幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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冒険者たちの休息

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「こりゃあモンスター分布報告は役に立たないってこったな。」

「だが地図はあるんだ。今は先を急ぐしか・・・」

「だとしても救難隊はもう限界だ。ここで一度仮眠を」

「待ってくれ。まだ・・・せめて24階層まで」

「命綱の回復術師が消耗している・・・もちろん他のヤツらもだ。こらえてくれ、ガウス。」

「・・・はぁぁ。」

ガウスはやり場の無い焦燥感を持て余すように大きなため息をついた。誰が悪いわけでもない、みな全力を振り絞ってここまでたどり着いたのだ。分隊を指揮してきたガウスが何よりもその事を理解していた。

「さすがに襲撃続きだとしんどいねぇ。」

「アタシも魔力がもうスッカラカンだ。さっきから眠くってしょうがねえよ。」

「私ももう足がガクガク。ボウガンが鉛のように重く感じるよぅ。」

リーファ、シンディー、ティナは肩を寄せ合ってぐったりと地面に腰をついていた。スアレス率いる遊撃部隊も要所要所で良い仕事をして来た、その結果がこの疲労困憊なのだ。
すると首脳陣の話し合いが終わったのかグレンが全員に聞こえる大きな声で語りかける。

「聞いてくれ!ここで4時間の仮眠をとってもらう。一度の休憩も無く、21階層までよく持ちこたえてくれた。一切戦闘に参加しない見張り専属要員を連れて来ているので、心置きなく眠ってくれ!」

たしかにここ21階層は開けた平原となっており、周囲の警戒も容易ではある。そしてこれだけ平らな土地があるってことは・・・。

「じゃあアレを使うとするか、バトラー。」

「いまご用意いたします。」

「何じゃこりゃ?」

「建物?地面から生えた・・・わけあるか!」

私が今回の救難のためにバトラーに作ってもらったシェルターだ。まだ出番は無いけど他にも少人数用のシェルターだってある。さすがに何があるかわからない以上は準備をおこたるもんじゃないよなぁ。

「じゃあこのシェルターで休んでくれよ。私たちのベッドしか無いけど、全員入るだけの広さはあるからさぁ。」

「リーファ、こんなことまでできるのか・・・。ふふ、まさかダンジョンで屋根と壁のある空間で休めるなんて思わなかったよ。実にありがたい。」

「ちなみにリアンには予備ベッドを用意してあります。」

「何と!」

思わぬ幸運に見舞われたかのようにリアンが嬉しそうな顔をしている。他のみんなには申し訳ないけど、リアンの火力は救難隊の頼みの綱でもあるからこれは理由の無い措置ではありません。決してえこひいきなどでは・・・。

