照り焼き

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照り焼き

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荒波に揉まれながらなんとか着岸させ、権兵衛は船から大漁の魚を降ろした。

「おおー大漁じゃねぇか!」

港の方から佐助が嬉しそうに走ってくる。

「あれ?八兵衛のやつはどこ行ったんだ?」

佐助が問うと、権兵衛は目からボロボロと涙を流し嗚咽しながら言う。

「嵐の中、船から落ちちまって・・・・」

佐助は察して言葉を失った。
二人はしばらくその場で沈黙する。

「今月でもう三人目だ」

ごんべいは消え入りそうな声で言った。

「ああ、そうだな。もう三ヶ月もお天道様を見てねえな」

権兵衛は天を仰ぎ叫んだ。

「神様ぁ!!どうか怒りを沈めてくれぇ!!!雨が止まねえかえら、作物も育たん!!お願いだぁ!!」

権兵衛の叫びとは裏腹に雨は強さを増していく。

「権兵衛、とりあえず村に戻って魚供えに行こう」

雨が止まず作物は育たず、狩りも思うように上手く行かない。
供えれるものは、命がけで撮った魚くらいしかなかった。

もう2ヶ月雨はやまず、食糧不足も目前になり村人たちの不安も募っていく。

佐助と権兵衛が村に帰ると醤油の香ばしい香りが漂ってくる。
佐助と権兵衛は顔を見合わせ、血相を変え匂いのもとに駆け出した。

二人は愕然とした。

「何してんだ!!こんなに調味料なんか使ってしかも魚まで・・・・。今の状況わかってんのか?食料も調味料も底をつきかけてるんだぞ!!」

佐助は大きな鍋を囲んでいる村人たちに、怒号を飛ばす。

「佐助に、権兵衛!」

と村長が呼びかかる。

「2ヶ月ワシ達は神様にお供物をしてきたが、雨は止まん。このままではこの村は飢餓で全滅じゃ。このまま何もせず全滅するくらいなら、ありったけのごちそうを神様に捧げて機嫌をとる
しかないと判断したんじゃ。」

「だからってそんな・・・・」

佐助は何か言い返したかったが、他の案が思いつかず、言葉が続かなかった。

「村長!!供え物できたぞ、早く供えに行こう」

左兵衛が手に持っていた皿には、焼いたのか煮たのかわからない、茶色で照りのあるタレに包まれた魚が盛られていた。

あまりの美味しさに佐助と権兵衛はゴクリとつばを飲む。

「これなんて料理だ?」

権兵衛は左兵衛に聞いた

「これは大地を照らすという願いを込めて照り焼きと名付けた」

その料理を捧げてしばらくして雨は止んだと言われている。

これが照り焼きのルーツであるかは定かではない。
けれどこういった話があっても面白いだろう。

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