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本編
117:落ち着かない
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ペトルに導かれた場所は、二階席であった。後付けのように突き出たバルコニーのような場所は、ぬいの真上より少し横に位置しており、下手に近づくよりはこちらの方がよほど近いだろう。
「ここは……確かにいい場所だ」
もしぬいが危機に陥ったとしたら、飛び降りればすぐに駆け寄れる位置である。
「うん。だから安心して、ノルベルトはここで見守っているといいよ」
ペトルはその場に置かれている二つの椅子のどちらか座るように促した。机の上にはいつの間に用意されたのか、お茶が置かれている。
もちろんノルはよりぬいが見える方へと腰を下ろした。だがその位置でも見え辛いのか、椅子をできるだけ端にずらすと、満足そうに座りなおした。
「うーん……予想はしていたけど。ひねくれた少年だった君が、見事愛妻家に変貌を遂げたようだね」
ペトルが指摘すると、ノルは振り返りどこか得意げな表情を浮かべ、すぐに首を戻した。
「やっぱり訂正しよう。愛妻家と呼べるほど、落ち着いてはいないね。しいて言えば、はじめての恋人に浮かれる青年だ」
「なんだと」
無視できない言葉を受け、ノルはペトルの方へ向き直る。今度はぬいの方へ戻したりせず、にらみつけている。
「だって、そうじゃないか。君は今まで生きてきて、まともに人に恋したことがない。あ、もちろん異邦者ヌイは除いてだけど」
「は?ふざけるな。僕は……確かにそうだな」
喧嘩態勢になったせいか、つい反論しようとしてしまう。だが、ペトルのことは正しくノルは浮いた腰を下ろした。
「母様と結婚したいけど、父様も好きだしどうしようと。そんな風に悩んでいた子供だったからね」
「おい!ふざけるな!誰がそんなことを……いいか、嘘だろうとなんだろうと。僕の子供の時の話を、ヌイに絶対するんじゃない」
「ははっ、彼女は聞きたいと思うけど、わかったよ。まあ、私は言わないよ」
含みのある言い方だったが、ノルはそれに気づかない。
「で、最も多感な時期は異性に興味を持つ余裕などなく、そして今に至ると」
「その回りくどい言い方はなんだ。なにが言いたい?」
「私の性格もあるけど、貴族間ではよくある言い回しだと思うんだけどねえ。あんまり余裕のなさを出していると、取られてしまうよ」
「ヌイは僕の妻だ!」
ノルは今度こそ立ち上がると、机の上を叩いた。その瞬間、ペトルはお茶がこぼれないようにと持ち上げる。そのタイミングの良さは、ノルの対応に慣れている証であった。
「騒がないって。睨んでるけど、私がとは一言も言ってないからね」
「信じられるか」
吐き捨てるように言うノルに対し、ペトルは困ったような笑みを浮かべる。
「本当だって。ちょっと気になってる子が……いるからね」
「そうか」
ペトルがそう言うと、ノルはすぐに納得して、落ち着いた状態に戻った。
「なんでそこで納得するんだい?」
「君は昔、この先結婚することはないだろうと言った。つまり、それを覆すなにかが起きたということだろう?僕とヌイが出会ったように……で、狙っている奴はどいつだ?」
立ち上がると、身を乗り出して彼女の周りを伺う。しかし、あまりにも人が多く検討もつかない。後ろを向き、ペトルに横に来るように促す。
「あのねえ、ノルベルト。私が言ったのは起こるはずの未来であって。今どうこうというわけではないんだ」
ノルは振り返ると、怪訝な表情をする。
「仮定ではなく、はず、とはどういうことだ?」
「わかってると思うけど、君の妻は貴族受けする性格だ」
ペトルはようやくノルの横に移動する。
「今だって、かなりの好感触みたいだね。この先生きていくにはいいことだと思う。けど、その夫に余裕がないとなると、隙を狙う人は現れるはずだよ」
「人妻に無体を働くなど、不信者にもほどがある」
ノルは眼下の人たちを見下すように言った。
「私たちのような神官貴族だと、なおさらそう感じるよね。でも、そこまで思わない人もいる。伴侶を愛しさえすれば、もう一人に情を向けようが、御業にはなんの影響もないからね」
ペトルはノルの肩を軽く叩いた。
