まわる相思に幸いあれ~悪人面の神官貴族と異邦者の彼女~

三加屋 炉寸

文字の大きさ
60 / 139
本編

59:開けた道

しおりを挟む
「わたくし、この一週間二人を見続けていましたが、何の案も思い浮かびませんでした。あなたには何か解決策があるとでも?」

ミレナはノルを睨むようにして言う。先ほどから、鍋島のことを軽く蹴り飛ばしているからだ。そのたびにはじかれてはいるが、いい思いはしない。

「何というか、この悪人面の人も変よね。とても丈夫だけど、ねじりにねじれて逆にまっすぐに見える感じ」

アイシェもノルのことをよく思っていないのだろう。出てくる言葉は素直な感想で毒はないが、不快そうに顔をしかめている。過去と言えども、同じ人を慕うものとしての仲間意識をミレナは感じた。

「そんなもの、あったらとっくにどうにかしている。報告は読んだが、話も聞かせろ。その後どんなことを試してみたか、実践してもらおう。ちょうどよく、そこに二人が居るんだ」

ミレナは反抗したい気持ちでいっぱいだったが、自分一人の力ではどうにもならない。だが、ノルの向ける嘲笑が気に入らない。自分ならまだしも、それを彼に向けているのだ。

「これ以上勇者さまを愚弄し、暴力を振るうのをやめていただきますか?」

立ち上がると満面の笑みで言った。怒りがあまりに大きすぎると逆に笑顔になるのだと、ミレナは今はじめて知った。

「こいつが愚かなのを否定してどうする」

「今、何といいましたか?」

一触即発の状態であった。二人が同時に神々への祈りを捧げた時、ペトルが間に割って入った。

「ストップ、ストップ!仲間同士で戦ってどうするんだい。落ち着いて」

「ミレナと戦ったって、呪いは解けないわよ」

二人に諭されると興ざめしたのか、ノルは珍しく乱暴に席に座り込む。それを真似するようにミレナも正面に座った。

改めてミレナは思った。ノルとは全く馬が合わないと。こんな人と一緒に居たぬいはやはり心が広いのだろうと実感する。

「あのね、ノルベルトはやけに辛らつに見えるけど、これただの嫉妬だから。異邦者ヌイが見てくれないことの苛立ちを向けてるだけ」

ペトルが生暖かい目をノルに向ける。その言葉を聞いた途端ミレナは腑に落ちた。激情にかられることは、嫌と言うほど身に覚えがあるからである。

「なるほど、まだまだ子供ってことね」

アイシェが情けないものを見るような目で言い放った。

「悪いか!?ずっとこの不愉快な光景を見せつけられ……」

開き直ったのか、顔を赤くして言う。怒りと照れが混じっているようだ。

「……すまない。君はもっと長い間見ていたんだった」

話の途中でその事実に気づいたのか、ノルは素直に謝った。全体的に悪役じみてひねくれてはいるが、ぬいはこういうところが気に入ったのだろう。

「だが、あいつは許さない。絶対に元に戻して、殴ってやる」

醜い嫉妬がそこにはあった。ミレナはそれを見て、反面教師にしようと誓った。一歩間違えれば自分もああなっていたに違いない。

全てを受け止め、流してくれたぬいのおかげである。ミレナは心の中で神々に感謝と祈りを捧げた。

「それでは、言われた通り説明いたします」

ノルが不在の間、どんなことが起こったのか、じっくりと話はじめた。



「その、本当に申し訳なかった」

全てを聞き終わったノルはうなだれていた。背を丸め、肘を机につけると手を額に当てている。頭が痛くなってきたのだろう。

「いえ、もう過ぎたことです。そちらはそちらで、色々と行動されていたようですし」

ミレナは末の娘として大事に育てられてきた。だからこそ、自分には言えないような残酷な何かを隠していることは分かっていた。

「だが、聞いてみて一つだけ試してみたいことができた。基本的にこの二人を離すことは困難である。それで間違いはないか?」

「はい、就寝時以外はほぼ一緒に行動しています。話しかけても片方だけが反応することはありません」

「常に世界は二人きり、か。虫唾が走る……なあ、この二人を引き離してみたら、どうなると思う?」

ノルは悪事を企むような顔で言った。

「そう変わらないのでは?役柄に応じたことをしなければ、反応はしないかと思います」

「逆に言えば、きちんと沿えば反応はするということだ。一対一で話をする、やってみる価値はあるかもしれない」

その結果、何も得ずとも邪魔されずに話ができる。その提案は魅力的だった。なによりこれ以上彼らが共にいるのを見ていたくない。

この点でノルとミレナの意見は一致していた。

「いいですね、やってみましょう」

「ああ、君は水晶宮の者としてあいつを呼び出して欲しい。ついでに御業を教えて時間稼ぎをしてくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...