこの坊ちゃん」
声を掛けられて二人は立ち止まった。見回すと、黒いベールを被った路上占いの男がこちらを見ている。
「なに、あの人」
ルカが小声で尋ねる。道端で占いをして生計を立てる人だよ、と耳打ちする。占い師はルカを見て続けた。
「坊ちゃんから不思議な星を感じます。運命を大きく変える輝きの星です」
「えっ、それってすごい!?」
「是非、詳しく占わせてください。非常に珍しい運命なのです」
占い師がルカの手を取ろうとする。セスはルカを引っ張って阻止した。占い師はそこでセスを見上げ、動きを止める。
「よろしければお兄さんも一緒に……」
「失礼、時間がないので。行くよ、ルカ」
「ちぇっ」
ルカは口を尖らせたが、引かれるままに歩みを進めた。
◆
宝石商は大通りに面している、装飾具を扱う店だ。魔石も扱っており、ピアス等への加工も行っているので、セスはここで魔石を購入している。
魔石を買い終え、セスは時計を確認した。
「ちょっと早いけど、昼ご飯食べて帰ろうか」
「えっ良いの!? やったー!」
ルカは文字通り飛び上がった。初めての外食である。
きゃあーッ!
その勢いは、鋭い女性の悲鳴で消されることとなった。
宝石商店のすぐ近くの路地に、人だかりができている。女性の悲鳴を聞きつけて集まったのだろう。
「また例の事件か……!?」「なんてひどいの!」
口々に囁く声が聞こえる。
「何かあったのかな」
物々しい雰囲気に、ルカは好奇心がくすぐられたようだった。セスの手を握ったまま人だかりに近付く。異様さに引き留めようと路地へ視線を向け、セスは見えてしまった。
人だかりの中心で、悲鳴を上げた女性の視線の先、──路地に転がっている血濡れの子どもを。
セスの脳裏に回帰前の光景がよぎった。
雪原を赤く染め、無残に転がる仲間たちの姿だ。
「兄ちゃん?」
手を繋いだままセスが立ち止まり、ルカはたたらを踏んだ。兄を振り返って目を見開く。
仰ぎ見た兄の顔が紙のように真っ白だったからだ。
「兄ちゃん! 大丈夫!?」
セスは弟の言葉に自分の不調を理解し、どっと心臓が脈打った。力が入らず、ずるずるとその場にしゃがみ込む。顔を伏せたままなんとか言葉を絞り出した。
「大丈夫……」
「大丈夫じゃないよ! 真っ青じゃん! どうしよう、お医者さんとかどこで呼べば……っ」
ああ、ルカが泣きそうだ。立ち上がらなくては、と力を込めようとするセスの前に、誰かが立ち止まった。
「きみ、どうしたの?」
息が止まる。それはセスが絶対に聞き間違えることのない声だった。
セスは声の人物を仰ぎ見る。
燃えるような赤毛を高く揺らして、白い隊服に身を包んだ女性騎士がそこに居た。太陽のような瞳がセスの顔をじっと見つめている。
「怪しい者じゃない。私は王都騎士団のスカーレット・シエンナ。私に何か、助けることはできるか?」
スカーレット・シエンナ。
回帰前、セスが愛した女性であり、【厄災】との戦いで彼を庇って死んだ人だった。
スカーレットとは北の砦で同じ騎士として出会った。
そして【厄災】との戦いでセスを庇って命を落とした。彼女が回帰前の記憶を持っていないと分かってから、セスはある決意をする。
スカーレットと関わってはいけない。
自己満足だと分かっている。しかし、記憶を持っていない彼女と接してどうなってしまうのか、整理がついていないのである。そう思っていたのに──
「きみ、真っ青じゃないか! 騎士団の詰所に救護用のベッドがある! 連れて行こう!」
「いや、僕は大丈夫……」
「騎士のお姉さん! お願いします!」
ルカがスカーレットに縋る。スカーレットは大きく頷くと、しゃがみ込んでいるセスの膝裏に腕を差し込んだ。そのまま抱え上げられ、頼りになりすぎる腕の中に納められる。
「えっ」
周囲がざわついた。女性の叫び声で集まっていた野次馬たちが、女性騎士に横抱き……所謂お姫様だっこされる長身の男に注目する。黄色い歓声が聞こえた。
セスは思わず弟に助けを求めて手を伸ばした。なんとかスカーレットを止めてほしい。
「る、ルカ」
「大丈夫だよ、兄ちゃん。オレがついてるからね」
頼もしい。そうじゃない。
そう言いたかったが、セスを抱えたスカーレットが走り出したため叶わなかった。こうして彼は、病人を扱うには随分荒いスピードで、騎士団の詰所まで運ばれたのだった。
目に入るもの全てが新しいルカは、紅い顔をますます赤らめて興奮していた。手を繋いだ二人を、道行く人が微笑ましそうに見ている。
「もし、そこの坊ちゃん」
声を掛けられて二人は立ち止まった。見回すと、黒いベールを被った路上占いの男がこちらを見ている。
「なに、あの人」
ルカが小声で尋ねる。道端で占いをして生計を立てる人だよ、と耳打ちする。占い師はルカを見て続けた。
「坊ちゃんから不思議な星を感じます。運命を大きく変える輝きの星です」
「えっ、それってすごい!?」
「是非、詳しく占わせてください。非常に珍しい運命なのです」
占い師がルカの手を取ろうとする。セスはルカを引っ張って阻止した。占い師はそこでセスを見上げ、動きを止める。
「よろしければお兄さんも一緒に……」
「失礼、時間がないので。行くよ、ルカ」
「ちぇっ」
ルカは口を尖らせたが、引かれるままに歩みを進めた。
◆
宝石商は大通りに面している、装飾具を扱う店だ。魔石も扱っており、ピアス等への加工も行っているので、セスはここで魔石を購入している。
魔石を買い終え、セスは時計を確認した。
「ちょっと早いけど、昼ご飯食べて帰ろうか」
「えっ良いの!? やったー!」
ルカは文字通り飛び上がった。初めての外食である。
きゃあーッ!
