幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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街道の人さらい

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もの心ついてからこれまで一度だって他の都市に行ったことがない。本当は遠出するのも気が進まないのだ。キシレムへは徒歩だと二日の行程だそうな。エラく遠いので気も遠くなる心地がする。
心が弾まない私に追い討ちをかけるような事態も生じた。長距離を歩くために新調したブーツがまだ馴染まないのか、足にマメができてしまった。

「痛たた。バトラー、回復お願い。」

「いかがでしょうか。」

「最高です。ふぅ、ちょっと休憩。水と塩を摂らないと。はぁ、落ち着く。」

私はブーツを脱いで木陰で大の字になる。このまま街道沿いを延々と歩くのか。キシレムはまだまだ遠いぜ。さてしっかり休んだし、そろそろ行くか。

「くそぅ、馬車が借りられれば楽だったのに。」

「まさか乗合馬車が出払って、貴人用の馬車しか残って無いとはついておりませんでしたなぁ。」

「まったくだよ!キシレムまで無事にたどり着きたきゃ高級馬車を貸し切れとか。片道だけであんな金払えないっての。あのオヤジ足もと見やがってちくしょー。」

道端で地団駄じだんだを踏んでいるとバトラーが何かを察知した。

「おや?」

「どうしたの?」

「この先に何かおりますなぁ。」

「あの集団はなんだろうな。」

何だか妙な奴らだ、カタギではなさそうだぞ。すれ違うの嫌だなぁ。
「バトラー、ディフェンダーとスタンの準備をしておいてくれ。」
「かしこまりました。」
馬を休めている集団の側を通りすぎようとすると、いきなり私の数歩先に小石が飛んで来た。

「おいおい、素通りはねぇだろーよ嬢ちゃん。こっち来いよ。」

「へへへ、仲良くしようぜ。」
「・・・。」
やはり因縁をつけて来るのか、面倒くさいなぁ。運送屋のオヤジにも言われたけど道中に現れる人さらいってやつかもしれない。何かガラの悪い奴らばかりだ。

「おめぇみてぇなガキが一人きりでどこ行くんだよ?」

「キシレムだ、私は先を急いでいる。邪魔をしないでくれ。」

「おいおい、キシレムだとよ。俺たちと一緒じゃねぇか。何なら俺たちが連れてってやってもいいんだぜ。」

「私は一人で十分だ。じゃあな。」

私がそのまま脇を通り過ぎようとすると、それを邪魔するように四人の男が道をふさいだ。

「そりゃあいけねぇや、この先悪い奴らに襲われるかもしれねぇんだぜ。」

「こわーい、ボクちゃん泣いちゃうーうへへへ。」


「まったくだ。悪いこたぁ言わねぇから俺たちがキシレムまで馬車で送り届けてやるよ。」

白々しい、今まさにお前らチンピラに絡まれてるよ。おや、よく見ると鉄格子の付いた馬車が数台あるじゃないか。

「お前ら奴隷商か。」

「あぁ、てめぇにも檻の中に特等席を用意してやっからよ。まぁ乗って行けや。」

「安心安全のキシレム直行便だ。お代は高く付くぜ。」

私を取り囲んだ男たちがさやから剣を抜き始めた。ふーん、どうやら力づくで私を捕らえるつもりらしい。こんな奴らバトラーに任せればなんてことないのは確かだが、まぁ馬車で行った方が早く到着することは間違いない。ここにニコがいれば一気に用件も片付く。大人しく従っておくか、あとで何倍にもふくれ上がらせて返してやろう。覚悟しておけ!

「へっへっへ、見ろよ!こいつのカバンに金が入ってたぜ。」

「一度で二度おいしいってなぁこのことだな。ただでもう一匹奴隷が手に入った。」

くそ、スラムで回収した売却代金をこいつらにかすめ取られるとは。まぁ、こいつも勘定に入れといてやる。

「こんなことしてタダで済むと思ってるのか?衛士に捕まるのがオチだぞ。」

「何だと?聞いたかおめぇら?」

「はあっはっはっは。」

「ひっひっひ、こりゃぁ傑作だ!」

こいつら頭おかしいのか。お前らみたいな犯罪者ふつうに捕まるだろ?

「何がおかしいんだ。」

「何がおかしいかって?おかしいに決まってんだろ。」

「まだこんなガキだ。なんにも世の中っつーもんがわかっちゃいねぇや。」

「どういうことだ?」

「俺たちゃキシレムのアルバーン商会だぞ?キシレムの衛士なんざ商会が食わしてやってるようなもんだ。」

「おめぇみてえなガキが何わめこうが誰も耳貸したりしねぇんだよバーカ。」

「何なら試しにやってみろよ、もれなくきっついお仕置きが待ってるぜ。」

こんな奴らがのさばっていても野放しとはキシレムは相当腐っているようだな。それともグラムスが珍しいのだろうか。いずれにせよグラムス以外の都市に行ったこと無いから判断しようがない。でもこんな不正がまかり通っているならばその影で泣いている人もいっぱいいるはずだ。

「この中にニコはいないか?」

「おい、てめぇ勝手に檻の中でしゃべるんじゃねぇ。次やったらぶっ飛ばすぞ。」

くそが!手錠も足かせも甘んじて受けてやってるってのに腹が立つ。いま吠えたこいつだけでも消してやろうかなぁ。
って、いかんいかん。落ち着け私。ここでセコい騒乱を巻き起こしてもキシレム到着が遅れるだけだ。頭に来るけどここは我慢しよう。すると隣に座っていた猫耳の少女がかすかに聞こえる声で話しかけて来た。

「災難だったね。私はロミア、あなたは?」

「私はリーファ。奴隷として売られた妹を探すために来たんだ。」

「それがあなたの言うニコなのね。どんな子?」

「ロミアと同じ猫耳の亜人なんだ。年は十歳。」

「えっ?あなたは人間じゃない。」

「ああ、正しくは妹分だな。私もニコも孤児だから本当の姉妹じゃないんだ。」

「ニコは幸せだね。助けに来てくれる人がいるんだもん。」

「ロミアはいないのか。」

「うん、私は口減らしのために売られたの。このまま餓死させるくらいなら村から出そうって。」

「そうか。私たちみたいな子供には厳しい世の中だな。」

孤独に耐えて黙って揺られていたらとんでもなく退屈な長旅に感じたことだろう。私は道中で意気投合したロミアとお互いのことを話合った。それは思いのほか楽しく、監獄馬車の旅はあっと言う間に過ぎてしまった。私はロミアに出会えたことを感謝する。徒歩だと二日かかる行程だったが、馬車のおかげでその日の夜にはキシレムに到着した。
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