「今後は自分の立ち位置をどうするか、よく考えた方がいい。嫉妬心だけで動くと後悔することになる」
「ここは……確かにいい場所だ」
もしぬいが危機に陥ったとしたら、飛び降りればすぐに駆け寄れる位置である。
「うん。だから安心して、ノルベルトはここで見守っているといいよ」
ペトルはその場に置かれている二つの椅子のどちらか座るように促した。机の上にはいつの間に用意されたのか、お茶が置かれている。
もちろんノルはよりぬいが見える方へと腰を下ろした。だがその位置でも見え辛いのか、椅子をできるだけ端にずらすと、満足そうに座りなおした。
「うーん……予想はしていたけど。ひねくれた少年だった君が、見事愛妻家に変貌を遂げたようだね」
ペトルが指摘すると、ノルは振り返りどこか得意げな表情を浮かべ、すぐに首を戻した。
「やっぱり訂正しよう。愛妻家と呼べるほど、落ち着いてはいないね。しいて言えば、はじめての恋人に浮かれる青年だ」
「なんだと」
無視できない言葉を受け、ノルはペトルの方へ向き直る。今度はぬいの方へ戻したりせず、にらみつけている。
「だって、そうじゃないか。君は今まで生きてきて、まともに人に恋したことがない。あ、もちろん異邦者ヌイは除いてだけど」
「は?ふざけるな。僕は……確かにそうだな」
喧嘩態勢になったせいか、つい反論しようとしてしまう。だが、ペトルのことは正しくノルは浮いた腰を下ろした。
「母様と結婚したいけど、父様も好きだしどうしようと。そんな風に悩んでいた子供だったからね」
「おい!ふざけるな!誰がそんなことを……いいか、嘘だろうとなんだろうと。僕の子供の時の話を、ヌイに絶対するんじゃない」
「ははっ、彼女は聞きたいと思うけど、わかったよ。まあ、私は言わないよ」
含みのある言い方だったが、ノルはそれに気づかない。
「で、最も多感な時期は異性に興味を持つ余裕などなく、そして今に至ると」
「その回りくどい言い方はなんだ。なにが言いたい?」
「私の性格もあるけど、貴族間ではよくある言い回しだと思うんだけどねえ。あんまり余裕のなさを出していると、取られてしまうよ」
「ヌイは僕の妻だ!」
ノルは今度こそ立ち上がると、机の上を叩いた。その瞬間、ペトルはお茶がこぼれないようにと持ち上げる。そのタイミングの良さは、ノルの対応に慣れている証であった。
「騒がないって。睨んでるけど、私がとは一言も言ってないからね」
「信じられるか」
吐き捨てるように言うノルに対し、ペトルは困ったような笑みを浮かべる。
「本当だって。ちょっと気になってる子が……いるからね」
「そうか」
ペトルがそう言うと、ノルはすぐに納得して、落ち着いた状態に戻った。
「なんでそこで納得するんだい?」
「君は昔、この先結婚することはないだろうと言った。つまり、それを覆すなにかが起きたということだろう?僕とヌイが出会ったように……で、狙っている奴はどいつだ?」
立ち上がると、身を乗り出して彼女の周りを伺う。しかし、あまりにも人が多く検討もつかない。後ろを向き、ペトルに横に来るように促す。
「あのねえ、ノルベルト。私が言ったのは起こるはずの未来であって。今どうこうというわけではないんだ」
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「仮定ではなく、はず、とはどういうことだ?」
「わかってると思うけど、君の妻は貴族受けする性格だ」
ペトルはようやくノルの横に移動する。
「今だって、かなりの好感触みたいだね。この先生きていくにはいいことだと思う。けど、その夫に余裕がないとなると、隙を狙う人は現れるはずだよ」
「人妻に無体を働くなど、不信者にもほどがある」
ノルは眼下の人たちを見下すように言った。
「私たちのような神官貴族だと、なおさらそう感じるよね。でも、そこまで思わない人もいる。伴侶を愛しさえすれば、もう一人に情を向けようが、御業にはなんの影響もないからね」
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「今後は自分の立ち位置をどうするか、よく考えた方がいい。嫉妬心だけで動くと後悔することになる」
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