その勢いは、鋭い女性の悲鳴で消されることとなった。
宝石商店のすぐ近くの路地に、人だかりができている。女性の悲鳴を聞きつけて集まったのだろう。
「また例の事件か……!?」「なんてひどいの!」
口々に囁く声が聞こえる。
「何かあったのかな」
物々しい雰囲気に、ルカは好奇心がくすぐられたようだった。セスの手を握ったまま人だかりに近付く。異様さに引き留めようと路地へ視線を向け、セスは見えてしまった。
人だかりの中心で、悲鳴を上げた女性の視線の先、──路地に転がっている血濡れの子どもを。
セスの脳裏に回帰前の光景がよぎった。
雪原を赤く染め、無残に転がる仲間たちの姿だ。
「兄ちゃん?」
手を繋いだままセスが立ち止まり、ルカはたたらを踏んだ。兄を振り返って目を見開く。
仰ぎ見た兄の顔が紙のように真っ白だったからだ。
「兄ちゃん! 大丈夫!?」
セスは弟の言葉に自分の不調を理解し、どっと心臓が脈打った。力が入らず、ずるずるとその場にしゃがみ込む。顔を伏せたままなんとか言葉を絞り出した。
「大丈夫……」
「大丈夫じゃないよ! 真っ青じゃん! どうしよう、お医者さんとかどこで呼べば……っ」
ああ、ルカが泣きそうだ。立ち上がらなくては、と力を込めようとするセスの前に、誰かが立ち止まった。
「きみ、どうしたの?」
息が止まる。それはセスが絶対に聞き間違えることのない声だった。
セスは声の人物を仰ぎ見る。
燃えるような赤毛を高く揺らして、白い隊服に身を包んだ女性騎士がそこに居た。太陽のような瞳がセスの顔をじっと見つめている。
「怪しい者じゃない。私は王都騎士団のスカーレット・シエンナ。私に何か、助けることはできるか?」
スカーレット・シエンナ。
回帰前、セスが愛した女性であり、【厄災】との戦いで彼を庇って死んだ人だった。
スカーレットとは北の砦で同じ騎士として出会った。
そして【厄災】との戦いでセスを庇って命を落とした。彼女が回帰前の記憶を持っていないと分かってから、セスはある決意をする。
スカーレットと関わってはいけない。
自己満足だと分かっている。しかし、記憶を持っていない彼女と接してどうなってしまうのか、整理がついていないのである。そう思っていたのに──
「きみ、真っ青じゃないか! 騎士団の詰所に救護用のベッドがある! 連れて行こう!」
「いや、僕は大丈夫……」
「騎士のお姉さん! お願いします!」
ルカがスカーレットに縋る。スカーレットは大きく頷くと、しゃがみ込んでいるセスの膝裏に腕を差し込んだ。そのまま抱え上げられ、頼りになりすぎる腕の中に納められる。
「えっ」
周囲がざわついた。女性の叫び声で集まっていた野次馬たちが、女性騎士に横抱き……所謂お姫様だっこされる長身の男に注目する。黄色い歓声が聞こえた。
セスは思わず弟に助けを求めて手を伸ばした。なんとかスカーレットを止めてほしい。
「る、ルカ」
「大丈夫だよ、兄ちゃん。オレがついてるからね」
頼もしい。そうじゃない。
そう言いたかったが、セスを抱えたスカーレットが走り出したため叶わなかった。こうして彼は、病人を扱うには随分荒いスピードで、騎士団の詰所まで運ばれたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-
月詠来夏
ファンタジー
魔法が当たり前、人間によく似た長寿の生命体は「神」と呼ばれる異世界、「デウスガルテン」。
かつて一つだった世界は複数の「箱庭」という形でバラバラに分かたれてしまい、神も人間も別々に生きている。
物語は、神のみが生きる箱庭「キャッセリア」から始まる。
ユキア・アルシェリアは、若い神の少女でありながら、神と人間が共存する世界を望んでいる。
それは神としては間違いで、失敗作とも役立たずとも揶揄されるような考え方。
彼女は幼い頃に読んだ物語の感動を糧に、理想を追い続けていた。
一方。クリム・クラウツは、特別なオッドアイと白銀の翼を持つ少年の姿をした断罪神。
最高神とともに世界を治める神の一人である彼は、最高神の価値観と在り方に密かな疑問を持っていた。
彼は本心を隠し続け、命令に逆らうことなく断罪の役割を全うしていた。
そんな中、二人に「神隠し事件」という名の転機が訪れる。
ユキアは神隠し事件に巻き込まれ、幼なじみとともに命の危機に陥る。
クリムは最高神から神隠し事件の調査を任され、真実と犯人を求め奔走する。
それは、長く果てしない目的への旅路の始まりに過ぎなかった────。
生まれた年も立場も違う二人の神の視点から、世界が砕けた原因となった謎を追うお話。
世界観、キャラクターについては以下のサイトにまとめてあります↓
https://tsukuyomiraika.wixsite.com/divalega
※ノベルアップ、カクヨムでも掲載しています。
【2023/12/19】
1~3話を約二年ぶりにリライトしました。
以前よりも世界観などがわかりやすくなっていると思いますので、読んでいただければ幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる