幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

文字の大きさ
7 / 167

物欲サーチ&デストロイ

しおりを挟む
「ただいまライナ。依頼分の薬草を出すね。」

「おぅ、リーファ。おかえりーいぇー!」

「うぇーい!」

私は意気揚々とライナとハイタッチした。するといつも通りグレンが声をかけてくれた。おや、何か持ってるなぁ。何だろ?

「よぅ、今日はどうだったんだ?」

「今日の狩りはさっぱりだったよ、収穫は薬草だけ。ねぇグレン、そのピカピカの防具ってどうしたの?」

「お、気になるか?いいだろ。」

「うん、それ格好良いね。良いなー。」

そういう動きやすい防具って憧れるよー。私なんてただの服だもんなぁ。これじゃちっとも冒険者っぽくないよ。

「じゃあお前試してみるか?おい、ライナ。ちょっとリーファの着装手伝ってやれ。」

「えっ、良いの?」

「リーファ、こっちこっち。」

ライナが手招きしてくれる先に向かうと鏡のある小部屋だった。

「ここを調節して丁度だな。サイドで多段階調節できるから、成長して身体が大きくなっても使えるんだぜ。」

「うわぁ、軽いよライナ。このチェストアーマー、レザーと金属の組み合わせなんだ。チェーンメイルも付いてるんだね。」

「しかも強い衝撃には瞬間的に固くなる特殊なレザーなんだぜ。だから刺突や斬撃にも耐えられるんだ。」

「デザインも可愛いし、欲しいなぁ。」

鏡に映る姿はまさしく冒険者そのものじゃないか。そうだよ、私に足りないのはこれだったんだ。欲しい、絶対欲しい!試着を終えて小部屋の外に出るとグレンと目があった。

「何だ、欲しいのかリーファ?」

むっ、グレンも精神感応のスキルでもあるのか?私の考えが読まれてるじゃないか。

「でも私には手が届かないほどお高いモノなんでしょ?こんな新品、私じゃ買えないよ。」

「まぁ新品価格だと金貨20枚ってところだろうな。」

「げぇ、そんなするのか!無理だぁ。」

値段を聞いてしょげかえった私にグレンがにこやかな顔を見せている。何だろう、グレンの期待通りの反応を見せたってことなのか。貧乏って残酷なんだね。

「だがよぉ、諦めるにゃまだ早いってもんよ。実はここだけの話、これ中古品なんだぜ。」

「え、こんなピカピカなのに?どこをどう見ても新品だよ。あっ、でもよーく見ると小さい傷はあるね。一か所だけか、この程度じゃ新品と変わらないよ。」

「だろ?この俺がすみずみまでキッチリ整備してやったから品質は折り紙つきだ!金貨6枚で売りに出そうかって思ってる。」

何と!金貨6枚?私にもチャンスがめぐって来たってことなのか。ここで逃したら二度と出会えないだろうなぁ。

「うーん、狩りも頑張れば届くかもしれない。」

実際、ライナが持ってきた時はロクな整備がなされぬまま放置されていたのがありありとわかる代物だった。しかし装備の整備を欠かさなかったグレンの手にかかれば古くなった部品の交換・金属部分の磨き上げ・皮革のリファインなどプロ顔負けの腕前でレストアできるのだ。整備費用を上乗せすればどう考えても金貨12枚を下回ることなど無いだろう。前所有者のライナもあまりの変化に目が飛び出るほど驚くレベルだ。グレンは自信をもってリーファに購入をうながして見せた。

「よし、お前が欲しいならお前に譲ってやろう。今ならおまけも付けてやる。」

「本当?」

「ただし、俺からの依頼をこなしてもらうぞ。」

***

「よし、レッドボア三匹とホーンラビット六羽か。やるぞ!」

私は二つ返事で依頼に飛びついた。私をご指名とはグレンもなかなかお目が高いじゃないか。私にはこの子たちがついているし、決して難しい依頼じゃないぞ。

「リーファ様、さっそく」

「ボア?ウサギ?」

「いえ、ホーンブルだそうです。いかがいたしましょう?」

「うーん、外道だけど良いや。お願い、獲って。」

「かしこまりました。」

あれから私たちもいろいろ探し回ったが、お目当てのレッドボアはどこにも見当たらなかった。もう日も暮れかけて来たなぁ。

「いないね。」

「今日に限って見当たりませんな。」

「結局獲物って?」

「ホーンブル二頭とホーンラビット二羽です。」

「くっ、今日買えると思ったのに。」

数日間の設定があるから即失敗とはならないけど残念だなぁ。負けてないのにかなりの敗北感だ。

「レベルも上がりましたし、今日は引き上げましょう。」

「ホーネット=ナイトシーカーとハニービー=トーチねぇ。何ができるの?」

「ナイトシーカーは暗闇での行動能力、トーチは光ります。どちらも夜間やダンジョンでお役立てください。」

「もしかして回復能力とか劇毒は無くなったの?だとしたらもったいないかも。」

「既にご覧の通りパントリーは今でも使えます。」

「あっ、そうだった!」

「以前の能力は進化しても残りますのでご安心あれ。」

このままレベルを上げ続けたら最後は神にでもなるんじゃないか?何でもできるようになっちゃうよ君たち。

「すごい万能蜂。」

「お褒めにあずかり恐縮です。」

「じゃあ帰ろう、バトラー!」

とりあえず明日もあるし、今日は獲物を卸して終わりにしよう。そう気楽に考えていた私だけど、ギルドに戻ってみるとグレンの反応は意外なものだった。

「よりにもよってホーンブルかよ。」

「えへへ、ダメかな?」

まさかウサギは今日中に完納しなければ依頼失敗とか言い出さないよね?

「いや、ダメじゃないんだ。むしろ無類の肉好きどもが集まるギルドの酒場じゃありがてぇもんさ。今晩やつらは金に糸目をつけず高級部位を食いあさるために酒場に殺到するぞ。市中にゃ滅多に出回らねぇからなぁ。おいジャック、例の看板出しとけ。儲かるぞこりゃあ。」

「はい、金貨十九枚と銀貨六枚な。そしてお待ちかねのコイツだよん。」

するとグレンの目配せを受けたライナが報酬とお目当ての防具を持って来た。どういうことだろう。もしかして依頼達成ってこと?

「え、何で?そもそも依頼内容とは全然違うよ。解体すらしてないのにこんな大金や防具までもらって良いの?」

「単純に牛肉の方が美味くて大人気だから圧倒的に高いんだよ。素材だってレッドボアとは比べ物にならんくらい豊富なんだ。むしろ下手な解体されてないだけ高値が付く。依頼だってレッドボアよりも格上を持って来られちゃ、まさか違約金なんてアホなこと言わねぇよ。それこそ逆に依頼主の俺が違約金払ってでも欲しい位だぜ。」

「そうなの?」

「ふふふ、違約金巻き上げちゃいなよリーファ。」

ライナがニヤニヤ笑いながら私に提案してきた。グレンの眉がピクリと反応したみたいだけど大丈夫かな。

「野生のホーンブルはこの辺じゃ本当に珍しい。今は脂が乗ってうめぇからリーファも晩飯に食って行けよ。ライナは食わなくていいぞ。」

「スカーレット、ギルドマスターが私たちにビフテキごちそうしてくれるってさ。」

「ライナ!てめぇ都合の良いデマ流してんじゃねぇよ。」

へぇ、食べたことないからわからないけど美味しいなら食べてみないと。

「ははは、グレンのおすすめなら絶対食べなきゃだね。」

「あら、じゃあ私も今日はリーファと一緒に食べて行くわ。」

横で聞いてたスカーレットがつぶやいた。みんなで楽しい食事なんてのも悪くないよ。
ギルドは夕方から酒場として営業している。夜働いている職員とは全く話したこと無いんだよね。しばらくすると私のテーブルに大きなジョッキを手にした大柄な男が近づいて来た。おお、何か怖いな。

「おめぇが牛獲って来たんだってなぁ。小っせぇのにやるじゃねぇか!おめぇ名前は?」

「リーファ=クルーン。よ・・・、よろしく。」

「俺はガウス=コルドバだ。ガウスでいい。うめぇ肉をありがとよ、リーファ。おかげで酒が進むぜちくしょー!がっはっは。」

何だ、見ために反して気の良いやつだった。今度話しかけてみよう。

「あいつは俺の元パーティーメンバーだった男だ。Bランク冒険者でうちのギルドじゃトップランカーなんだぜ。見ためはアレだが良いやつだから仲良くしてやってくれよ。」

「見ためがアレなのはグレンもだろ、なぁリーファ。」

お酒を飲みながらライナが私と肩を組む。ライナとグレンは本当に仲がいいよね。

「そういえば最初から気になっていたのですが、なぜ我々と同じテーブルで当然のように一緒に食事しているのかなライナ君?てめぇは食わなくていいって言ったろーが!」

「そりゃ自腹で食ってる客に対するもの言いじゃないぞグレン。」

みんなお酒も入っているからワイワイギャーギャー騒いでいる。私も何か楽しくなって来たよ。するとスカーレットが私に声をかけて来た。

「美味しい?」

「うん、こんな美味しいもの今まで食べたことないよ。でもみんなで食事するともっと美味しく感じるね。誘ってくれてありがとう。」

こんなに楽しい時間を過ごせるなんて夢のようだ。冒険者になって正解だったかもしれない。武器と防具も揃えたことだし、明日から冒険できるといいな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...