「内部は・・・おい水の魔石装置まであるぞ。これ俺たちも使って良いのか?」

「あぁ良いよ。好きに飲んでくれてかまわない。」

「いよっしゃー!こりゃくつろげるぜ。」

板の間で雑魚寝だけど冒険者たちは予想よりもはるかに喜んでいる。まぁ野外と室内では安心感も全然違うよね。外もしっかり警戒してもらってるし。

「さて私たちは向こうの寝室で休もう。」

「そうだな。」

広間の奥にある扉を開けると、そこはベッドが4つ並んでいる部屋だった。へとへとだったティナが一目散にベッドに飛び込んで布団をかぶる。

「ふわぁ、もうベッドに溶けちゃう・・・ぐぅ・・・ぐぅ」

「はやっ!ティナのヤツ、もう寝ちまった。アタシも早く寝よ。たった4時間だかんな。」

「では私も失礼して・・・。」

バトラーたちもしっかり今のうちに身体を休めておいてね。見張りは他の冒険者がやってくれるから見張りも要らないよ。

「かしこまりました。おやすみなさいませ、リーファさま。」

***

<コンコン>

部屋の扉をノックする音でみな目を覚ました。

「10分後に外に集合だ!起きてるか、お前ら?」

「なに、もう4時間経ったの・・・幸せな時間が過ぎるのって早いんだね。」

「あいよー!うーん、まだ寝ていたいけど・・・起きるか。寝足りないけど、十分疲れは取れた気はするぜ。」

「こんなに快適な冒険をさせてもらえるとは思わなかった。では名残惜しいが・・・ん、リーファ?」

「起きなよリーファ。」

「みゅ?あと5分・・・。」

「もうシャキッとしろや・・・ったく。」

「ほえ?あぁ・・・もう出発かぁ。ふわぁぁぁ」

私はシンディーに上半身を抱え起こされて、意識がハッキリとした。そういえばダンジョンの途中なんだっけか。
準備を済ませて扉を開けると、板の間で雑魚寝だったにも関わらずスッキリとリフレッシュした冒険者たちが晴れやかな顔をしていた。冒険中にこんな休息など考えられないほど贅沢なことらしい。

「あぁよく寝たぜ!この安心感はたまんねぇなぁ。気分爽快だ!」

「安心して水が飲めるのも良い。お前らも革袋に水を満載しとけ。ダンジョンできれいな水がいつでも補給できるなんて期待するなよ。今のうちだけだ!」

「それな。」

「お前らいつもこうなのか?こんな環境で冒険できるなんざ正直うらやまし過ぎるぜ。」

見ると周りの冒険者もこくこくとうなづいている。話しかけられたティナが微妙な顔をしながら受け答えした。

「え?私もこんなの今回が始めてだよ。野営なんていっつも虫に刺されてぐっすり眠った記憶なんて無いし。天幕だって使いたかったけど、ポーター雇う余裕なんて無かったもん。」

「はっはっは、そりゃちげぇねぇ!俺も寝てる時に毒蛇に咬まれて死にそうになったことがあらぁな。お嬢ちゃんも苦労したみてぇだ、親近感がわくぜ。」

そりゃそうか。ティナも数年の冒険者歴があるが、あんたたちと同じ苦労をしてきたはずだからね。それにしても寝てる時に毒蛇なんて強烈だなぁ。絶対にシェルターを使うようにしなきゃね。
全員が外に出たことを確認し、私はシェルターをパントリーに撤収した。

「はぁ・・・本当にあの立派な建物が消えちまった。俺・・・まだ夢の中ってこたぁないよなぁ。」

「よし、良い面構えだ!あともう少しで24階層だ、気を引き締めて行くぞ!」

<オオォッ!>

「モンスターからもこれだけの冒険者に奇襲を仕掛ける余地は無いだろう。平野だからよほどの大群でかかって来ない限り返り討ちになるからなぁ。」

「お前そんな不吉なこと言うんじゃねぇよ。本当にそうなったらどうする。」

「ははは、そんな馬鹿な話があってたまるかよ。」

「おい・・・後ろを見てみろ。」

「何だよ、驚かそうったってダメだ・・・何だありゃ?」

「敵だ!トロル、オーク、サイクロプス・・・オーガも?大型モンスター以外にもいっぱい迫って来ているぞ。」

「マズい!あんな数を相手にしていられるか。22階層の入り口まで走れ!ムーヴ!ムーヴ!」

「後方から敵襲!走れ!」

「げぇっ、やべぇ!転ぶなよティナ!」

「なによシンディー。私だって足が速いんだから追いつかれるヘマなんてしないよ!」

「4時間を超えて休息してたらアイツらにぶっ潰されてたなぁ。何て恐ろしい場所なんだ!」

幸せな時間も一つ間違えば一転地獄に落とされる、私はダンジョンの恐ろしさを身をもって理解した。
モンスターの分布が変化し、状況が不安定化している。にも関わらず死者の一人も無くここまで来ることができたのは、グレンやガウスのような歴戦の勇士の指揮があってこそなのだろう。
困難ではあるが彼らのようなリーダーがいれば不可能だとは思わない。必ずマキアスたちを救出して全員で地上に帰るんだ。
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